
文=伊熊よし子 (音楽ジャーナリスト)
ピアノ音楽としての確かな存在感。普遍的な久石譲の魅力
ミニマル・ミュージックの旗手として登場し、やがて宮崎駿、北野武と組んでアニメーションや映画音楽を手がけ、いまや欧米各地の著名なオーケストラを指揮してツアーを行っている久石譲。作曲家として、また指揮者として常に新たなサウンドワールドを探求し、自身の夢を実践に移している。しかし、インタビューでは「私は、本業はあくまでも作曲家なんですよ」と語る。オーケストラを指揮するときも、「オーケストラが新しい音楽を奏でるところでないと興味がありません。自分のスタイルを受け入れてもらえるかどうかが鍵で、従来のクラシックをリクリエイトする――見直し、進化させる――そういう姿勢を受け入れてくれるかどうかが重要なポイントですね」という。
そんな久石譲が作曲し、アニメーションや映画音楽の世界に斬新かつ強烈な印象を吹き込んだ作品の数々を、ピアノで奏でるアルバムがリリースされた。ピアニストはイタリア・コモ出身のフィアメッタ・コルヴィ。洗練された情感あふれる響きの持ち主で、アルド・チッコリーニ、パウル・バドゥラ=スコダをはじめとする名ピアニスト、名教授に師事し、いまやその教えを後進の指導にも生かしている。「ピアノ愛」の強い音楽家である。
アルバムには、『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『となりのトトロ』『もののけ姫』をはじめとするスタジオジブリ作品の楽曲から、北野武監督作品の音楽、さらには長野パラリンピック(1998年)のテーマ曲《旅立ちの時》まで収録。久石ワールドが全編に息づき、絶妙なピアノ編曲に支えられながら、純粋なピアノ音楽としてじっくりと味わうことができる。ひとつひとつの曲からは映像が浮かび上がり、久石譲の作曲技法の妙を存分に堪能できる。旋律の使い方、リズム表現、和声、主題の反復などがピアノによってシンプルに紡がれることで、楽曲本来の美質が鮮やかに浮かび上がる。思わずピアノの楽譜を手に取りたくなるほどだ。
このアルバムは、久石譲の音楽世界の新たな一面を浮き彫りにしている。映画音楽やアニメ音楽としてだけでなく、ピアノ音楽としても確かな存在感を放っているからだ。フィアメッタ・コルヴィの繊細かつ豊かな表現によって、久石譲の作品は新たな輝きを獲得し、その創作の本質をあらためて聴き手に伝えてくれる。
協力:東京エムプラス
