クラシック
リイシュー&BOX注目盤(5月)

最新盤レビュー
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ここでは、最近発売されたクラシックのリイシュー&BOX盤のなかから注目盤を厳選して紹介します。

“不遇の名盤” ベームの《影のない女》がSACDになって完全復活

 記念すべき《影のない女》全曲初録音であり、しかもステレオ録音であるにもかかわらず、本盤はなぜかあまり注目を集めない存在であった。それには少々複雑な事情があった。
 この全曲録音を何より熱望したのは、カール・ベーム本人であった。1955年のウィーン国立歌劇場再開を飾るため、万全のキャストを揃えたベームは、その公演をそのままレコードに残したいと強く望んだ。デッカはこれをモノラル録音で収録するため、ベテランのプロデューサー、ヴィクター・オロフに白羽の矢を立てた。
 一方、1955年といえば、バイロイト音楽祭でヨーゼフ・カイルベルト指揮による《ニーベルングの指環》全曲をステレオで録音するという、極めて野心的なプロジェクトが行われた。そのプロデューサーを任されたのが、当時若手のピーター・アンドリーであった。アンドリーはバイロイトでの成功の勢いのままウィーンに乗り込み、《影のない女》も実験的にステレオで録音することにした。ただしメインはあくまでモノラル録音であり、ステレオの方は歌手たちに一切内緒のまま、高く設置された2本のバランス・マイクのみを使用して並行収録された。
 ステレオ録音は実験的な試みだったため、初出はモノラルのみ(今回のSACDジャケットに使用されているLXT 5183)となり、ステレオ版は長らくお蔵入りとなっていた(この経緯は、カラヤン=フィルハーモニア管弦楽団の《ばらの騎士》とよく似ている)。それが初めて陽の目を見たのは、Ace of Diamondsレーベルによる廉価再発盤(GOS 554-7)においてであった。この盤は廉価盤ゆえ、そうした背景はブックレットに一切記されていない。
 しかしその再発LPで聴く音質は、実験的ステレオ録音とは到底思えない極上のものである。録音会場がゾフィエンザールではなく楽友協会ホールだったため、後年の典型的なデッカ・サウンドとはやや異なるが、歌手がそこに実在しているかのような生々しさと、オーケストラのスケール感を破綻なく捉えた点は見事である。考えてみれば、マイク配置に大きな制約があったバイロイトで、あれだけの録音を成し遂げた経験が、このウィーン録音にダイレクトに活かされたのであろう。
 後に国内盤や海外廉価盤でCD化もされたが、それらの音質は残念ながらLPとは別物と言わざるを得ない。今回のSACD化によって、CDでは平面的に貼り付くように聞こえていた歌唱が本来の奥行きと実在感を取り戻し、オーケストラも窮屈さから解放され、LPの音質に肉薄する仕上がりとなっている。
 今回は歌詞対訳に加え、広瀬大介氏による新規解説も付録され、この不遇の名盤がようやく万全の形で世に出たことを、心から寿ぎたい。(M.K.)

R.シュトラウス:歌劇《影のない女》全曲

カール・ベーム指揮ウィーンpo,ウィーン国立歌劇場cho,ハンス・ホップ(T)レオニー・リザネク,クリステル・ゴルツ(S)エリーザベト・ヘンゲン(Ms)パウル・シェフラー(Br)他
〈録音:1955年11月,12月〉
[デッカ—タワーレコード(S)PROC2486~8(3枚組)]SACDハイブリッド

カラヤンの《新世界より》をリサイクル・レコードに乗せて

 サステナビリティ(持続可能性)の概念が叫ばれて久しい。さらにエコロジーなどの問題意識を、人類の文明を続けるために必要なこととするSDGs(持続可能な開発目標)が、2015年に国連で採択されて現在に至る。パッケージ・メディアだって他人事ではない。レコードはポリ塩化ビニルでできている。元を辿ればナフサつまり石油を原料としている。いちいち新しくプレスしていては枯渇する。そんな背景で企画されたのがこの盤。100%リサイクル素材で、赤く塗装されてはいるが、表面には混成素材(恐らくあらゆるプラスチック製品が原料だ)由来のマーブル模様が出ている。プレスされたのはカラヤンの4回目の録音で、コスモポリタン的な解釈を徹底させた1977年の《新世界より》。もちろん、思想が先走って音が悪くなったなんてことはなく、むしろ素材の緩さが古い盤を思わせて味わい深い。これをインテリア用に買った人がいるなら、ただ飾っておくだけなのはもったいないですよ。(H.H.)

