
R.シュトラウス:交響詩《英雄の生涯》
沖澤のどか指揮京都市交響楽団,会田莉凡(vn)
〈録音:2025年3月(L)〉
[デンオン(D)COCQ85636]
※9月3日発売予定
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これぞオーケストラという演奏が
今まさに京都で生み出されている証
沖澤のどかと京都市交響楽団(以下「京響」)が破竹の勢いを見せている。ただ一度の共演で一目惚れした楽団のラブコールに応え、2023年4月から同団の第14代常任指揮者に就任した沖澤は、すでに29年3月末までの任期延長を発表し、まさに蜜月状態が続いている。
このコンビが2025年3月に行なった京都コンサートホールでの第698回定期演奏会における録音で、R. シュトラウスの交響詩《英雄の生涯》が発売される。両者の演奏はこれが初リリース。
冒頭の〈1. 英雄〉から決してオーケストラを咆哮させない。シルキーなサウンドが響いている。まさにこれが沖澤と京響の持ち味だ。〈2. 英雄の敵〉における木管楽器を軸としたアンサンブルの絡み合いが、ここもでも整然と繰り広げられる演奏は聴いたことない。〈3. 英雄の伴侶〉では冒頭から、コンサートマスターの会田莉凡(当時は特別客演コンサートマスター、直後の25年4月からソロ・コンサートマスター)のねっとりと艶やかなソロに耳を奪われる。パッセージが細かくなると見事にオーケストラとシンクロしつつ妙技が浮かび上がるから、まさに万全の仕上がり。〈4. 英雄の戦場〉でも技術的な十全さに基づいた見事なアンサンブルが続く。各パートの充実ぶりも、今の京響の誇るべきところ。オーケストラという一筋ならではいかない集合体において、いわば細胞とも言える各楽器が、それぞれに独自の動きを自在にしつつ、総合的に捉えれば明確に一つの方向を進むという、オーケストラ演奏の醍醐味かつ理想型が実現されているのだ。〈5.英雄の業績〉でも交錯するフレーズの共存するバランスが絶妙で、〈6.英雄の引退と死〉の最後で成就する響きに至るまで充足感が宿る。
こうも最初から最後まで息が途絶えない演奏も珍しい。ギリギリを攻めたスリリングな要素は確かに少ないかもしれないが、これぞオーケストラという演奏が、今まさに京都で生み出されている証が刻印された録音になった。
小味渕 彦之(音楽評論)
協力:日本コロムビア