ショパンの音楽をジャズで読み替える
RGG『The Soul of Soil』が描く新たな世界

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MCRD077CDS
新譜『The Soul of Soil』

文=山本明尚 (音楽学)

国立ショパン研究所が後援する“読み替え”

ポーランドきってのジャズ・ピアノ・トリオRGGが結成25周年記念アルバムとして発表した『The Soul of Soil』は、同国出身の作曲家ショパンの名曲をジャズの文法で読み替えた作品である。マズルカ5曲、練習曲3曲、夜想曲1曲、いずれも短調の9曲が並ぶ。音楽以前のポイントとして面白いのは、国立ショパン研究所が後援していることだ。芸術音楽の伝統を重んじる国立機関が、自国の代表的作曲家に新しい息吹を与える。そんな意欲を感じさせる。

アルバムのプロモーション・ビデオ。収録曲のお披露目が行なわれた、2025年の大阪公演に際して撮影された映像が使用されている。BGMはトラック2の《練習曲 変ホ短調》Op.10-6(RGG公式YouTubeより)

舞曲の内側にある歌を連れていく

その意欲はもちろん奏者たちにも共有されている。マズルカ イ短調 Op.17-4、嬰ハ短調 Op.6-2、イ短調 Op.67-4……という題名は当然、否が応でもショパンが愛したあの舞曲のリズムを思い起こさせる。ところがRGGは、原曲からメロディーや和声を抽出し、マズルカを別の場所へと連れて行く。冒頭の Op.17-4からしてそうだ。ショパンの哀愁あふれる旋律の断片が徐々に現れ、ゆったりとした音楽が流れ出してくる。短いマズルカ 変ホ短調 Op.6-4は4分半あまりの即興作品へと変貌する——あたかも、フリー・インプロヴィゼーションのさなかに偶然ショパンの旋律が混じり込んだかのように。マズルカなのにマズルカではないのはどうなのだろう、と最初は戸惑ったのだが、何度か聴くうちにこの換骨奪胎に耳なじみがしてくる。舞曲の骨格を抜き、その内側にある歌を別の文脈へ連れ去る。アルバム題を借りればポーランドの「土壌の魂」を、アメリカで生まれたジャズの力を借り、全く違った場所へ連れていっている。

ショパンの記憶を呼び起こし、裏切ることの意義

考えてみれば、この隔たりを楽しめること自体が、ショパンの音楽、様式、語法が聴き手のなかに深く根づいていることの証拠だろう。旋律の輪郭が数小節聴こえるだけで、聴き手の側がマズルカの記憶を補い、原曲との距離を測ってしまう。RGGの演奏は、その記憶の確かさに寄りかかりつつ、それをひとつずつ裏切っていくことで成り立っている。研究所がこの企画を後押ししたのも、ショパンが守られるべき遺産であると同時に、自由に組み替えられる共有財産でもあるという自信の表れに見える。

締めくくりは夜想曲 ト短調 Op.15-3。舞曲めいた3拍子で始まり、聖歌風に(religiosoの指示も伴って)祈るように閉じる原曲を、RGGは約8分に拡張し、ピアノが主題を味わうように、かみしめるように歌い込む。どこへ連れ去られても、ショパンの歌はそこに息づいている。あるいはその歌は、ショパンにまだ深く親しんでいないジャズ・ファンを、原曲の世界へと誘う入り口にもなるだろうか。

The Soul of Soil
〔ショパン:マズルカ イ短調 Op.17-4,練習曲 変ホ短調 Op.10-6,同 変ホ短調 Op.6-4,同ホ短調 Op.17-2,同イ短調 Op.67-4,同嬰ハ短調 Op.6-2,3つの新練習曲~第1番,練習曲 嬰ハ短調 Op.25-7,夜想曲 ト短調 Op.15-3〕

RGG〔ウカシュ・オイダナ(p)マチェイ・ガルボフスキ(b)クシシュトフ・グラジュク(ds & toys)〕
〈録音:2026年1月〉
[Music Corner Records(D)MCRD077CDS]CD

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協力:東京エムプラス

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