
今回お話を伺ったピアニストの福間洸太朗。ワーグナーの胸像と
20歳でクリーヴランド国際コンクール優勝(日本人初)およびショパン賞を受賞後、世界から注目を集め、国際的なピアニストとして演奏活動を展開している福間洸太朗。近年は知られざる作品を名ピアニストの演奏で楽しむことができるコンサート・シリーズ「レア・ピアノミュージック」のプロデューサーとしても目覚ましい活躍を見せている。
そんな彼が、新譜『ピアノ・トランスクリプションの世界』をリリース。ピアニズム、音楽性はもちろんだが、“レア”な作品の魅力を届けたい、という想いも詰まった一枚となっている。
ききて・文=長井進之介(ピアニスト・音楽ライター)
取材協力=ナクソス・ジャパン
写真=編集部
【新譜情報】

ピアノ・トランスクリプションの世界
〔ポンキエッリ(フレミンクス編、福間校訂): 歌劇《ラ・ジョコンダ》~時の踊り,ワーグナー(福間編):トリスタンとイゾルデ~前奏曲とイゾルデの愛の死,ドビュッシー(ボーウィック編):牧神の午後への前奏曲, ハワード:「トゥーランドット」の回想,福間洸太朗:シャンソン・メドレー,他〕
福間洸太朗(p)
〈録音:2026年1月〉
[ナクソス(D)NYCC27316]CD
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《シャンソン・メドレー》を端緒として
歌曲に室内楽曲、オペラにバレエ、さらにシャンソンと幅広い楽曲が並ぶ、非常に多彩なプログラムとなっています。2021年には『バッハ・ピアノ・トランスクリプションズ』をリリースされ、これまでもさまざまな編曲(トランスクリプション)作品をコンサートで披露されてきましたが、今回のリリースの経緯を教えていただけますか。
福間 《シャンソン・メドレー》を録音したかったのがはじまりです。この曲は2016年に初演したのですが、以降アンコールで弾くたびに終演後、“CDは出ていないのですか?”とお問い合わせをいただくことがとても多かったのです。2022年には楽譜を出版したこともあり、“他の方が録音する前に自分で録らなければ”という焦りもありました。

福間洸太朗 kotaro Fukuma
パリ国立高等音楽院、ベルリン芸術大学、コモ湖国際ピアノアカデミーにて学ぶ。20歳でクリーヴランド国際コンクール優勝(日本人初)およびショパン賞受賞。
これまでにカーネギーホール、リンカーン・センター、ウィグモア・ホール、ベルリン・コンツェルトハウス、サル・ガヴォー、サントリーホールなどでリサイタルを開催する他、クリーヴランド管弦楽団、モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団、フィンランド放送交響楽団、ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団、トーンキュンストラー管弦楽団、NHK交響楽団など国内外の著名オーケストラとの共演も多数。2016年7月には故ネルソン・フレイレの代役として急遽、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団定期演奏会において、トゥガン・ソヒエフの指揮でブラームスのピアノ協奏曲第2番を演奏し喝采を浴びた。
またフィギュアスケートのステファン・ランビエルなどの一流スケーターとのコラボレーションや、パリにてパリ・オペラ座バレエ団のエトワール、マチュー・ガニオとも共演するなど幅広い活躍を展開。
CDは『ショパンの想い出』、『幻想を求めて – スクリャービン&ラフマニノフ』(ナクソス・ジャパン)など、これまでに20枚をリリース。2020年7月より、珍しいピアノ作品を取り上げる演奏会シリーズ「レア・ピアノミュージック」もプロデュースしている。
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1 ショパンの想い出(日本デビュー20周年記念アルバム)
福間洸太朗(p)
〈録音:2024年2月〉
[ナクソス(D)NYCC27315]CD
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2 幻想を求めて~スクリャービン&ラフマニノフ
福間洸太朗(p)
〈録音:2022年10月〉
[ナクソス(D)NYCC27314]CD
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3 バッハ・ピアノ・トランスクリプションズ
福間洸太朗(p)
〈録音:2020年10月〉
[ナクソス(D)NYCC27313]CD
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4 France Romance
福間洸太朗(p)
〈録音:2018年11月〉
[ナクソス(D)NYCC27308]CD
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“父”と慕った恩人に捧ぐ4曲
今回のアルバムにはボーナス・トラックも含め4曲(グノーの《アヴェ・マリア》、ポンキエッリの《時の踊り》、J.シュトラウスII世の《シャンパン・ポルカ》と《新ピッツィカート・ポルカ》)、ピアニスト・作曲家のワルター・フレミンクス(1944~2024)による編曲作品が収録されています。フレミンクスとは親交が深かったそうですね。
福間 フレミンクスご夫妻は“ベルギーのお父さん、お母さん”と呼ぶほど親しくしていました。お二人との出会いは2018年、ゲントで『1918年の追憶』というタイトルのリサイタルをしたときです。終演後にたくさんのお褒めの言葉をいただき、ご自宅でのホームコンサートに招待してくださいました。以降、何度もそこで弾かせていただきましたし、ヨーロッパでのさまざまな公演にも足を運んでくださいました。

