最新盤レビュー

BOXセット注目盤(12月)

ここでは、最近発売されたBOXセットのなかから注目盤を厳選して紹介します。

C.デイヴィスの “旬”。コンセルトヘボウ管との(旧)フィリップス全録音18枚組BOX

コリン・デイヴィスが(旧)フィリップスに遺した豊潤な名レコーディングから、まさに彼の旬とも言える1970年代(一部60、80年代)コンセルトヘボウ管弦楽団との全録音が18枚組BOXの形にまとまった。ハイドンの交響曲が半数を占め、ベルリオーズ、ドヴォルザーク、ストラヴィンスキーの他、グリュミオーやアッカルドをソリストに迎えた協奏曲も含まれる。当然ながらこの時代のハイティンクやヨッフムが振るコンセルトヘボウとは一味も二味も違った音が聴こえてくるのも新鮮。ちなみに1970年代デイヴィスは同じフィリップスにボストン交響楽団とシベリウス交響曲全集やクラウディオ・アラウとのピアノ協奏曲といった録音も行なっており、そちらもいずれ「ボストン・レガシー」としてBOX化されることも期待しておこう。(Y.F.)

コリン・デイヴィス/ザ・コンセルトヘボウ・レガシー
〔ハイドン:交響曲第82番~第84番,第86番~第88番,第91番~第104番,ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲,ベルリオーズ:幻想交響曲,ムソルグスキー=ラヴェル:展覧会の絵,ドヴォルザーク:交響曲第7番~第9番,ヴァイオリン協奏曲,チェロ協奏曲,ストラヴィンスキー:火の鳥,春の祭典,ペトルーシュカ他〕
コリン・デイヴィス指揮コンセルトヘボウo 他,アルテュール・グリュミオー,サルヴァトーレ・アッカルド(vn)ハインリヒ・シフ(vc)
〈録音:1960年~1983年〉
[Decca〔Eloquence〕(S)(D)4845277(18枚組,海外盤)]

幻のドラマティック・ソプラノ、チェルクェッティのヴェルディ・ライヴ7演目

1950年代、ヴェルディ・ソプラノとして強烈な存在感を誇ったソプラノ、アニタ・チェルクェッティ(1931~2014)の没後10年メモリアル・リリース。20歳でデビューするも1961年には引退しているから、まさしく太く短いキャリアだったが、その10年間にイタリア内外の劇場で歌った公演はどれもが「殿堂入り」級で、当14枚組にはその伝説のヴェルディ公演7種を収録。チェルクェッティのスタジオ録音はポンキエッリ《ジョコンダ》全曲とアリア集1枚があるのみで、彼女の声と表現の凄さを知るには格好のボックスとなる。さらに付言するなら、夢のような共演陣。デル・モナコ、バスティアニーニ、シエピは言わずもがな、ロフォレーゼ、バルビエーリなど録音稀少な歌手たちの至芸が聴けるのも贅沢。(Y.F.)

アニタ・チェルクェッティ/ヴェルディ・ライヴ集1954-1960
〔ヴェルディ:シチリアの晩鐘,ドン・カルロ,仮面舞踏会,エルナーニ,運命の力,ナブッコ(以上全曲)アイーダ(抜粋)〕
アニタ・チェルクェッティ(S)ガブリエーレ・サンティーニ,アントニーノ・ヴォットー,ディミトリー・ミトロプーロス他指揮,マリオ・デル・モナコ,ピエル・ミランダ・フェッラーロ,ジャンニ・ポッジ,アンジェロ・ロフォレーゼ(T)フェドーラ・バルビエーリ,エベ・スティニャーニ(Ms)エットレ・バスティアニーニ(Br)チェーザレ・シエピ,ボリス・クリストフ(Bs)他
〈録音:1954年~1960年(L)〉
[Pan Classics(M)PC10464(14枚組,海外盤)]

1953年バイロイトのカイルベルト指揮《ニーベルングの指環》、正規リリース!

