ハイドン/ロンドン交響曲全集VOL.2
〔交響曲第94番《驚愕》,同第99番,第95番,第98番〕
パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン
〈録音:2021年11月,12月〉
[RCA(D)SICC10468~9(2枚組)]SACDハイブリッド
4950円
余裕をもって遊び心を楽しむ
パーヴォとドイツ・カンマーフィル(DKAM)によるハイドンの「ロンドン・セット」第2集である。2019年録音の第1弾、《時計》と《太鼓連打》の1枚は優れた出来で、各国で高い評価を受けた。また2022年の来日公演でも、ハイドン3曲の一夜は大好評だった。
パーヴォがDKAMの芸術監督に就任して2024年でちょうど20年、その間に録音したベートーヴェン、シューマン、ブラームスの交響曲全集と比較しても、ハイドンのセットは特に優れた、このコンビの代表的業績となるものと思われる。正直なところ、最初の10年ほどはあまりにアグレッシブな、攻撃的といってもいいほどの音楽づくり(実演にくらべればまだしも抑制されていたが)で、こちらが聴き疲れしてしまう印象もあった。
しかしいま、指揮者も楽員も年輪を重ね、関係も熟成を重ねた段階において、ハイドンの「ロンドン・セット」の音楽は、かれらにとてもよく合っていると感じられる。力まずあわてず、また奇をてらうことなく、余裕をもってハイドンの遊び心を楽しみながら、尽きることのない豊潤な生命力を音にする。
小型ティンパニやナチュラルのトランペットを用いつつ基本はモダン楽器、弦はノン・ヴィブラートというスタイルはいつものとおり。ヴァイオリンやチェロのソロ、第98番ではフォルテピアノを終楽章で加えたりと、合奏協奏曲的な部分に対応するのにも、ダニエル・ゼペックをコンサートマスターとして第1ヴァイオリン8人、8-7-5-5-3という弦五部の編成の響きは、バランスがちょうどよい。
ハイドンの交響曲は、どうしてもニックネームつきの作品に関心が集中しがちだが、ここではむしろ、《驚愕》以外の3曲での演奏の充実を紹介したい。第99番第1楽章での、声部間の対話の愉悦、第2楽章アダージョの明から暗への豊かさ。第95番の各楽章でのソロ楽器の活躍、そして終楽章での活力にみちたティンパニ。第98番では堂々たる第1楽章に始まり、英国国歌を想わせる第2楽章のユーモア、などなど。
残る6曲の発売も楽しみだし、来日公演でもいつか「ロンドン・セット」全曲をやってほしいものだ。
※パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィル来日公演は、12月に全国8公演で行なわれる。[問]ジャパン・アーツ パーヴォ・ヤルヴィ指揮 ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団 | クラシック音楽事務所ジャパン・アーツクラシック音楽事務所ジャパン・アーツ
山崎浩太郎 (演奏史譚)
協力:ソニーミュージック