「フレミンクスご夫妻は“ベルギーのお父さん、お母さん”と呼ぶほど親しくしていました」
福間 あるとき、ワルターさんの編曲作品に触れる機会があり、それらがとても素晴らしかったので、“ぜひ出版させてほしい”とお話をしてMuse Pressから2024年12月に『ワルター・フレミンクス:オリジナル作品とピアノ編曲集』を出版することができました。残念ながら彼は出版の2ヶ月前に逝去されてしまったのですが、本当にお世話になったワルターさんの作品を広めることで恩返しができたらという想いで今回録音しています。
自身の手によるものを含む、さまざまな編曲作品たち
福間さんの演奏会、そしてCDのプログラミングにはいつもストーリーを感じます。今回も何かそういったものは込められているのでしょうか。
福間 《シャンソン・メドレー》を録音することが一番大きな目的だったので、そのあたりはいつもよりは控えめかもしれません。ただ、《トリスタンとイゾルデ》の楽曲から《牧神の午後への前奏曲》につなげるなど、ワーグナーの影響を受けたドビュッシーという流れを作ったり、歌曲にオペラ、バレエのトランスクリプション作品を集めており、ジャンルの関連性などは考慮しています。
そのほかの収録曲についても伺いたいと思います。モーツァルト《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》は福間さんご自身の編曲ですね。
福間 2023年のラ・フォル・ジュルネのナント公演が“夜”をテーマにしていたことから編曲したものです。もとが小編成の室内楽曲なのでピアノで演奏するのは響きの面などなかなか難しかったのですが、ピアニスティックな面白さを追求してかなり音を増やしたり、第2・4楽章には完全オリジナルのカデンツァを入れて私なりの編曲を施しました。
レスリー・ハワード編曲によるプッチーニ《トゥーランドット》の〈誰も寝てはならぬ〉(《「トゥーランドット」の回想》)は世界初録音とお聞きしました。
福間 商業録音として世に出るのは今回が初めてです。原曲の知名度に比べて、意外とピアノ独奏編曲がほとんどないのは、音価の長い旋律が多く、減衰楽器のピアノでは表現が難しいためだと思います。前半はシンプルですが、途中のコーラス部分から音数が増え、ピアニスティックな効果が際立っています。終わり方も特徴的で、シューベルトの五重奏曲の終結部を引用し、ハッピーエンドではない作品の性格を強調するための唐突な終止になっています。
フィギュアスケートと収録曲の関係
福間さんといえばフィギュアスケートというイメージが強いですが、今回の収録曲には競技会でよく使用される曲が入っていますよね。
福間 選曲がそうなったのは偶然なのですが、《シャンソン・メドレー》の 〈恋はみずいろ 〉、 〈バラ色の人生〉と〈愛の讃歌〉は、伊藤みどりさんが2023年の国際アダルト・フィギュアスケート選手権で使ってくださり、優勝されました。

「スケートファンの方にもぜひ注目していただけたら嬉しいです」
福間 また、このメドレーを作ったとき、実は2013-14シーズンの鈴木明子さんが使用された《愛の讃歌》の演技をかなり意識しました。原曲にはない転調を入れているのですが、これはポップスの音楽で盛り上がりを作るためによく行われるもので、私も取り入れてみました。シャンソンだけでなく、スケートファンの方にもぜひ注目していただけたら嬉しいですね。
今回の新譜は、福間の音楽性と技術はもちろん、恩人への敬意が凝縮された一枚となっている。次に収録曲をまとめて聴くことができる機会は、7月3日(金)東京FMホールでのリサイタル(休憩なし、昼夜2公演)。福間がプレゼンターを務めるインターネットラジオ『OTTAVA』と、ぴあクラシック公式サイト『poco a poco』の共催によるコンサート・シリーズ第1弾だ。超絶技巧が凝らされた名曲たちを生演奏で味わえる貴重な機会。ぜひCDとの聴き比べも楽しんでほしい。
【今後の出演情報】※日本で行なわれるもの
「ピアノ・トランスクリプションの世界」CD発売記念イベント ミニライブ&サイン会
2026年6月27日(土)14:00開演
タワーレコード渋谷店8F TOWER CLASSICAL(東京)
「poco a poco & OTTAVA Club」第1回
2026年7月3日(金)15:00開演 / 19:00開演
TOKYO FMホール(東京)
福間洸太朗ピアノ・リサイタル
2026年8月22日(土)14:00開演
KOBELCO 真岡いちごホール(栃木)
福間洸太朗プロデュース第44回レア・ピアノミュージック:田村 響~コルンゴルトの世界~
2026年8月25日(火)19:00開演
国分寺市立いずみホール(東京)
ピアノ・トランスクリプションの世界
2026年10月2日(金)11:30開演
仙台市太白区文化センター 楽楽楽ホール(宮城)
トランスクリプションとオリジナル~リストへのオマージュを込めて~
2026年10月4日(日)14:00開演
所沢市文化センター ミューズ アークホール(埼玉)