ドヴォルザーク:交響曲第9番《新世界より》(リサイクルLP)

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリンpo
〈録音:1977年1月〉
[Warner Classics(S)2685428334(海外盤)]LP

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あなたは何の幻影を見つけるだろうか?

 阪田知樹が2020年に発表した2ndアルバム。1台のピアノで、8つの幻影イリュージョンを表現するコンセプトで作られた。こう書くとカジュアルに聴ける感じがするけれど、全然安心して聴けない。なかでもビビるのはチャイコフスキーの交響曲をフェインベルクがピアノ独奏用に編曲した、トラック4と5。呆然としてしまう難曲である。彼がいう「幻影」は、ライナーノート冒頭のテキストによればオーケストラであったり、人間の声であったりするようだ。編曲ものが多いし、確かにその側面はある。ただ、それよりも鮮烈に想起される「幻影」は、リストやアルカンといった、19世紀のヴィルトゥオーゾの姿。先日の記者懇親会でも語られたことだが、かつていたピアニストの輝きを追い求め、それを現代のピアノ演奏にインストールする試みを続ける阪田。過去のピアニストは自分で編曲をして、カデンツァを作った。阪田が表現するのは、そうした音楽文化の真実の1つなのだ。(H.H.)

イリュージョンズ
〔リスト:「リゴレット」による演奏会用パラフレーズS.434,ハンガリー狂詩曲第2番S.244/2(カデンツァ:阪田知樹),チャイコフスキー (フェインベルク編曲):交響曲第5番~第3楽章,同第6番~第3楽章,ラフマニノフ(阪田知樹編曲):私は彼女のもとにいた,ヴォカリーズ,他〕

阪田知樹(p)
〈録音:2019年9月,12月,20年1月〉
[ソニー・ミュージック(D)SICX10027]SACDハイブリッド

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20世紀の最後の10年、バレンボイム&シカゴ響がワーナー(エラート/テルデック)レーベルに刻んだ全録音

 2月の当コーナーでご紹介した「バレンボイム=パリ管弦楽団EMI&Erato録音全集」15枚組に続いて、今度はシカゴ交響楽団とのワーナー全録音が37枚組BOXにまとまった。同響音楽監督の在任中(1991年~2006年)のバレンボイムは、ほぼ夏の間はバイロイトでワーグナーに専心し(同じTeldecの《指環》全曲セッション・ライヴ盤は1991~92年収録、《マイスタージンガー》全曲が1999年、ベルリン・フィルとの《トリスタンとイゾルデ》1994年)、この時期に一方でシカゴでブラームスの交響曲全集や協奏曲、ドイツ・レクイエムなどを次々録音していったのは興味深い。また、コリリアーノ《交響曲第1番》に代表されるような同時代の音楽の録音も大きな貢献で、当全集の最終(2001年)が意図してか偶然かフルトヴェングラーの交響曲となったのも彼ならでは。いずれにせよ20世紀の最後の10年は、彼のレコーディング・キャリアのピークとも言え(もちろん若い頃の録音もチャーミングなんだけど)それが一分の隙もなくぎっしり詰め込まれている。 (Y.F.)

