
厖大なレパートリーに、前人未踏の巨大な業績
今年は「不世出の」大歌手ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの生誕100周年。それを記念して「レコード芸術ONLINE」では、毎週金曜日午後に連載『週刊フィッシャー=ディースカウ』(文=吉田真氏)を配信していますが(最新回:第42回)、今回はその「臨時増刊」として、旧『レコード芸術』1988年2月号「今月のアーティスト」コーナーに掲載された、フィッシャー=ディースカウ(以下DFD)へのインタヴューをお届けします。聞き手は現「レコ芸ONLINE」新譜月評レギュラー執筆者の喜多尾道冬氏(ドイツ文学)。当時の旧「レコ芸」全6ページに及ぶ、長大な記事のテキスト全文を以下に復刻いたします。
取材・構成・文=喜多尾道冬
ひと昔前まではあまり顧みられなかったドイツ・リートという渋いジャンル(だがとても素晴らしく美しいのだが)に、とてつもない大仕事を成し遂げたフィッシャー=ディースカウ! その芸術の完成度の高さは、今世紀を代表する大芸術家の一人と言っても過言ではなかろう。今回はそのフィッシャー=ディースカウ(以下DFD)の遺した厖大な歌曲の録音について、インタヴューを試みた。
「すぐれた作品には、いずれの場合も
完璧な演奏は望めません」
昨年(1987年)秋、おそらく日本での最後の演奏になるだろうといわれた、DFDの来日公演に際し、同氏にインタヴューする機会をえた。不世出の大歌手DFDは、1925年ベルリンに生まれ、戦後バリトン歌手として頭角をあらわし、とくにリートの分野で曲の明晰で緻密な解釈と、厖大なレパートリーで前人未踏の巨大な業績をあげ、60歳を越えたいまもなお旺盛な録音・演奏活動を行ない、これまでにない新しいレパートリーを開拓しつつある。しかもそのうちどれひとつとして不出来なレコードはないという驚異的な質の高さを誇っている。今回はとくにDFDのこれまでに残したマイルストーンとなるレコード、伴奏者の選び方、今後の録音計画、さらにライヴとスタジオ録音のちがいなど、めずらしい数々のエピソードを交えながら、レコード録音を中心に語ってもらった。
――今日はとくにリートのレコードについて集中的におたずねさせていただきたいと思います。 フィッシャー=ディースカウさんは、1954年にジェラルド・ムーアとあの画期的な《冬の旅》を録音なさいましたが、それ以前にライヴ録音(1948年、クラウス・ビリング伴奏)の《冬の旅》がありますね。
DFD あれはライヴではなく、放送録音です。1曲ずつ録音し、1回目はノイズが入って、もう一度全曲の取り直しをしなければなりませんでした。あのころはまだいまほどテープの質はよくなかったのですね。
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