
インタビュー・文=山崎浩太郎(演奏史譚)
撮影=ヒダキトモコ
取材協力=ソニー・ミュージック
演奏活動40周年とベートーヴェン没後200年が重なる2027年に向けて、年2回のコンサート・シリーズ「The Road to 2027」を進行中のピアニスト、仲道郁代。1回ごとに設けた独自のテーマに沿い、バッハからシェーンベルクまでのピアノ音楽の歴史を横断してゆくこのプロジェクトのなかから、2022年10月に東京文化会館小ホールで行なわれた「前奏曲~永遠への兆し」のライヴ録音が、アルバムとしてリリースされた。ドビュッシーとラフマニノフの前奏曲を取りあげたこのアルバムについて、仲道さんにお話をうかがった。

前奏曲~永遠への兆し
〔ドビュッシー:前奏曲集第2巻(全12曲),ラフマニノフ:前奏曲集Op.23,Op.32より,前奏曲〈鐘〉Op.3-2〕
仲道郁代(p)
〈録音:2022年10月29日(L)〉
[RCA(D)SICC19100]SACDハイブリッド
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一瞬の中に永遠を探す――二人の作曲家が描いた前奏曲
――まずは、『永遠への兆し』というタイトルをつけた理由をお話しください。
仲道 ドビュッシーの前奏曲は、その一瞬の空気をとどめたい、その一瞬の中に永遠を探すような作品。ラフマニノフは永遠へと続いていく何かを、音にしている作品。どちらも、組曲などでの、次に来る音楽のための前奏曲ではなくて。いわば永遠のための前奏曲だと思うんです。
今回、こうしてアルバムとして聴いて、一瞬を永遠にすることは、やっぱりできないんだということを感じました。永遠というのは続かないんだと、その哀しみを知っていて弾いていると思いました。永遠というのは、人間の幻想でしかないかもしれない。でも、そこを求めずにはいられない。だからこそ、永遠をその音にとどめたいといろいろな作曲家たちが、独自の手法をもちいて描いているのではないでしょうか。
――そのなかから、ドビュッシーとラフマニノフを選ばれた。ドビュッシーの前奏曲集は既発売の第1巻(SICC19053)に続く第2巻ですが、ラフマニノフを組み合わされたのはなぜですか?
仲道 ラフマニノフは、これまで私のレパートリーになかったんです。私は体が小さいので、ラフマニノフのコンチェルトも弾きません。いままで弾いていない作曲家も含めて、10年分のプログラムとして自分へ課した「The Road to 2027」シリーズだからこそ入ったんです。ラフマニノフの作品を録音として残すことが私の人生にあるとは……、というほどなんですが(笑)
2018年からのこのシリーズのプログラムとタイトルは、始まる前に全部決めてあったんですが、ドビュッシーとショパンを合わせてもよかったのに、なぜラフマニノフを選んだのかは、もう覚えてないんです(笑)。でもそのときに「永遠への兆し」とタイトルをつけてますから、永遠をキーワードに、ドビュッシーとは違う永遠を、とそのとき考えたんだろうと思います。

仲道郁代 Ikuyo Nakamichi
ピアニスト。第51回日本音楽コンクール第1位、ジュネーヴ国際音楽コンクール最高位、エリザベート王妃国際音楽コンクール入賞。以後ヨーロッパと日本で本格的な演奏活動を開始。2018年よりベートーヴェン没後200周年の2027年に向けて「仲道郁代The Road to 2027」をスタートし、リサイタル・シリーズを展開中。現在、ソニー・ミュージック・レーベルズと専属契約を結び、多数のショパン作品をはじめ、レコード・アカデミー賞受賞CDを含む「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集」や、「モーツァルト:ピアノ・ソナタ全集」、「シューマン:ファンタジー」、古楽器での録音など多数リリースしている。一般社団法人音楽がヒラク未来代表理事、一般財団法人地域創造理事、桐朋学園大学教授、大阪音楽大学特任教授。
https://ikuyo-nakamichi.com/
ライヴ録音がアルバムになるまで
――そしてこれは、先に触れた前奏曲集第1巻を含むアルバム「ドビュッシーの見たもの」に続く、「The Road to 2027」シリーズでのライヴ録音ですね。
仲道 このシリーズは私の記録として、すべてマイクを立てて録っていただいてるんです。あくまで記録用なのですが、「ドビュッシーの見たもの」はコロナ禍の2020年10月の録音で、ホールにお客様を半分しか入れられない状況だったので、1日に2回公演したんです。リハーサルと本番2回、計3回録音しているので、編集してCDにできることになりました。
今回もCDにしようと思っていたわけではなく、リハーサルと本番だけで2回しかテイクがない。でも聴いてみたら私なりのラフマニノフの世界がある。これも残せたら嬉しいな、と思いました。ラフマニノフは、10曲で一つのストーリーになるように構成したので、演奏した全曲を含めることができてよかったと思います。
新しいCFXが引き出した、多彩な音色と響き
――アルバムにして残したいと思われた理由は、具体的にはどのようなものですか?
仲道 この録音の半年前の2022年4月に、ヤマハのCFXの新しいモデルが出たんです。この録音の時に使用した楽器はハンマーもすごく状態が良くて、空気のような音、非常に弾力のある音、硬質な音と、とてもレンジが広い。録音で聴いてみたら、「ドビュッシーがこんな音をしていたんだ」ととても嬉しかった。ラフマニノフも、ベースのピアノの鳴りがすごい。楽器がとても高い状態での公演です。ハンマーと弦の状態がすごく良くないとなかなか出せない、フェルトの綿が弦にこすれた感じの音、空気感が、特にドビュッシーで聴くことができるので、ピアノ・マニアの方にはぜひ聴いていただきたいです(笑)。
私は、基本的にはセッション録音が好きな人なんですが、ドビュッシーでは、お客様の気配を感じて、次の音をこういう音で出すとか、そのタイミングや音の種類は、お聴きくださる人ありきのことと思います。ラフマニノフでもお客様とともに気持ちが高揚して弾いていくことがよかったと思います。すべての音をすべてクリアに、楽譜のままに演奏したら、ラフマニノフのある部分が削がれることもあると思いますので。
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このアルバムが録音された2022年は、ロシアがウクライナに侵攻を開始した年でもあった。その年の秋にロシアの作品、ロシア人が特別な思いを寄せる鐘の響きに触発されたラフマニノフの前奏曲を演奏するように、何年も前に選んでいたことに、不思議な偶然を感じるという仲道さん。過去の名作が現代の状況とマッチして、現代人にも訴えかけてくる。時代の空気感も含めての「永遠への兆し」。心に残るアルバムである。

公演情報
仲道郁代 ピアノ・リサイタル「組曲 ~調和と心慮~」
日時: 2026年10月31日(土)14:00開演(13:30開場)
会場: 浜離宮朝日ホール
曲目:J.S.バッハ:パルティータ第1番,ラヴェル:クープランの墓,J.S.バッハ:イタリア協奏曲,J.S.バッハ:パルティータ第2番,グリーグ:組曲《ホルベアの時代より》
料金: S席8,000円、A席7,000円(全席指定・税込)
お問い合わせ: ジャパン・アーツぴあ 0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2236/