しばしば「ワーグナー上演の黄金時代」と言われる、1950年代のバイロイト祝祭ライヴにまた一つ、53年カイルベルトの「リング」が加わった。カイルベルトには何と言っても55年のTestament盤(ステレオ)がありそちらが決定版とも言えるが、当53年は出演歌手に一部異同があり、例えば《ラインの黄金》のローゲ役ヴィッテ、《ワルキューレ》《ジークフリート》《神々の黄昏》通してのブリュンヒルデ役メードルなど、全体の印象がかなり異なる(ブリュンヒルデは53年C.クラウス盤[Orfeo]ではアストリッド・ヴァルナイ)。そうした歌手による違いを聴き比べてみるのも、本リリースの楽しみの一つ。音質は必ずしも良好とは言い難いが、全体に非常に安定しており、残響が少なく舞台上の歌手の声がクリアに聴こえてくるのが嬉しい。(Y.F.)

ワーグナー:楽劇《ニーベルングの指環》全4部作
ヨーゼフ・カイルベルト指揮バイロイト祝祭o,ハンス・ホッター,グスタフ・ナイトリンガー(Br)ラモン・ヴィナイ,ヴォルフガング・ヴィントガッセン,エーリヒ・ヴィッテ(T)マルタ・メードル(S)ヨーゼフ・グラインドル(Bs)イーラ・マラニウク(Ms)他
〈録音:1953年7月(L)〉
[Pan Classics(M)PC10461(12枚組,海外盤)]

没後100年記念、フォーレの作品を集成

ブルックナーの陰に隠れて目立たなかったけれど、2024年はフランスの作曲家ガブリエル・フォーレ(1845~1924)の没後100年だった。この全集はワーナークラシックス(エラート)の録音を中心に、フォーレのほぼ全創作をまとめたもの。最後の5枚はフォーレ自身や同時代の音楽家による歴史的音源を収録。ブックレットには詳細な伝記(仏英独語)と豊富な図像・写真が掲載されている。ボックスと各アルバムのカバーにはミュシャの絵画が使用されており、ファンなら「フランス音楽のエスプリ」シリーズを想い出すかもしれない。演奏はプラッソン、デュメイ、ハイドシェック、スゼーなど折り紙付きの名演ぞろい。これからフォーレに親しみたいと考えている方々にもお薦めできる。(T.O.)

フォーレ作品全集
〈録音:1913年~2019年〉
[Erato(M)(S)(D)5419794749(26枚組,海外盤)]

巨匠ボレットのデッカ正規録音をまとめて

「最後のロマン派ピアニスト」ホルヘ・ボレット(1914~90)は、キューバ生まれでフィラデルフィアのカーティス音楽院に学び、コンサートピアニストとして活動していたが、ライブを好み録音には消極的だった。60歳を迎えてカーネギーホールで行なったリサイタルが絶賛を浴び、デッカと契約したのが1977年のこと。それからはコンスタントに録音を行ない、特にトランスクリプションを含むリストの演奏は高い評価を得ている。各アルバム(協奏曲4枚を含む)はオリジナルジャケット仕様で、ブックレットも充実。初発売となる1990年2月(死の7か月前)録音のショパン《夜想曲》《子守歌》まで、14年ほどの正規録音を集成したボックスで、改めてボレットの凄さを確かめたい。(T.O.)

『ボレット/デッカ録音全集』
ホルヘ・ボレット(p)他
〈録音:1977年10月~1990年2月(一部L)〉
[Decca(S)(D)4854283(26枚組,海外盤)]

名ピアニスト21人がドイツ・グラモフォンに遺した貴重な記録

オーストラリアのEloquenceレーベルの「ピアノ・ライブラリー」シリーズは、すでに「ウェストミンスター&アメリカ・デッカ」エディション(21枚組)が発売されており、この「ドイツ・グラモフォン(DG)」は第2弾となる。DGというとマウリツィオ・ポリーニやアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ、クリスティアン・ツィメルマンなどがピアニストの代表格として知られているが、このように多彩なピアニストが録音を遺しているのだ。初CD化や初発売を多数含んでおり、ブックレットにはピアノの専門家ジョナサン・サマーズによる各ピアニストの紹介やアーカイブ写真を掲載。しかも各アルバムはオリジナル・ジャケット仕様と至れり尽くせり。愛好者垂涎のセットだ。(T.O.)

