阪田知樹でなければ作れないアルバムが
リスト・コンクール優勝10年&デビュー15年に登場!
フランツ・リストの奥深さが詰まった新譜について

インタビュー
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俊英が続々登場する現代日本のピアノ界でも、圧倒的なテクニックと鋭敏な音楽性、また広範なレパートリーを開拓しつづける積極性などで、群を抜く存在である阪田知樹。1993年生れという若さにもかかわらず、かなりマニアックなCDコレクターであることも、『レコード芸術ONLINE』読者の方々の共感を得るところだろう。
 その阪田が、「ライフワーク」と位置づけるフランツ・リスト(1811~86)作品のアルバムを制作した。「阪田知樹でなければ作れないアルバム」を目指したというこのリスト・アルバムについて、話をきいてみた。

インタビュー・文=山崎浩太郎(演奏史譚)
写真=友澤綾乃
取材協力=ソニーミュージック・レーベルズ、ジャパン・アーツ

【新譜情報】

ラ・カンパネッラ~リスト/ピアノ作品集

阪田知樹(p)
〈録音:2026年6月〜7月〉
[ソニー・レコーズ(D)SICC19099]※SACDハイブリッド

※2026年9月30日発売予定

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フランツ・リスト:

Tr.1 パガニーニによる大練習曲S141/R3b 第3番 嬰ト短調《ラ・カンパネッラ》
Tr.2 ピアノ・ソナタ ロ短調 S178/R21
Tr.3 巡礼の年第2年 イタリア S161/R10 第5曲《ペトラルカのソネット第104番》
Tr.4 夜想曲《夢の中で》S207/R87
Tr.5 忘れられたワルツ 第1番 S215/R37
Tr.6 超絶技巧練習曲 第5番《鬼火》S139/R2b
Tr.7 ハンガリー狂詩曲 第12番 嬰ハ短調 S244/R106
Tr.8 愛の夢 第3番 変イ長調 S541/R211
Tr.9 パガニーニによる超絶技巧練習曲 S140/R3a 第3番 変イ短調《ラ・カンパネッラ》

プロデューサー:小山哲史(ソニー・ミュージックレーベルズ)
録音&マスタリング・エンジニア:鈴木C浩二(ソニー・ミュージック乃木坂スタジオ)
アシスタント・エンジニア:房野哲士(ソニー・ミュージック乃木坂スタジオ)
録音機材:西澤亜友(SCI)

ピアノ調律:程内隆哉
マネージメント:山田亮子、井原 和(ジャパン・アーツ)

デザイナー:塩崎さゆり
カメラマン:西村 淳
ヘアメイク:山崎初生
スタイリスト:井元文子
制作進行:因泥沢子(ソニー・ミュージックソリューションズ)

エグゼクティブ・プロデューサー:辻野 学、松本吉史、黒木美和(ソニー・ミュージックレーベルズ)

スペシャル・サンクス:菊池一成、比田井 淳、辻 さつき、比田井 淳、眞島哲也(軽井沢大賀ホール)

マニアックで幅広いリスト・アルバム

まず、リスト・アルバムを作ろうと思われたきっかけをお話しください。

阪田 今年2026年は、自分がリスト・コンクールで優勝してから10年、デビューから15年という節目の年なので、ライフワークとして取り組んできたリストの作品に、あらためて向きあおうと思いました。
 リスト作品のアルバムは、自分がいろいろ聴くなかで、2パターンあるように思うんです。一つは全集系で、例えば《巡礼の年》を全曲入れる感じ。もう一つはオムニバスの名曲集で、《ラ・カンパネッラ》《メフィスト・ワルツ》《コンソレーション》《愛の夢》など、とにかくいちばん有名な曲をぜんぶ入れました、という感じですね。
 そのなかで、自分がリストのアルバムを作るのなら、阪田知樹でなければ作れないアルバム、つまり、ある種のマニア性を含めたアルバムという要素もありつつ、リストの生涯とその幅広い魅力を凝縮した、ベスト的なアルバムを作りたいと思ったんです。

