最新盤レビュー

デビュー20周年、満を持しての
オール・ショパン・プログラム

ディスク情報

「ショパンの想い出」
〔ショパン:ワルツ第1番 変ホ長調《華麗なる大円舞曲》Op.18、バラード第1番 ト短調Op.23、ノクターン第2番 変ホ長調Op.9-2、ポロネーズ第6番 変イ長調《英雄》Op.53、幻想曲 ヘ短調Op.49、ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調《葬送》Op.35、ポロネーズ第7番 変イ長調《幻想》Op.61、ノクターン第20番 嬰ハ短調Op. Posth〕
福間洸太朗(p)
〈録音:2024年2月〉
[ナクソス(D)NYCC27315]
2,970円

○CD特典
別冊ブックレット「Souvenirs de Kotaro Fukuma」(取材・文:高坂はる香)
○デジタルアルバム特典
・ボーナストラック(デジタルアルバム共通)
ワルツ第6番 変ニ長調《子犬のワルツ》Op.64-1、ワルツ第8番 変イ長調Op.64-3、ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 Op. 21~第2楽章(C.ライネッケ編)
・ボーナストラック(Apple Music限定)
前奏曲第25番 嬰ハ短調Op.45、ワルツ第7番 嬰ハ短調Op.64-2

さらなる進化を遂げていく
ピアニズムを最大限に味わう

輝くような響きに包まれた美しい音色、自然なフレージング、そして精緻な技巧によって作品の本質を丁寧に伝えてくれるピアニストの福間洸太朗。デビュー20周年を迎えた彼の新譜はオール・ショパン・プログラム。幼少期から愛奏し、「一番大好きな作曲家」とも語るショパンの作品は音色の美しさと無駄のないなめらかな演奏が求められるものであり、福間のピアニズムと非常に相性がいい。今回選ばれたのは《バラード第1番》以外全てが初録音の楽曲。以前「どうしても入れたかった」と語ってくれたソナタ第2番《葬送》、《幻想》と《英雄》ポロネーズが核となり、ワルツや夜想曲といった小品がバランス良く配置されている。

《葬送》ソナタは技巧的にはもちろん、特殊な形式と曲想も相まってとらえどころのなさをもつ演奏至難な楽曲。福間は明晰なタッチで息長く旋律線を捉え、ニュアンスの微細な変化を駆使することで楽曲を立体的に構築。幻想的な雰囲気は湛えつつも、雄弁に語る演奏を届けてくれている。これは《幻想》ポロネーズでも同様で、ポロネーズのリズムにのって常にゆらぎ続ける情景や精神状態を恐ろしいほどの集中力で描き出している。一方で《英雄》ポロネーズでの華麗なタッチと力強い歩み、スケールの大きな音楽づくりではまた違った魅力を聴かせてくれており、福間のテクニックの確かさ、表現力の幅広さを示している。

《バラード第1番》と幻想曲では音色と音量のコントラスト、自然でありながら細やかにコントロールされたルバートを活かし、語るように、そして歌うように演奏を展開。説得力ある音楽を生み出す福間ならではの魅力が存分に発揮されている。小品では福間やショパン自身が放つ雰囲気がそのまま表れたかのような優雅さが漂っており、場面転換の鮮やかさも印象深い。

20周年という節目を迎え、さらなる進化を遂げていく福間のピアニズムを最大限に味わうことのできるアルバムといえるだろう。

長井進之介 (ピアニスト・音楽ライター)
協力:ナクソス・ジャパン(株)

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