
連載「クラシック・ レコードレーベルと演奏家・録音の100年」。エジソンによるレコード発明から、来年2027年で150年。そのうち、電気録音が実用化された1925年からの100年間をメインとして、クラシックのレコードレーベルと、そこで活躍した主要な指揮者や演奏家の話を、時代を追って書いていこうというものである。
第2回以降はレーベルごとに、モノラルLP時代の主要なアーティストとその代表的な録音を中心にふり返っていく。
初めは米コロンビアから。LP開発の功績に敬意を表する意味だけでなく、新たなメディアによってレコードの可能性を広げ、フロンティアを開拓した同社の活動は、モノラルLPの時代そのものを象徴するような、新鮮な刺激に満ちているからである。
山崎浩太郎(演奏史譚)
◎連載第1回「LPによるレーベル拡大期(1950~60 年代)その1」はこちら
指揮者:
ブルーノ・ワルター、ユージン・オーマンディ、ジョージ・セル、ディミトリ・ミトロプーロス、トマス・ビーチャム、イーゴリ・ストラヴィンスキー、ロバート・クラフト、レナード・バーンスタイン
オーケストラ:
ニューヨーク・フィル、フィラデルフィア管弦楽団、クリーヴランド管弦楽団、ロイヤル・フィル、メトロポリタン歌劇場管弦楽団
ピアノ:
ロベール・カサドシュ、ルドルフ・ゼルキン、グレン・グールド
ヴァイオリン:
ジノ・フランチェスカッティ、アイザック・スターン、ヨゼフ・シゲティ
チェロ:
パブロ・カザルス
オルガン:
アルベルト・シュヴァイツァー
室内楽団:
ブダペスト弦楽四重奏団、ジュリアード弦楽四重奏団
2人の花形指揮者——ワルターとオーマンディ
同社の指揮者は、なんといってもブルーノ・ワルター(1876~1962)とユージン・オーマンディ(1899~1985)が中心だった。
ワルターはもっぱらニューヨーク・フィル(1940年代には2度にわたり音楽監督就任を打診されたが、高齢を理由に断り、代りに1947~49年に音楽顧問をつとめた)と、オーマンディは1938年から音楽監督をつとめるフィラデルフィア管弦楽団と、それぞれ録音を継続的に行っていた。


豊かな歌心と温かい響きで、第2次世界大戦前から日本にも熱烈なファンが多数いたワルターの場合は、ハイドンからブラームスまでのドイツ王道の交響曲がレパートリーの中心である。代表作の一つベートーヴェンの交響曲全集は、SP時代の第1、6、8番に続いて6曲をニューヨーク・フィルとの録音(《田園》のみフィラデルフィア管、1942~53年)で完成された。ただし1949年に録音した《合唱》のうち、終楽章の出来ばえに不満があり、この楽章だけを4年後に録りなおして差し替えている。
この時期の録音で、最も精気に満ちて充実感があるのはブラームスの交響曲全集(1951~53年)だろう。また、ワルターの十八番として知られるモーツァルトの交響曲集(第25、28、29、35、36、38~41番、1953~56年)も、後年のステレオ録音とは異なる推進力がある。
なおワルターの録音において、コロンビアはLP時代ならではのディスクも制作している。1955年に録音された『演奏の誕生』という2枚組4面のLPで、最初の3面にモーツァルトの交響曲第36番のセッションに向けてのリハーサル場面を収め、最終面で本番の演奏が聴けるというものである。
ワルターのリハーサル風景は、1954年にブラームスの交響曲全集がボックスにまとめられたとき、交響曲第2番と第3番の各第1楽章の抜粋をボーナス盤としてつけたことがあり、これはレコードのためのリハーサルが一部とはいえ一般に公開された、史上初のケースだったという。
『演奏の誕生』はそれをさらに拡大して、リハーサル場面がむしろメインとなり、本番の演奏が生まれていく過程を聴いてもらおうというものだった。長時間録りっぱなしと編集が容易なテープ録音だからこそ、そして長時間再生が可能だからこそ楽しめるという、LP時代ならではのものである。
そしてこれは、温厚な人柄で知られたワルターだからこそ可能なものだった、ともいえる。ライバルRCAビクターのトスカニーニは、リハーサルでしばしば癇癪を起こすことで有名で、その録音も後年非公式に流出することになるが、正式に世に出ることはなかった。ワルターはこれ以外にも、自らの語りで生涯を回想したり、録音をダイジェストで紹介したりする、ラジオ番組をモデルにしたような特典盤の制作に協力している。
音楽家は演奏だけ聴かせればいい、という風潮も強かった時代に、これは19世紀生まれの音楽家としてかなり例外的な姿勢であり、レコーディング・アーティストとしての音楽家の新たなありかたを、提示するものだった。
(こうした特典盤や『演奏の誕生』については、2019年に発売されたCD77枚組の「ザ・コンプリート・コロンビア・アルバム・コレクション」で、まとめて聴くことができた)

ブルーノ・ワルター ザ・コンプリート・コロンビア・アルバム・コレクション
ブルーノ・ワルター指揮ニューヨークpo,コロンビアso,他多数
〈録音:1941年2月~61年3月〉
[Sony Classical(M/S)19075923242(77枚組,海外盤)]
このコンテンツの続きは、有料会員限定です。
※メルマガ登録のみの方も、ご閲覧には有料会員登録が必要です。
【ログインして続きを読む】下記よりログインをお願いいたします。