阪田知樹 SAKATA Tomoki

2016年フランツ・リスト国際ピアノコンクール(ハンガリー・ブダペスト)第1位、6つの特別賞。
 2021年エリザベート王妃国際音楽コンクール第4位入賞。
 第14回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにて弱冠19歳で最年少入賞。
 極めて広範なレパートリーを持ち、演奏したピアノ協奏曲は50曲を超える。
 シャルル・デュトワ、レナード・スラットキン、アレクサンドル・ラザレフ、シルヴァン・カンブルラン、ヤン・パスカル・トルトゥリエ、ヴラディーミル・ヴァーレック、アンドレア・バッティストーニ、ヤーノシュ・コヴァーチュ、サッシャ・ゲッツェル、スタニスラフ・コチャノフスキー、秋山和慶、井上道義、尾高忠明、大植英次、広上淳一、大野和士、他諸氏の下、シュターツカペレ・ハレ、ソフィア・フィル、チェコ国立響、ハンガリー国立フィル、ベルギー国立管、フォートワース響、N響、都響、東京フィル、日本フィル、読響他と共演。
国内はもとより、世界各地20カ国以上で演奏を重ね、音楽祭への出演多数。クレムリン国際音楽祭では、オール・リスト・プログラムによるリサイタルをニコライ・ペトロフ氏が「世界一のリスト」と絶賛。
 2022年には、神奈川フィルハーモニー管弦楽団とのピアノ協奏曲弾き振り、及びリストの管弦楽作品日本初演の指揮を行い、指揮者デビュー。
 作曲家としても精力的な活動を展開しており、管弦楽作品から映画音楽まで作曲活動を展開する。
 2015年CDデビュー、2020年3月、世界初録音を含む意欲的な編曲作品アルバムをリリース。
 東京藝術大学を経て、ハノーファー音楽演劇大学にて学士、修士、同大学院ソリスト課程を最優秀の成績で修了。
 第66回横浜文化賞文化芸術奨励賞、第32回出光音楽賞、第72回神奈川文化賞未来賞、第27回ホテルオークラ音楽賞を受賞。

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1 イリュージョンズ
〔ショパン(バラキレフ編曲):ピアノ協奏曲第1番~第2楽章,リスト:「リゴレット」による演奏会用パラフレーズS.434,ハンガリー狂詩曲第2番S.244/2(カデンツァ:阪田知樹),チャイコフスキー (フェインベルク編曲):交響曲第5番~第3楽章,ラフマニノフ(阪田知樹編曲):私は彼女のもとにいた,ヴォカリーズ,他〕

阪田知樹(p)
〈録音:2019年9月,12月,20年1月〉
[ソニー・ミュージック(D)SICX10027]SACDハイブリッド

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2 ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ全集
〔+パラディス:シチリアーノ〕

辻彩奈(vn)阪田知樹(p)
〈録音:2023年4月〉
[ソニー・ミュージック(D)SICX10021]SACDハイブリッド

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★本アルバムの「新譜月評」はこちら(批評:満津岡信育さん)

阪田知樹 ピアノ・リサイタル

[日時]
2026年11月10日(火)19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール
詳細はこちら(ジャパン・アーツのページ)

[出演]
 阪田知樹(ピアノ)

[曲目]
・J.S.バッハ(F.リスト編曲):オルガンのための幻想曲とフーガ ト短調 S.463ii/R.120
・F.リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178/R.21
・F.リスト:3つの演奏会用エチュード S.144/R.5 第2曲 へ短調《軽やかさ》
・F.リスト:J.S.バッハの主題による変奏曲 S.180/R.24
・F.リスト:調性のないバガテル S.216a/R.60c
・F.リスト:2つの演奏会用エチュード S.145/R.6 第2曲《小人の踊り》
・F.リスト:2つの演奏会用エチュード S.145/R.6 第1曲《森のざわめき》
・F.リスト:V.ベッリーニの歌劇「ノルマ」の回想 S.394/R.133

阪田 リストの生涯を一枚で俯瞰していただけるものでありつつ、《ラ・カンパネッラ》なら通常の版だけではなく演奏の難しい初期の版も入れ、超絶技巧練習曲からも難曲で一筋縄で行けるタイプの曲ではない《鬼火》を選ぶ。また《ハンガリー狂詩曲》の第12番は、ハンガリー人としてのリストの自覚を示すものでもあるし、自由度が高くて、すごく変化に富んでいる。私自身も、演奏の出来にとても自信があるものになりました。
 どれも自分が長い間レパートリーに入れて、愛奏してきた曲ばかりです。また《ハンガリー狂詩曲》第12番や《ラ・カンパネッラ》の通常版、ロ短調のピアノ・ソナタなどは、10年前にリスト・コンクールで優勝した時に演奏した曲でもあります。

リストをライフワークにすることで見えてきたもの

リストが「ライフワーク」となった経緯をお話しください。

阪田 中学2年で初めてリストの《BACHの主題による幻想曲とフーガ》を弾いたときは、理解しにくかったんです。でもいろいろな曲を弾いてみたり、伝記を読んだりするうちに変わってきました。それから、これはいつも心がけていることの一つなのですが、新しい作曲家に取り組むときには、ピアノ曲だけでなくその作曲家のオーケストラ曲、歌曲や室内楽曲などを、可能なかぎり聴いてみるのです。
 リストでは13曲の交響詩や《ダンテ交響曲》や《ファウスト交響曲》などが入った、クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のCDなどを聴いてみました。それからあらためて自分で弾いてみると、作風が曲によってすごく違うことに気がついたんです。
 特に《愛の夢》とか《ラ・カンパネッラ》は、キャッチーで華やかなイメージが先行しがちだと思いますが、そうではないところがたくさんある。あまり知られてない部分をもっと知りたくなり、ゆくゆくはそういう部分を世に広めていきたいという気持ちになって、徐々に自分のライフワークという位置づけになっていった感じです。

リストには「キャッチーで華やか」ではないところが、たくさんあるんですよ

リストの「あまり知られてない部分」というのは、どんなところなのでしょう?