『ピアノ・ライブラリー~ドイツ・グラモフォン・エディション』
ヴラディーミル・アシュケナージ,レフ・オボーリン,ボリス・ブロッホ,ミシェル・ブロック,ディノ・チアーニ,ミハイル・フェールマン,ユーリ・エゴロフ,スティーヴン・デ・グローテ,クロード・エルフェ,ヴェロニカ・ヨッフム・フォン・モルトケ,ダイアナ・カクソ,ユリアン・フォン・カーロイ,デイヴィッド・ライヴリー,アレクサンダー・ロンクヴィッヒ,エリー・ナイ,エヴァ・ポブウォツカ,ホルヘ・ルイス・プラッツ,ゾラ・マエ・シャウリス,ロベルト・シドン,エリク・テン=ベルク,パウル・バウムガルトナー(以上p)
〈録音:1951年12月~1980年6月(一部L)〉
[DG(Eloquence)(M)(S)4843089(22枚組,海外盤)]

冒険家のように耕し、太陽王のように歌う

2024年12月19日、ウィリアム・クリスティは80歳になった。アメリカに生まれ大西洋を渡り、フランスHIP界の雄となった彼の傘寿を記念して、この全集BOXは企画された。本国フランスですら忘れかけられていたリュリ、シャルパンティエ、ラモーなどの名作たちをふたたび表舞台へ引き上げたことは彼の、あまりにも大きな功績だ。さりとて、ずらりと並ぶ61枚のディスクをみれば、たちどころにわかる。そのレパートリーは、決してフランス・バロックに片寄ってはいなかった。モンテヴェルディからハイドン、モーツァルトまで、17~18世紀のさまざまなヨーロッパ音楽が一堂に会している。どれも彼の冒険心が投影された演奏だ。ライナーノーツには、果樹園を歩くようにこのBOXを聴いてほしい、という彼の言葉がある。往年の音楽の担い手たちに敬意を表し、プラスティックの山から気の向くままに掬い、再生してみよう。クリスティのHIPは実際に、そのような聴取とも相性がいい。(H.H.)

『エラート録音全集』
 ウィリアム・クリスティ(指揮)レザール・フロリサン 他
〈録音:1994年~2011年〉
[Erato(D)2173.227699(61枚組,海外盤)]

イタリア・オペラの人気者、没後100年の化粧直し

プッチーニについては、オペラ集やアリア集の企画を打ちがちだ。一説によれば現在、もっとも上演回数が多いオペラ作曲家なんだそうだ。たしかに彼のオペラは傑作ぞろい。劇的描写はいまも新鮮だし、オーケストレーションはカラフルだ。このBOXはそんな彼の没後100年を記念して編まれた。カラスが主役を演じた《トスカ》、スコットの《蝶々夫人》、ヘンドリックスの《ラ・ボエーム》などの「名録音」を手がたくおさえている。そして当然という顔で、シモーネ指揮モンテカルロ・フィルの《グローリア・ミサ》がある。彼が書いた宗教曲や管弦楽曲――これらだって実は傑作なのだ――の録音はあったけれど、オペラと並置されたのは珍しい。これはパッケージメディアを戦場とする「罠」だ。プッチーニ=オペラの図式を1世紀も再生産してきた、私たちに対する罠なのだ。マグリットの絵画『ゴルコンダ』のパロディと思しきジャケからして、なんとも意味深長ではないか。(H.H.)

『プッチーニ/ワーナークラシックス・エディション』
マリア・カラス,モンセラート・カバリエ(S)カルロ・ベルゴンツィ(T),ジョン・バルビローリ,クラウディオ・シモーネ,アントニオ・パッパーノ(指揮) 他
〈録音:1954年~2000年〉
[Warner Classics(M)(S)(D)2173.240383(23枚組,海外盤)]

ポーランド室内楽への招待状

彼女たちがまだ音楽学生だった1993年、DAFO SQはメンバーの頭文字をとって命名され、産声をあげた。それから母国ポーランドの「現代音楽」をレパートリーの核に置いて、活動を続けてきた。このBOXに収められたのは、シマノフスキからウカシェフスキにかけての、5人のポーランド人作曲家によるさまざまな室内楽作品。ライナーノーツ(ポーランド語/英語)によれば、ポーランド音楽ガイドとして意図された。その演奏は、モダニズム色の濃い楽曲であってもきれいで、薪ストーブのようにあたたかい。彼女たちが、ポーランド楽派の特徴について語っている「哀歌・聖歌・強弱・アクセント」に浸ることだって難しくない。日本では注目している人の少ないポーランド室内楽だけれど、この録音群には、詳しい人も、そうでない人も、招き入れてくれる懐の深いうたが響く。このBOXは彼女たちの30周年記念盤としての特別な意味も持つ。本国では結成記念日にリリースされたという。(H.H.)

