コパチンスカヤ&ファジル・サイ
新作デュオ・アルバム『パトコップ&サイ』に聴く
二人の異才の音楽世界

最新盤レビュー
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新譜『パトコップ&サイ』

文=平野貴俊 (音楽学)

「パトコップ」作品の本格的な初収録!

型破りな創意と多才さで、世界の音楽界に驚きを与え続けるコパチンスカヤとサイ。前者のデビュー盤『スーパー・デュオ!』(2008)[Naïve]以来共演を重ねてきた両者が、『ヤナーチェク、ブラームス、バルトーク/ヴァイオリン・ソナタ集』(2023)[アルファ]に続く3枚目となるデュオ・アルバム『パトコップ&サイ』を発表した(偶然にも2人はこの10月に来日するが、日程が被らずデュオが実現しなかったのは残念)。

注目すべきは、コパチンスカヤの手になる作品が——2023年リリースのアルバム『聖女マリア/母マリア/娼婦マリア』[アルファ]でも、演奏時間1分程度の作品が収められてはいた——実質的に初めて音盤化されたこと。2020年ころから、パトコップという名で作曲家としても活躍する彼女は、ヴァイオリンを含む室内楽の小品を中心に、これまで約50の作品を書いてきた。サイのヴァイオリン・ソナタ第3番《ロスト・スクリームズ・ソナタ》も収録した本盤はしたがって、この規格外の2人の作曲家・演奏家としての側面を両方提示する1枚となっている。

強烈な個性が交差する新作二編

コパチンスカヤを念頭において作曲されたというサイの《ロスト・スクリームズ・ソナタ》は、ごつごつとしたピアノのオスティナートと、エキゾチックな狭い音程が多用された作品。動物が獲物をキャッチするときのような瞬発力で彼女が放つ、獰猛にして鋭い音が鮮烈だ。サイとの2つの共演盤から聴き進めていくと、コパチンスカヤの音がもともと具えていた表現力はここまで来たかと唸らされる。パトコップのヴァイオリンとピアノのための《ユニソロ》(日本語版解説書では「ウニゾロ」)は、「ともに(uni)」と「一つ/1人で(solo)」を組み合わせたタイトルの通り、ヴァイオリンとピアノが、ときに拮抗しながらも一体感のある展開を作りだす。ブーレーズの1950年代のセリー音楽を思わせる、切れ味鋭く乾いた音が特徴的な第1曲、妖気を孕んだピアノの和音とヴァイオリンの囁きにも似た音型が、フェルドマンの静謐な作品を彷彿とさせる第2曲、クラスター主体のピアノと、鮮烈に音を弾けさせるヴァイオリンがデッドヒートを繰り広げる第3曲。現代音楽の豊富な演奏経験を通して彼女が体得してきた、20世紀以降の音楽語法に対する深い造詣が窺われる。

『パトコップ&サイ』プロモーション映像(Alpha Classics公式YouTube)

シマノフスキとプロコフィエフへの新風

古典的なレパートリーを扱ったこれまでの2枚のアルバムと同様、演奏機会の多い2作品も収録されている。シマノフスキ《神話》の第2曲〈ナルキッソス〉におけるサイの精妙な強弱のコントロール、第3曲〈ドリュアデスとパン〉でのコパチンスカヤの、落ち葉が渦を巻く様を思わせる重音の急速な処理が見事。昨今のロシアの政治体制を憂慮するコパチンスカヤは、2曲あるプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタのうち、第2次世界大戦の期間と創作時期がほぼ重なる、仄暗さをたたえた第1番を選んだ。神秘的で秘めやかな雰囲気の第3楽章では、コパチンスカヤが発する押し出しの強い高音が、日本刀のごとく鋭利で妖しげな輝きを放つ。ともすれば茫漠とした印象を与えがちなシマノフスキ、威厳と力強さで押し切られてしまいがちなプロコフィエフの作品に、2人はアーティキュレーション、フレージングの隅々にまで配慮することで、輪郭の明快な響き、陰影ゆたかな表情を与え、両作品の解釈に清新な息吹を吹き込んだ。

パトコップ&サイ
〔サイ:ロスト・ヴァイオリン・ソナタ 第3番《スクリームズ・ソナタ》,シマノフスキ:神話,パトコップ(パトリツィア・コパチンスカヤ):ユニソロ,プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第1番〕

パトリツィア・コパチンスカヤ(vn)ファジル・サイ(p)
〈録音:2026年4月26日〉
[アルファ(D)NYCX10621]CD

2026年10月16日より好評発売中♪

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協力:ナクソス・ジャパン

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