最新盤レビュー

リイシュー注目盤(1月)

ここでは、最近発売されたリイシュー盤のなかから注目盤を厳選して紹介します。

カラヤンの《ラ・ボエーム》がSACDで復刻

カラヤン、フレーニ、パヴァロッティによる不滅の名盤《ラ・ボエーム》が、オリジナル・マスターテープからの192kHz/24bitリマスタリングによるSACDハイブリッド盤で登場した。当録音は以前エソテリックから「グランド4オペラズ」としてSACDで発売されたことがあるが、本家ユニバーサルからは待望の初SACD化となる。声楽の伸びやかさは従来のCD盤を大きく上回り、オーケストラも充実した低音を土台にシンフォニックな響きを展開して存在感抜群だが、あえてオーケストラにベルリン・フィルを起用したカラヤンの意図がSACD盤によってより明瞭になったと言えるかもしれない。LPサイズのリネン貼りのスリップケースに収められ、秘蔵写真など充実したライナーノーツも付属し、“コレクターズ・アイテム”としても、これ以上望めないほどの豪華仕様となっている。なお、同じリマスタリングによるLP盤も同時発売されている。(M.K.)

プッチーニ:歌劇《ラ・ボエーム》全曲

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリンpo,ベルリン・ドイツ・オペラcho,ミレッラ・フレーニ,エリザベス・ハーウッド(S)ルチアーノ・パヴァロッティ(T)ローランド・パネライ(Br)ニコライ・ギャウロフ(Bs)他
〈録音:1972年10月〉
[Decca(S)487503(2枚組,海外盤)]SACDハイブリッド

フルトヴェングラー「スカラ座の指環」
SACDハイブリッド盤 “アンコール” リリース

周知の通り、フルトヴェングラーには2種(1950年ミラノ・スカラ座、1953年ローマRAI)の《ニーベルングの指環》全曲(ライヴ)録音が遺されているが、2016年に初SACD化された「スカラ座」の方が昨年末、再発売された。この「スカラ座の指環」は、多くの賛辞とともに、様々な形で繰り返し復刻されてきた文字通り「伝説」の名盤、その演奏の素晴らしさについてはもはや多言は要しないだろう。そこで「レコ芸」的聴きどころとして歌唱陣に関して一言だけ。フラグスタートのブリュンヒルデ、スヴァンホルム/ローレンツのジークフリート(フランツのヴォータンは1953年盤と共通)など、それぞれの名歌手の “最後の輝き” とも言える名唱が刻み込まれている当盤、さらなる隠れた聴き物として、アロイス・ペルナーストルファーのアルベリヒとペーター・マルクヴォルトのミーメを挙げる。《ラインの黄金》《ジークフリート》の各冒頭に注目(耳)。 (Y.F.)

ワーグナー:楽劇《ニーベルングの指環》全曲〔ラインの黄金,ワルキューレ,ジークフリート,神々の黄昏〕

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ミラノ・スカラ座o,同cho,キルステン・フラグスタート,ヒルデ・コネツニ(S)セット・スヴァンホルム,マックス・ロレンツ,ギュンター・トレプトウ(T)フェルディナント・フランツ,アロイス・ペルナーストルファー(Br)ルートヴィヒ・ヴェーバー(Bs)
〈録音:1950年〉
[キングインターナショナル(M)TKRING1~13]SACDハイブリッド13枚組

フルトヴェングラーの名演奏の数々が
「ダイレクト・トランスファー」で蘇る!

ファンにはお馴染みの、1926年~1950年のフルトヴェングラーの名録音の数々が「ダイレクト・トランスファーシリーズ」に登場。メーカーの説明によると、細かい内声やニュアンスがより明瞭に聴こえる復刻とのことで、フルトヴェングラーの芸術・音楽作りを語る上で、新たな音素材が提供された形だ。有名な1938年ドイツ・エレクトローラ録音のチャイコフスキー《悲愴》を筆頭に、1947年メニューインとのベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲、1950年のシューベルト《未完成》まで、“針音”の向こうから聴こえてくる音楽に今あらためて耳を傾けてみると、これまでのフルトヴェングラーの昭和的(?)イメージが一新され、端正な演奏ぶりにちょっと驚かされたりもする。モーツァルト《グラン・パルティータ》など、80年近くも前の録音とは信じがたいモダンで清澄な音楽ではないか。 (Y.F.)