バレンボイム&シカゴ交響楽団~ワーナー・クラシックス録音全集
〔1970年デュ・プレ(vc)とのドヴォルザーク:チェロ協奏曲から2001年フルトヴェングラー《交響曲第2番》まで〕

ダニエル・バレンボイム指揮シカゴso,イツァーク・パールマン,マキシム・ヴェンゲーロフ(vn)ヴァルトラウト・マイアー(Ms)プラシド・ドミンゴ(T)他
〈録音:1970年,1990年~2000年〉
[Warner Classics(D)2173298072(37枚組,海外盤)]

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今年生誕100年のテンシュテットを、懐かしみ、再発見する旅

 国語辞典や百科事典を1ページ目から順に読んでいく人は稀だろうが、このテンシュテットの41枚組WarnerコンプリートBOXは、レファレンスとして置いておくのはあまりに勿体ない。一枚一枚が、え?こんな録音あったっけ?と再発見しきりで、また懐かしいジャケットに再会できたりと油断がならない。テンシュテットといえば誰もが真っ先にマーラー交響曲全集(スタジオ全曲+ライヴの別録音も網羅)の熱演を想起するだろうが、今回初CD化となるギャリック・オールソンとのブラームス《ピアノ協奏曲第1番》やウルフ・ヘルシャーとの同《ヴァイオリン協奏曲》などは、すっかり忘れられていた超の付く名演盤かも。ブラームスつながりで言えば《ドイツ・レクイエム》も、純朴なヒュンニネンのバリトン独唱も含め隠れた名演奏で、「ドイツ人」テンシュテットの矜持を見る。マーラーに戻ると《子供の不思議な角笛》と《交響曲第4番》、さらにR.シュトラウス《4つの最後の歌》では、早逝したルチア・ポップにも再会でき、彼らがひたむきに「音楽」と向き合っていた1980年代へ一瞬でタイムリープできるBOXの登場に感謝する。 (Y.F.)

クラウス・テンシュテット~ワーナー・クラシックス録音全集
〔1977年オラシオ・グティエレスとのグリーグ&シューマン:ピアノ協奏曲から1993年(L)マーラー:交響曲第7番まで〕

クラウス・テンシュテット指揮ロンドンpo,ベルリンpo,北ドイツ放送so,シカゴso他,チョン・キョンファ(vn)ギャリック・オールソン(p)ジェシー・ノーマン,ルチア・ポップ(S)ヨルマ・ヒュンニネン(Br)他
〈録音:1977年~1993年〉
[Warner Classics(S/D)2685420144(41枚組,海外盤)]

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極めつけ!アンダ&フリッチャイのバルトーク&ブラームス世界初SACD化

『名曲名盤』『不滅の名盤』といった類の企画では、バルトークのピアノ協奏曲は、アバド&ポリーニ盤、ブーレーズ&ツィメルマン/アンスネス/グリモー盤がトップに挙がることが多いが、これにはいつも異論があって、絶対フリッチャイ&アンダだろう!とひそかに思っていた。バルトークがハンガリー人だから、このハンガリー出身の二人に勝るものはない、と理由付けするのは少々安易だが、フリッチャイのエッジの効いた音作りと、アンダのクールな音色はまさに極めつきと言うほかない(きっと二人はリハーサルではハンガリー語で話したんだろうな、などと想像するとニンマリしてしまう)。この文脈で言うとブラームスの方はイタリア式のアバド&ポリーニではなくて純正ドイツ式のベーム&バックハウスでしょう、となるんだが、やっぱり、変にベタつかないフリッチャイ&アンダを推したい(アンダはカラヤンとの67年録音もあるんだが、やっぱりこっちなんだよなぁ)。要は単なる同コンビのファンというわけだが、この金字塔のような協奏曲録音がSACD化となると、早くも今年の(個人的)年間リマスター大賞候補と言いたくなる。 (Y.F.)

