シェヘラザード
〔リムスキー=コルサコフ:交響組曲 《シェヘラザード》 Op.35(広瀬悦子編曲/ピアノ独奏版)、ボルトキエヴィチ:東洋的バレエ組曲 《千夜一夜物語》 Op.37〕
広瀬悦子(p)
〈録音:2024年9月〉
[Danacord(D)XDACOCD985(国内仕様)]
[Danacord(D)DACOCD985(海外盤)]
※国内仕様は11月下旬発売
ピアノからオーケストラが聞こえる
広瀬悦子はフランスと日本を拠点に国際的な活躍を続けるピアニスト。数々の国際音楽祭にも招待されているが、やはり「ラ・フォル・ジュルネ」に欠かせないピアニストという印象が強く、数々の公演で大成功を収めている。広瀬は2004年にデビューアルバムをリリースして以来、幅広いレパートリーのディスクでその確かな技巧、美しい音色とスケールの大きな音楽づくりが高く評価されているが、そんな彼女の最新盤は「アラビアン・ナイト」を題材にした楽曲が収められた『シェヘラザード』。中心となる楽曲はアルバムのタイトルにもなっているリムスキー=コルサコフの交響組曲《シェヘラザード》である。オーケストラ作品を広瀬が自ら編曲しピアノ曲として完成させている。
広瀬は持ち前の圧倒的なテクニックをこれまで様々な楽曲で披露してきたが、オーケストラの多彩な音色をピアノ1台に落とし込むというのは簡単なことではなく、ピアノという楽器の特性では困難な音型、和音の厚さなど様々な演奏上の問題が発生する。しかし広瀬はこれまでにもオーケストラの楽曲の編曲作品や演奏至難な超絶技巧作品に果敢に挑み、それらを成功させてきた実績があり、今回もそれを見事に成し遂げている。ニュアンスに富んだ音色を駆使して、様々な楽器の響きを想起させるだけでなく、楽曲の世界観を描き出しているのだ。特にこの楽曲は弦楽器の響きが重要になってくるが、それを減衰楽器であるピアノで見事に再現。これは技術の精度はもちろんだが、音に対する鋭敏な感覚があるからこそ実現できるものである。一方でピアノならではの効果も最大限に発揮した楽器の鳴らし方も計算されており、編曲者としての広瀬の才能にも驚かされた。
カップリングに選ばれたのはウクライナの作曲家、ニコライ・ボルトキエヴィチの《千夜一夜物語》。こちらは管弦楽曲を構想して作曲され、最終的に管弦楽版も書かれたということもあり、やはりオーケストラの音色が聞こえてくる楽曲。魅力的な旋律を丁寧に響かせながら、この曲でも各楽器を思わせる多彩な音色を聞かせてくれる。
本盤は魅力的な楽曲が収められているのと同時に、広瀬悦子というピアニストの技術、音色、表現力と様々な面を存分に味わうことのできる一枚となっている。
長井進之介 (ピアニスト・音楽ライター)
協力:東京エムプラス