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“指揮者”宇野功芳が生前に自ら選んだベスト5アルバムがSACDで復活

宇野功芳:これが僕のベスト5だ!
ディスク情報

宇野功芳 これが僕のベスト5だ!(2024年マスタリング)
〔ブルックナー:交響曲第8番[ノーヴァク版],『功芳の艶舞曲』(初出/アンゲラー:おもちゃの交響曲(伝L.モーツァルト)),モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》序曲,同:交響曲第40番,ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》,ホフシュテッター:ハイドンのセレナード,チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲,ベートーヴェン:交響曲第7番,同:第9番《合唱》〕

宇野功芳指揮 新星日本so,大阪po,仙台po,大阪so,神戸混声cho,丸山晃子(S)八木寿子(A)馬場清孝(T)藤村 匡人(Br)佐藤久成(vn)

〈録音:1992年~2015年〉
[エクストン(タワーレコード)(D)OVEP00032~6(5枚組)]SACDハイブリッド

とらわれのない自由の感覚
変幻自在の「功芳節」

指揮者にしてもソリストにしても演奏スタイルは生涯にわたって変化してゆくけれども、基本はさほど変わらず一貫していることが少なくない。ところが宇野功芳は同時にいくつもの顔をもち、曲によって使い分ける。その変幻自在さはあまりお目にかかれない。

この“マイ・ベスト5”にもその持ち味が疑いもなく聴きとれる。ブルックナーやベートーヴェンの交響曲はあたりの威を払うどっしりした大きな門構えをもつ殿堂のごとくそびえ立ち、ヒューマンな理念を正々堂々と打ち出しててらいがない。流行おくれ、あるいは古臭いと見る向きもいるかもしれない。でも交響曲の原点はかくあるべきという信念に揺るぎなく、ワルターを意識したヒューマンな理念の堅持に胸を打たれる。

『功芳の艶舞曲』と題する小品集に彼のもうひとつの顔が。音楽するよろこびとたのしみがまばゆく放射して、わたしたちがはじめてクラシック音楽を耳にして感動したときの童心に返らせくれる。手練れの演奏にはまりこんで舌先の微妙な味わい分けにうつつをぬかす驕りをカウンターゼロにもどし、もう一度フレッシュな初心をとりもどさせてくれる。ここではクナッパーツブッシュの音楽のたのしみ方、ムジツィーレンするよろこびをともにしているのがわかる。

特異なのはヴァイオリンへの偏愛だ。彼はチョン・キョンファを高く評価し、この“マイ・ベスト5”のチャイコフスキーの協奏曲では佐藤久成を起用。いわば「流し」の懐かしいひびきにたっぷりひたらせてくれる。その原点はSP時代のビクター赤盤の《ツィゴイネルワイゼン》にあるのでは。

彼はオケ以上に合唱の指揮に「命」を賭けていた。日本人らしいはかなさへの一心同体化と共感をこめて。その感性はモーツァルトの交響曲第40番に憑依している。冒頭楽章第1主題の途中で跳ね上がる弦のしゃくりはおえつか泣きじゃっくりか。これほど疾走する哀しみに、またはかなさの真髄にふれえた演奏はほかに思い出せない。

大雑把にいって、彼は4つの顔をもっている。でもどの演奏にも通ずるのは飄々とした質朴感、とらわれのない自由の感覚、音のひとつひとつをじっくり味わう一瞬一瞬の充実感だ。この「功芳節」はチェーホフの「芸術は自分に正直であること以外に道はない」を彼なりに会得した美質から生まれているのはまぎれもない。

喜多尾道冬 (ドイツ文学)


協力:タワーレコード

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