
文=長井進之介 (ピアニスト・音楽ライター)
知られざる作曲家、メル・ボニスを核とするデビュー盤
東京藝術大学と同大学院を経て、現在フランスで研鑽を積むピアニスト・角野未来が、自身のレーベル「Appels(アペール)」を立ち上げ、その名を冠したデビュー・アルバムをリリースした。ドビュッシー、ラヴェルという近代フランスを代表する作曲家の作品に加え、同時代を生きた女性作曲家メル・ボニスの作品を中心に据えた意欲的なアルバムだ。

ボニスが文学・神話・聖書に登場する女性像を描いたピアノ曲集《伝説の女たち》は、1898年頃から1922年までの異なる時期に書かれた作品を出版社がまとめて出版したもので、共通モティーフがあるわけではなく、それぞれが独自の個性を持つ。
後期ロマン派の流れを汲む書法の中で高度な技巧が巧みにキャラクター表現へと結び付けられ、特にハーモニーの扱いが印象的だ。転調や官能的な響きを多用することで、各曲の情景が鮮やかに立ち上がる。こうした香り立つような音楽が成立するのは、角野の精緻な技術と繊細なペダリングによるところが大きい。
ドビュッシーとラヴェルに、ピアニストの多彩を聴く
ドビュッシー《喜びの島》では、角野がもともと備える煌びやかさと柔らかさが楽想と自然に溶け合い、華やかでありながら語りかけるような親密さを感じさせる。
ラヴェル《夜のガスパール》では、彼女の多面性が際立つ。〈オンディーヌ〉では透明感のある美しさの中に凄みを潜ませ、作品の幻想世界を見事に描き出す。〈絞首台〉〈スカルボ〉では深い陰影が表れ、ドラマが鮮烈に展開される。技巧の冴えだけでなく、作品の内側にある詩情を深く読み取る力を備えたピアニストであることを改めて感じさせる。
CD限定収録の〈月の光〉は、アルバム全体の物語を静かに閉じるような優しい語り口で奏でられ、一音一音の粒立ちと構築性の高さが最後までしっかりと伝わってくる。
知られざる作曲家との出会いの喜びに加え、角野が紡ぐ音楽の世界観が一枚の中で豊かに広がる本盤は、彼女の音楽性を多角的に味わうことのできる魅力的なアルバムとなっている。

アペール
〔ボニス:伝説の女たち(メリザンド,デズデモーナ,オフィーリア,ヴィヴィアン,ポイペー,サロメ,オンファレ),ドビュッシー:喜びの島,ベルガマスク組曲~月の光*,ラヴェル:夜のガスパール〕
角野未来(p)
〈録音:2026年2月,4月〉
[アペール(D)TPCM00001]CD
*…CD限定収録
TOWER CLASSICAL SHIBUYAで「Appels」発売記念イベントが開催!
■場所
TOWER CLASSICAL SHIBUYA(タワーレコード渋谷店8F)
■日時
2026年9月13日(日)14:00開演(13:30集合)
■出演
角野未来(ピアノ)
■イベント内容
ミニライヴ&サイン会
【詳細はこちら】
角野未来ピアノリサイタル~ファーストアルバム発売記念~
■場所
浜離宮朝日ホール(東京)
■日時
2026年9月30日(水)19:00開演(18:15開場)
■出演
角野未来(ピアノ)
■曲目
メル・ボニス:伝説の女性たち
ラヴェル:クープランの墓
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ、ほか
【詳細はこちら】
協力:ファインアーツミュージック