バルトーク:ピアノ協奏曲第1番~第3番、ラプソディ、ブラームス:ピアノ協奏曲第2番*

ゲザ・アンダ(p)フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン放送so,ベルリンpo*
〈録音:1959年9月,1960年5月*,10月〉
[DG—タワーレコード(S)PROC2482~3(2枚組)]SACDハイブリッド

朝比奈隆の「最後のシューベルト」が初SACD化

 この演奏会に立ち会えたファンは本当に幸福だったろう……。
 朝比奈隆のシューベルトはこのサントリーホールでのライヴが最後となった。中丸美繪の『朝比奈隆 四つの試練 オーケストラ、それは我なり』(文藝春秋・刊)によると、朝比奈はこの頃すでに癌を患っており、本人に告知はされなかったものの、日に日に衰えゆく体力に抗っての指揮活動は、常に満身創痍の状態だったそうだ。《グレイト》の64分という演奏時間は、リピートをすべて行ったからで、テンポは極端に遅いわけではなく、むしろ若々しさすら感じさせる。この頃の朝比奈の演奏会は、毎回が一期一会の特別な空気に包まれていたが、ファンはいつか訪れるであろう「終わり」を心の片隅に感じながら、かけがえのない「天国的な長さ」を享受した。本音源は、これまでDVD映像のみで発売されていたが、この度、タワーレコードから新規リマスタリングされ、初めてハイブリッドSACDとして世に出た。(M.K.)

シューベルト:交響曲第8番《未完成》,同第9番《ザ・グレイト》

朝比奈隆指揮 大阪po
〈録音:1999年7月(L)〉
[エクストン—タワーレコード(D)OVEP00038~9(2枚組)]SACDハイブリッド

オルガン録音プロジェクトの金字塔が完全復刻

 1958〜75年にエラートが制作した伝説の60枚組LP『L’Encyclopédie de l’Orgue(オルガンの百科事典)』が、CDボックスとして完全復刻された。ミシェル・ガルサン、オリヴィエ・アラン(マリー=クレール・アランの兄)によるこのプロジェクトは、ルネサンスから現代までのオルガン音楽を体系的に網羅することを企図したものだ(但し、J.S.バッハの作品が全く含まれていないのは、半数以上を演奏しているマリー=クレール・アランが、別途バッハ全集を先行して完成していたためだろう)。
 本プロジェクト最大の魅力は、バラエティに富んだオルガンで、各時代・地域・作品に完全に適合した歴史的オルガンが選ばれている。フランス古典派には17-18世紀の伝統的フランス・オルガン、フランク・ヴィドールらロマン派・交響派にはカヴァイエ=コル製の大規模シンフォニック・オルガン、北ドイツ・北欧バロック(ブクステフーデなど)にはデンマーク・スウェーデンの力強く明瞭なバロックオルガン、イタリア派にはボローニャ・サン・ペトロニオの歌うような古典オルガンを使用することで、作品・楽器・演奏者の理想的な三位一体を実現している。
 曲目は、ブクステフーデとパッヘルベルについてはほぼ全集、フランス古典派(グリニー、クープラン、ダンドリューなど)、フランク、ヴィエルヌ、ジャン・アラン全集など、フランス・ドイツを中心に網羅。演奏者は先述のアランの他、アンドレ・マルシャル、デュリュフレ夫妻、グザヴィエ・ダラス、タリアヴィーニ、ハイラーなど豪華極まりない。残念ながらLPにあったオリヴィエ・アランによる詳細な解説までは掲載さいていないが、Michel Roubinetの熱のこもった解説は一読の価値がある。(M.K.)

オルガン百科全書
〔ジャン=フランソワ・ダンドリュー,ピエール・デュマージュ,ルイ=ニコラ・クレランボー,フランソワ・ダングルクール,セザール・フランク,ルイ・ヴィエルヌ,シャルル・トゥルヌミール,ディートリヒ・ブクステフーデ,他の作品〕

マリー=クレール・アラン、アンドレ・マルシャル、モーリス・デュリュフレ、マリ=マドレーヌ・デュリュフレ=シュヴァリエ、ルイジ・フェルディナンド・タリアヴィーニ、アントワーヌ・シベルタン=ブラン、グザヴィエ・ダラス,他
〈録音:1958~74年〉
[Erato(S)2685410818(46枚組,海外盤)]

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