フルトヴェングラー Polydor/HMV録音集
〔チャイコフスキー:交響曲第6番《悲愴》(1938),シューベルト:交響曲第8番《未完成》(1950),ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》(1937 & 1926),同:ヴァイオリン協奏曲(1947),同:交響曲第3番《英雄》(1947),モーツァルト:セレナード第10番《グラン・パルティータ》(1947)〕

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリンpo,ウィーンpo,ルツェルン祝祭o,ユーディ・メニューイン(vn)〈1926年~1950年〉
[キングインターナショナル(M)KKC4355~8(4枚組)]

デンマークの名匠イェンセンの遺産
同郷のテノール、メルヒオールの名唱とともに

今もって「史上最高のヘルデンテノール」と評す向きも多いラウリッツ・メルヒオール(1890~1973)の70歳(!)を祝う演奏会での《ワルキューレ》第1幕全曲。共演は、彼と同じコペンハーゲン生まれの(当CDシリーズの主役でもある)トーマス・イェンセン(1898~1963)指揮のデンマーク放送響と、やはりデンマーク系のソプラノ、バス歌手が揃った。さしものメルヒオールも年齢なりに高音の威力は失われたとはいえ、老練な言葉さばきで長年十八番としてきたジークムント役を堂々と歌いきる。その歌唱を堅実に支えたイェンセンが、バルトークの高弟で後年デンマークに移住・活躍したピアニスト、ヴァーシャルヘイ(1912~2002)と共演したリスト「第2番」は今回初リリースで、このユニークなピアノ協奏曲を好バックアップ。20世紀中葉のデンマークが、スウェーデンやノルウェー、フィンランドと並んでいかに人材の宝庫であったかを実感できる一組。 (Y.F.)

トーマス・イェンセンの遺産 第23集
〔ワーグナー:楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》前奏曲,楽劇《ワルキューレ》第1幕,フランク:交響曲,リスト:ピアノ協奏曲第2番,ヴァルダー・スクレザー:演奏会序曲《人民広場》〕

トーマス・イェンセン指揮デンマーク放送so,ラウリッツ・メルヒオール(T)ドロシー・ラーセン(S)モーウンス・ヴェーゼル(Bs)ゲオルク・ヴァーシャルヘイ(p)
〈録音:1958年11月,1960年3月,1963年2月(L)〉
[Danacord(S)DACOCD933(2枚組:海外盤)]

広瀬悦子のDENON録音がボックスで復刻

昨年ニューアルバム『シェヘラザード』を発表して大きな話題を呼んだ広瀬悦子。彼女が2003~07年にDenon(日本コロムビア)で発表した4枚のアルバムが、デンマークの「Danacord(ダナコード)」でまとめて復刻された。これは、広瀬自身が「レコード芸術ONLINE」のインタビューでも話していたとおり、これらのアルバムを聞いたダナコードのディレクターの強い要望で実現したもの。4枚とも若き広瀬のヴィルトゥオジティが存分に発揮されたアルバムとして知られていただけに、海外盤として復刻されたことを喜びたい。バッハをはじめ編曲作品で固めた「シャコンヌ」、ストラヴィンスキーやラヴェルなどの難曲を集めた「ラ・ヴァルス」、4人の大作曲家による幻想曲を自在に弾いた「ファンタジー」、ショパンとアルカンを組み合わせた「風」と、選曲・演奏とも広瀬の個性が発揮されている。ブックレットにはディレクターによる解説文も掲載(日本語訳つき)。 (T.O.)

広瀬悦子/DENON録音全集 2003-2007
広瀬悦子(p)
〈録音:2003年~2007年〉
[Danacord(D)DACOCD992(4枚組,海外盤)]

「最後のロマン派」チェルカスキーの真価を伝えるライヴ集

シューラ・チェルカスキー(1909~95)の名前を憶えている人はどれくらいいるだろうか? ロシア系のアメリカ人で、ヨーゼフ・ホフマンに師事した「最後のロマン派」と言われる伝説のピアニストだ。晩年の1988年以降、毎年のように来日してくれたのも懐かしい思い出だ。そんなチェルカスキーが真価を発揮するのが「ライヴ」なのは言うまでもないが、今回発売されたライヴは完全初出音源! アメリカ・カリフォルニア州パサデナのアンバサダー・オーディトリアムで1981年から1989年にかけて開かれた4回のリサイタルの模様を、遺族の許可を得て5枚組のディスクに収めたもので、お得意のレパートリーがズラリ(唯一、シューマン《幻想曲》が第3楽章のみとなっているのが残念だが)。うれしいのはアンコールも完全収録されていることで、感興のおもむくままにピアノを奏でるチェルカスキーの姿が目に浮かぶよう。自作の《悲愴前奏曲》も聞ける。ファン必携のボックスだ。 (T.O.)

チェルカスキー/アンバサダー・オーディトリアム・リサイタル 1981~1989
シューラ・チェルカスキー(p)
〈録音:1981年~1989年〉
[First Hand(S)(D)FHR99(5枚組,海外盤)]

フリッチャイが愛したモーツァルトの名演がSACDに!

