
ピアノ・トランスクリプションの世界
〔J.S.バッハ=グノー:アヴェ・マリア,シューマン=リスト:献呈,春の夜,モーツァルト=福間:アイネ・クライネ・ナハトムジーク,ワーグナー=福間:トリスタンとイゾルデ~前奏曲とイゾルデの愛の死,ドビュッシー=ボーウィック:牧神の午後への前奏曲, チャイコフスキー=タネーエフ:くるみ割り人形~花のワルツ,福間洸太朗:シャンソン・メドレー他〕
福間洸太朗(p)
〈録音:2026年1月〉
[ナクソス(D)NYCC27316]
※2026年6月19日発売予定
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文=道下 京子 (音楽評論)
独自の編曲・構成により新たな音楽の世界が広がる
福間洸太朗は、2024年に日本デビュー20周年を迎え、国内外で多彩な活動を展開している。6月19 日には、アルバム「ピアノ・トランスクリプションの世界」をリリース。歌曲や室内楽、オペラ、バレエなど、様々なジャンルの音楽を1台のピアノで表現できるように編曲された作品に、福間は光を当てた。有名なメロディが収められている点は、このアルバムの特徴のひとつだ。
アルバム冒頭は、有名なJ.S.バッハ=グノー《アヴェ・マリア》のフレミンクス編曲版。原作のハ長調からト長調に移調されることで得られる清々しさ、そして福間の指から紡ぎ出されるクリスタルのような輝きに満ちた美しいサウンドは、聴く者の心にしみわたる。
このアルバムには、福間自身が手掛けた編曲作品も収録。彼自身のイメージする音世界が描き出されている。その一つが、モーツァルトの《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》(全4楽章)だ。ジンガーによる編曲版に「音を書き足した」その音楽は、原曲の魅力を保ちつつ、福間ならではの感性が発揮され、ふくよかな響きと艶やかな音の色彩が示されている。
アルバムの曲順にも、福間への想いが込められている。ワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》第1幕前奏曲について、福間は「リスト編〈イゾルデの愛の死〉につなげるという前提で、リスト的な手法でこれを編曲した」と語る。彼は、その原作をドラマティックに編み直している。
ワーグナーのあとには、ドビュッシー《牧神の午後への前奏曲》(ボーウィック編)が続く。ドビュッシーはバイロイトで《トリスタンとイゾルデ》を観ているが、福間によると、「(ドビュッシーはワーグナーに)少なからず影響を受けているように感じる」と述べている。
アルバムを締めくくるのは、福間による《ピアノのためのシャンソン・メドレー》。〈恋は水色〉や〈マイウェイ〉など広く愛されている10曲のメロディが用いられ、福間の情熱的なアレンジによる〈愛の賛歌〉でメドレーを閉じる。福間ファンにはたまらない1曲だろう。
ブックレットも福間がすべて手掛けており、編曲の施されている部分の説明や聴きどころなど、わかりやすく著している。彼の明晰な解説にも、ぜひ注目していただきたい。
協力:ナクソス・ジャパン