『ペンデレツキ&シマノフスキ,バツェヴィチ,グレツキ,ウカシェフスキ/ポーランドの室内楽作品集』
DAFO弦楽四重奏団,アルカディウシュ・アダムスキ(cl) マレク・シュレゼル(p)
〈録音:1999年~2023年〉
[DUX(D)DUX2040(5枚組,海外盤)]

パーヴォ・ヤルヴィの広範かつユニークな仕事

パーヴォ・ヤルヴィの旧ヴァージン・クラシックスとエラートの全録音を収録したBOXが登場した。父ネーメは別格として、こうしてBOXとして集成されることで、パーヴォの有するレパートリーの広大さには改めて目を瞠らせられる。後期ロマン派以降の作品を中心に、有名曲からいわゆる“秘曲”に至るまで、変化に富んだ収録曲のなかでも、とりわけ特徴的なのは、やはり北欧~バルト三国の作品への力の入れようだ。母国エストニアのペルトやトゥールについては、作曲家本人からの信頼も篤く、この曲のスタンダードといって良いほど定評のある録音だ。また北欧系ではグリーグ、シベリウスを中心に取り上げられているが、シベリウスでは例えば《クレルヴォ交響曲》であるとか、歌劇《塔の乙女》といったあまり演奏機会のない作品が含まれるところが一味違う。近年のフランクフルト放送oとのマーラーや、パリoとのフォーレ、デュティユーなど、いずれも初登場時に話題を呼んだ録音が揃っている。加えて完全初出となるパリoとのフランクの交響曲(2023年ライヴ)が特別収録されているのも嬉しい。(M.K.)

パーヴォ・ヤルヴィ/エラート録音全集
パーヴォ・ヤルヴィ指揮ロイヤル・ストックホルムpo,バーミンガム市so,エストニア国立so,フランス放送po,フランクフルト放送o,パリo,他
〈録音:1996年~2023年〉
[Erato(D)5419795503(31枚組:海外盤)]

フォイアマンのRCA録音集成が全曲新規リマスターで登場

エマヌエル・フォイアマン(1902~1942)といえば、カザルスと並んでチェロ近代化に大きく貢献した20世紀の巨匠として、その名は音楽史に燦然と輝いている。他方、その名声に比して遺された録音は、39歳で夭折したが故に、決して多いとは言えない。なによりも残念なのは、LP時代の到来の前に亡くなってしまったことだ。とはいえ、SPとしては当時最高峰の音質を誇ったRCAでの全録音をCD7枚組に収めた今回のBOXは、フォイアマンの偉大な遺産を後世に伝えるべく万全の仕様に整えられている。ハイフェッツ、ルービンシュタインとの共演盤のように、常にカタログから外れたことがない名盤がある一方、小品集など初CD化の録音も少なくない。バッハの〈アダージョ〉とフォーレの〈夢のあとに〉は原盤元からの世界初発売というから驚く。今回のBOXでは、それらすべての録音がアンドレアス・K・マイヤーによって新規に24ビット・リマスターされている。ジャケットと盤面も可能な限り当時のデザインを再現。貴重な写真や詳細なリリースデータを収めたライナーノーツも充実。ソニークラシカルの丁寧な仕事に敬意を表したい。(M.K.)

エマヌエル・フォイアマン/コンプリートRCAアルバム・コレクション
エマヌエル・フォイアマン(vc)ヤッシャ・ハイフェッツ(vn)ウィリアム・プリムローズ(va)アルトゥール・ルービンシュタイン(p)レオポルド・ストコフスキー,ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィアo,他
〈録音:1939年~1941年〉
[RCA(M)19439977442(7枚組:海外盤)]

Text:編集部

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