少し前の発売になるが、タワーレコード企画の「ヴィンテージSACDコレクション」第36弾をご紹介(3点中クナッパーツブッシュ指揮によるブルックナーの交響曲第8番は紹介済み)。
まず、生誕110年を迎えたフェレンツ・フリッチャイ(1914~63)。ハンガリー出身で、ウィーンやベルリンで活躍した俊才だったが、病のため48歳の若さで亡くなったのが惜しまれる。モーツァルトはフリッチャイが愛した作曲家で、最晩年にはモーツァルト・メダルも授与されている。そんなフリッチャイのモーツァルトの名盤復刻(1958~61年録音)に拍手を送りたい。演奏はすべてセッション録音で、交響曲第29番と後期3大交響曲がウィーン響。これにベルリン・フィルとの《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》と、ベルリン放送響との《フリーメイソンのための葬送音楽》《アダージョとフーガ》が併録されている。今聴いてもフレッシュなモーツァルトが、SACD化で鮮やかに甦った。コレクションにぜひ。 (T.O.)

モーツァルト:交響曲第29番・第39番・第40番・第41番《ジュピター》,アイネ・クライネ・ナハトムジーク 他
フェレンツ・フリッチャイ指揮ウィーン交響楽団,ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団,ベルリン放送交響楽団
〈録音:1956年~1961年〉
[タワーレコード(ユニバーサル)(S)PROC2411~2(2枚組)]SACDハイブリッド

不滅の名盤、バックハウスによるブラームスのピアノ協奏曲第2番をSACDで

タワーレコード企画の「ヴィンテージSACDコレクション」第36弾では、大ピアニスト、ヴィルヘルム・バックハウス(1884~1969)の生誕140年・没後55年企画の2枚組も発売された。名盤の誉れ高いブラームスのピアノ協奏曲第2番(1960年録音)にモーツァルトのピアノ協奏曲第27番(1955年録音)をカップリング(以上カール・ベーム指揮ウィーン・フィル)した1枚と、ギュンター・ヴァント指揮ウィーン・フィルの共演によるシューマンのピアノ協奏曲(1967年録音)にブラームスの小品集(1956年録音)を組み合わせた1枚からなっている。ブックレットの板倉重雄による解説を読むと、シューマンは当初グリーグと組み合わせる予定だったが、ヴァントの進言でブラームスの《6つの小品》とカップリングされて発売されることになったという。オリジナルLPジャケットを復刻したブックレットもコレクター魂をくすぐる。SACD化でマスターテープの音が甦ったのもうれしい。 (T.O.)

ブラームス:ピアノ協奏曲第2番,モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番,シューマン:ピアノ協奏曲 他
ヴィルヘルム・バックハウス(p)カール・ベーム,ギュンター・ヴァント指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
〈録音:1955年~1967年〉
[タワーレコード(ユニバーサル)(S)PROC2415~6(2枚組)]SACDハイブリッド

パイタの伝説的爆演をくらえ

爆演系指揮者カルロス・パイタ。そのチャイ4と《悲愴》他もろもろの、Lodia音源からのリイシュー2枚組が登場! ちまたの優等生的演奏からはかけ離れた、血沸き肉躍るチャイコがここにある。パイタはフルトヴェングラーを敬愛していたが、この音楽は、さしずめフルヴェンの固め・濃いめ・多めといったところ。あらためて聴いてみると本当に疲れる。しかし、ダイナミック・レンジの急カーブとブラスの絶叫、個性派マエストロの激重感情で、三半規管をやすりがけする、それもクラシック音楽の嗜みの1つだと教えてくれたのも、またパイタではなかったか? 未聴の方はぜひご購入を。この常軌を逸したレビューのわけを感じていただけると思う。そしておそらくだが、公式の情報に誤りがあって、交響曲第4番はロシア・フィルではなくて、私の耳を信じるなら、1994年リリースのモスクワ新ロシア管(LOCD791)と同一だ。前者の録音は少なくとも、Lodiaのカタログには存在していない。(H.H.)

