プレルーディウム連載

【連載】プレルーディウム 第11回/舩木篤也

音楽評論家・舩木篤也氏の連載「プレルーディウム」。
プレルーディウム(Präludium)は、ドイツ語で「前奏曲」の意味。毎回あるディスク(音源)を端緒として、ときに音楽の枠を超えて自由に思索を巡らせる、毎月1日更新の注目連載です。
第11回は、ブラームス《ドイツ・レクイエム》初演時の演奏会を再現した、ナガノ指揮ハンブルク・フィルのディスクが登場。クラシック音楽におけるナショナリズムといえばワーグナーが浮かびますが、「ドイツ」を冠するこの作品は、これと無縁だったのでしょうか?

ディスク情報

ブラームス:ドイツ・レクイエム,他(1868年ブレーメン初演時再現の試み)

ケント・ナガノ指揮ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団,クラングフェルヴァルトゥング合唱団,ケイト・リンジー(Ms)ヨハン・クリスティンソン(Br)他
〈録音:2022年8月(L)〉
[BIS(D)NYCX10528(2枚組)]SACDハイブリッド

ブレーメンでの6楽章版初演コンサート「聖金曜日の夕べ」の全演目を再現した初のディスク。リューベック音楽大学、ブラームス・インスティテュートのヴォルフガング・サンドベルガー教授監修。

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ドイツ人ファースト?

 気をつけてください! 邪悪な攻撃の手がいま私たちを脅かしています。
 ドイツの民と国がここで崩れ去ってしまったら
 外国のニセものの権威を着せられ
 王侯はたちまち民心を理解しなくなります。
 そうやって外国のがらくたと悪臭を
 彼らは、私たちドイツの地に植えつけるのです。
 ドイツのもの、真なるものが何であるか
 誰も分からなくなってしまうでしょう──

 これは、選挙をひかえた政治家の街頭演説ではない。リヒャルト・ワーグナーの歌劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》の幕切れで、ハンス・ザックスがぶつ演説である。
 ニュルンベルクにやってきた若い騎士ヴァルターが、歌芸術をきわめた職人「マイスタージンガー」らが催す歌くらべの祭典に挑み、優勝した。その大胆な歌を陰でサポートしてきたのが、靴職人にしてマイスタージンガーのザックスだ。ほうびは裕福な金細工師の娘、エーファとの結婚。そして「マイスター」が授与されるのだが、ヴァルターはそんな称号は御免だとはねつける。そこでザックスが諭す。マイスターたちはドイツ芸術の純粋さを、いつの時代も守り抜いてきた。彼らをさげすんではなりません、と。上に引いた一節は、その文脈で言われるのである。ザックスの熱弁に、民衆から歓呼の声が上がる。「神聖ローマ帝国が煙と消えようと、神聖なドイツ芸術は変わることなく残るだろう!」

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