
ストラヴィンスキー:バレエ音楽《火の鳥》[1910年版](付・サイモン・ラトル、《火の鳥》を語る)
サイモン・ラトル指揮バイエルン放送so
〈録音:2025年11月(L)〉
[BR Klassik(D)NYCX10619]
10月23日 発売予定
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文=相場 ひろ(フランス文学)
現代の “スーパーオーケストラ” を、端正にシャープにドライヴ
サイモン・ラトルは1987年にバーミンガム市交響楽団とストラヴィンスキー《火の鳥》全曲版を初めて録音し、さらに2017年にロンドン交響楽団と2度目の録音をライヴで行なっていた。したがって今回リリースされたバイエルン放送交響楽団との共演は彼にとって3度目の録音となる。2025年11月3日~8日、ミュンヘンでライヴ収録された。
バーミンガム市響との第1回録音は(旧)EMIへのストラヴィンスキー三大バレエ録音の一環として制作された。これは色彩という点でいささか淡泊なオーケストラを相手としつつ、リズムのよさとフレーズの切れ味の鮮やかさを全編に一貫させて、スリリングな聴きものとしていた。他方、ロンドン響盤はラトルが長年あたためていたという、三大バレエすべてをひと晩で演奏するという企画の記録である。その1曲目に置かれた《火の鳥》は、冒頭いくぶん余力を残して、おとなし目に開始しつつ、次第にダイナミクスの幅を広げていき、後半は力強い高揚を描き出すスケールの大きさが感銘を与えてくれた。またここでは、機能性や柔軟性に優れたロンドン響の合奏のストラヴィンスキーとの相性のよさも、演奏の成功に大きく貢献していたように思う。
当盤でラトルと共演するバイエルン放送響は、ロンドン響と比べるとはるかに強い個性を持つオーケストラだ。合奏力においては現代のトップクラスといっていい一方で、魅力的で独自のサウンドを誇る。弦楽器は艶めきすぎることなく豊かな響きを持ち、管楽器陣はそれぞれが実に輪郭のはっきりとした、主張の強い音色を持っている。また〈イワン王子の不意の登場〉でのホルン独奏や〈子守歌〉でのファゴット独奏に顕著なように、歌い回しに時としてロマンティックな表現が顔を出すのは、独墺系の楽団ならではと言うべきか。そうしたオーケストラを相手にして、ラトルは彼らしい端正で切れのよいリズムを徹底して、足どりをけっしてもたつかせることなく、心地よく、それでいて浮つくことのない流れを音楽に与えていく。その一方で、短い楽句をシャープなアクセントとして打ち込み、メリハリのよい音響に仕立てていく手際のよさも健在で、〈黄金の果実とたわむれる王女たち〉の小気味よい楽句の応酬などは聴きものと言えるだろう。また豊かな情趣をたたえた〈王女たちのロンド〉を経て、〈夜明け〉以降ではテンポの動きや旋律の歌い口に巧みに緩急を持ち込み、かつ音色の交替をシャープに保って、いささかもダレることなく大団円まで音楽を導き、たっぷりとした聴き応えを感じさせてくれるのも見事と言える。
なおディスクには音楽の後にラトルのトークが収録されていて、この曲の難しさと面白さを語ってくれているのも貴重である。(国内仕様盤には音声の日本語訳テクストが収録される)。
協力:ナクソス・ジャパン