阪田 リストは当時の作曲家としては、ショパンやシューベルト、シューマンなどに比べて、とても長生きをして、およそ75年の生涯をまっとうしました。若い頃のヴィルトゥオーゾ的な作品から、オーケストラ曲などに取り組んだ後に、最終的には近代のドビュッシーとかの世界を先取りするような、やや調性感の希薄な、独特な世界を作っていきます。
 このように、年代によって作風が違うけれども、根底にある響きの価値観や好みは動かない。ある種矛盾した部分であるのですが、それは彼が、自分自身に素直に向き合った結果だと思います。人間というのは、それぞれに矛盾している部分をつねに持ち合わせていますから、そういう意味では、極めて人間的な側面を持つ作曲家だと思います。
 演奏と作曲だけでなく、同時代の音楽にも目を向けて、価値があると思えば積極的に取り上げて、世に広めていくことをしました。後の世代の作曲家やピアニストのキャリア形成の手助けをしたり、アドバイスをしたりしています。作曲家でありピアニストであり指揮者でもあり、教育者の側面も持っている人なのです。
 英語で表現するところの「コンプリート・ミュージシャン」なのです。自分もそうした多面的な音楽家になることを理想としているので、このことも、自分がライフワークとして取り組むきっかけになっている部分だと思います。

《ロ短調ソナタ》と《ラ・カンパネッラ》のこと

オーケストラ曲などを聴いたあとで、ピアノ曲に戻ってきたときに、認識が変わっていったところもありますか。

阪田 それはあります。例えば、規模の大きなロ短調ソナタは、すごくピアノ的な書かれかたをされている一方で、音楽の内面には、とてもオーケストラ的であったりとか、30分間休みのない音楽の構築のしかたには、オペラ的な部分もあったりします。リストが幅広く音楽の知識を持つ音楽家だからこそ、生み出せた作品だと思います。
 単一楽章で30分というのは、おそろしく斬新なことだったわけですが、過去のベートーヴェンの32曲のピアノ・ソナタからの影響というのも、すごく強く見えます。温故知新というか、昔の知識や技術から得たものに、自分の新しいアイデアを加えて、新しいものを作っていく。自分も実際に作曲をしていて、そういう部分を再認識しますね。
 この作品に関しては、とても緻密に書かれているので、どの部分にも、特にそのすべての声部に、強い意思が込められた音楽だと思います。ある種の軽さや即興性がありながらも、その緻密さを、ある程度は認識しないといけないと私は考えます。
 リストがその人生で唯一書いたソナタ、という重みもあります。これが私のソナタ形式だと、この単一楽章の作品で明確に打ち出すことができたとリストが思ったからこそ、もう繰り返す必要はなかったのではないかと。それに足る作品だと私は思います。

このアルバムは、ぜひ、一つの物語のようにお聴きいただきたいです

ありがとうございます。最晩年の夜想曲 《夢の中で》まで含めた幅広い選曲のなかで、《ラ・カンパネッラ》が二種あるのもポイントですね。最後に置かれたものはかなり技巧的な版ですが、1曲目の、聴く機会の多い版でも独自の解釈をされていますね。

阪田 ロ短調ソナタの書法の緻密さとは矛盾するようですが(笑)、リストは自作を演奏するときかなり自由で、楽譜にはない改変も加えたようです。そこで私も、通常版でもいくつかの変更を入れて、音楽の起伏を作ったりしてみました。
 リストのこの曲には四つの版がありまして、我々がよく聴くのは、いわゆる通常版、1851年出版の最終稿です。今回のCDではこれが最初にあって、最後にあるものは2番目に書かれた、1838年頃に作曲されたとされるバージョンなんです。すごく難しくて、演奏不可能と言われるぐらいのもので、録音もほとんどないんです。
 今回は、全体をこの二つのバージョンでサンドイッチしました。CDというのは、一つの物語のような感じでお聴きいただけるのがよいと、個人的には思っています。《ラ・カンパネッラ》に始まり、最後に若い頃の《ラ・カンパネッラ》が出てくることで、物語性を感じていただけたらというのが、私の隠れたメッセージなんです。
 このアルバムをきっかけに、「リストって有名な曲しか知らなかったけれども、こんな曲もあるのなら、他のリストの曲を聴いてみようかな」と、ちょっとでも思うきっかけになったら、嬉しいです。

アルバムにますます興味がわくお話、ありがとうございました!

【イベント情報】
「ラ・カンパネッラ~リスト・ピアノ作品集」CD発売記念イベント

■場所
TOWER CLASSICAL SHIBUYA(タワーレコード渋谷店8F)

■開催日時
2026年11月14日(土)12:00開演

■出演
阪田知樹(ピアノ)

■イベント内容
ミニライブ&トーク&サイン会

詳細はこちら

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