チャイコフスキー:交響曲第4番,同第6番,他
〔チャイコフスキー:交響曲第4番,同第6番,スラヴ行進曲,幻想的序曲《ハムレット》,イタリア奇想曲,幻想的序曲《ロメオとジュリエット》〕

カルロス・パイタ(指揮) モスクワ新ロシアo. ロシアpo. ナショナルpo.
〈録音:1980年,1994年〉
[LE PALAIS DES DEGUSTATEURS(S)(D)PDD037(2枚組)]

フランスの名手によるハンガリー狂詩曲

ドゥニ・パスカルは、本邦ではあまり知られていないが、ヨーロッパで高い評価を得ているピアニストだ。ロト&レ・シエクルの初期録音、ショパンのピアノ協奏曲第1番&第2番(POL750237)のソロで知られるほか、現在はコンセルヴァトワールの教授も務める。彼が25年前にリリースし、このたびリイシューされた『ハンガリー狂詩曲』は、キレッキレの手さばきによる出色の作。いわゆる名盤や人気盤のようにエキゾチックではなく、レ・ザネ・フォルを思わせる軽やかな妙技が堅実に舞う。ライナーノーツには彼が書き下ろした文章「ボヘミアンとその音楽」(仏語/英語)があって、フランス人がリスト作品を演奏する意義についてあらわされている。リストが「ハンガリー的」な郷愁を覚え、自作品に昇華したのは、まつろわぬ民、ロマの調べだった。その音楽の神髄は、ヨーロッパのどこにでもあって、どこにもない。当盤はリストを「普遍的な音楽家」と位置づけた名手の、リスペクトに富んだ狂詩である。(H.H.)

リスト:ハンガリー狂詩曲(全曲)

ドゥニ・パスカル(p)
〈録音:1999年〉
[La Musica(D)LMU036(2枚組)]

なぜ忘れられたか? 女性ピアニスト・コンピ盤

往年の女性ピアニストのコンピ盤『Pianistes Françaises』Vol. 1、2(TAH653、712)が、国内規格でリリースされた。両盤ともに解説の日本語訳が付く。1900~50年代に記録され、現在ではほぼ顧みられなくなった激レア音源である。それは音楽面で巨匠芸術に劣ることを意味しない。断じてない。ロジェ=ミクロスの《ハンガリー狂詩曲》のなんと薫り高いこと! ショパン演奏の歴史において重要なパンテの《マズルカ》《夜想曲》は、現代でも新鮮だ。タリアフェロの代表的レパートリー《エジプト風》は、有名なフルネ&ラムルー管(1953年)ではなく、パレー&フランス国立管のライヴ(1958年)で、彼女のほとばしるロマン性がパレーの烈風と、化学反応を起こしている。フランス・オケ好きも耳を貸すべき! 流派のちがい(ドゥ・ヴァルマレット、ド・ラ・ブルショルリ、ギュラーはフィリップ門下で、タリアフェロ、ルフェビュールはコルトー門下、ブンダヴォエはレヴィ門下)に注目してみるのも面白い。(H.H.)

フランスの女性ピアニストたち1
〔リスト:《ハンガリー狂詩曲》第11番,第13番,ショパン:《マズルカ》イ短調 Op.17-4,《夜想曲》嬰ハ短調,他〕

エメ=マリー・ロジェ=ミクロス,マリー・パンテ,ユーラ・ギュラー,マドレーヌ・ドゥ・ヴァルマレット,アニュエル・ブンダヴォエ(以上p),他
〈録音:1905年頃~1956年6月〉
[ターラ(M)KKC6872(2枚組)]

フランスの女性ピアニストたち2
〔ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番《皇帝》,サン=サーンス:ピアノ協奏曲第5番《エジプト風》,他〕

モニク・ド・ラ・ブルショルリ,ユーラ・ギュラー,イヴォンヌ・ルフェビュール,マグダ・タリアフェロ(以上p),他
〈録音:1948年6月~1959年12月(一部L)〉
[ターラ(M)(S)KKC6874(2枚組)]

レーゼルのブラームスを集成したシングルレイヤーSACD

旧東独のエテルナ録音によるペーター・レーゼルによるブラームスのピアノ作品全集がシングルレイヤーSACDとして復刻された。CDとしては、かつて徳間ジャパンからお求めやすい価格で分売されていたのをご記憶の方も多いと思うが、今回の復刻はシングルレイヤーSACDということでSACD2枚組にCD6枚分の録音が収められている。価格は4,950円(税込)だから、CDに換算すれば1枚あたり1千円以下、お得感はそのままにSACD化されて嬉しい限りだ。肝心の音質もSACD化の恩恵は大きく、強靭でありながらも決して金属的にならず、つねに人肌を思わせる温もりを感じさせるレーゼルのピアニズムが、やや平板な印象のあったCDの音質から、立体的な実在感をもった音質として蘇らせることに成功している。(M.K.)

ブラームス/ピアノ作品全集
〔ピアノ独奏曲,ピアノ五重奏曲〕

ペーター・レーゼル(p)ブラームスSQ
〈録音:1972年10月,1974年4月〉
[エテルナ(キングインターナショナル)(S)KKC4359~60(2枚組)]SACD

Text:編集部

タイトルとURLをコピーしました