
テリー・ライリー/コロンビア・レコーディングス【完全生産限定盤】
〔①インC(1968録音),②ア・レインボー・イン・カーヴド・エアー(1969録音),③チャーチ・オヴ・アンスラクス(ジョン・ケイルとの共作/1971録音),④シュリー・キャメル(1980録音)〕
①テリー・ライリー(リーダー,sax),バッファロー・ニューヨーク州立大学創造・演奏芸術センターのメンバー,②テリー・ライリー(エレクトリックorg,エレクトリックcemb,ロックシコード,ドゥムベック,タンバリン),③ジョン・ケイル(ベース,cemb,p,g,va,org),テリー・ライリー(p,org,ソプラノsax),④テリー・ライリー(エレクトリックorg,コンピューターによって制御されたデジタル・ディレイ)
〈録音:1968年4月~1980年〉
[ソニー・クラシカル(S)SICC2363(4枚組+ブックレット)]
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私たちを刺激し、驚愕させ続ける珠玉の作品集
聖なる駱駝が歩いていく。天界の峡谷を、太古の湖を、氷の砂漠を。
テリー・ライリーの『シュリー・キャメル』(1980、「聖なる駱駝」という意味)を聴くと、ついこのような空想をしてしまう。緩やかなテンポで反復される短いフレーズが駱駝の歩みを連想させるのだろう。そのフレーズには多彩な要素が絡まり、駱駝が行くさまざまな光景が描き出される。インド音楽からの影響が如実に表れているだけでなく、純正律の電子オルガンの音色がサイバーですらある。随所で聴こえてくる3音——おおよそB、D、E——のモチーフによって統一感が生まれている1枚。
コロンビア・レコードから発売された4枚のライリー作品を収めたこのボックスセットには、『シュリー・キャメル』だけでなく、ミニマル・ミュージックの傑作『インC』(1968)、キーボーディストとしてのライリーの手腕が発揮される『ア・レインボー・イン・カーヴド・エアー』(1969)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの一員ジョン・ケイルとの共作『チャーチ・オヴ・アンスラクス』(1971)が含まれている。いずれも珠玉。貴重な制作秘話が語られているブックレットも必読である。
2024年の清水寺での演奏に合わせて公開された映像「Terry Riley – Talking In C -」の中で、ライリーは次のように語る。「『In C』における失敗は/基本的に想像力に関係している/多くの人は 僕らが最初にCBSで/録音した『In C』をベースにしていて/たくさん似たような演奏を聴いたけれど/あれはもうあまり好きじゃないんだ/とても機械的だし もっともっといいものが/その後生まれている」。ここで「もうあまり好きじゃない」と言われているのが、まさにこのボックスに収められた『インC』である。では、この最初に録音された『インC』はもはや聴く必要がないものなのだろうか? おそらく、この『インC』は、多くのミュージシャンたちが自らの想像力を羽ばたかせる際に、ある種のジャンプ台にしてきたものだ。彼ら/彼女らの飛躍を知るためにも、この『インC』は聴き返されるべき1枚と言える。
あのテリー・ライリーが今、日本に住んでいる——この夢のような事実は、音楽ファンの間ではすでに広く知られていると言っていいだろう。ミニマル・ミュージックを代表する作曲家テリー・ライリーは、コロナ禍という予期せぬ事態を契機に日本に移り住み、それ以来日本のオーディエンスの前で度々自らの音楽を披露してきた。そして、このボックスセットを聴いた私たちは、ライリーの音楽を存分に堪能しつつ、ミニマル・ミュージックというラベルには到底収まらない彼の音楽の幅広さに改めて驚愕することになる。
小寺未知留 (音楽学)
協力:ソニーミュージック