

単なる偶然(あるいは後付け?)と言えばその通りなのだが、音楽史上1685年生まれのバッハ(1750没)とヘンデル(1759没)、1813年生まれのワーグナー(1883没)とヴェルディ(1901没)、さらに加えるなら1810年生まれのショパン(1849没)とシューマン(1856没)が「同年生まれの作曲家」としてよく話題に上るが、こうした「偶然(?)同い年」は演奏家(歌手)でもしばしば見かけて、意外な発見をすることがある。
ロシアにセルゲイ・ラフマニノフ(1943没)とフョードル・シャリアピン(1938没)が生を享けた1873年、はるか南のイタリア・ナポリでエンリーコ・カルーソー(1921没)が生まれている(しかもシャリアピンとカルーソーは誕生月も同じ)が、こうなると偶然とも言えない神の采配のような気がしてくる。
さてそのカルーソーの末裔、イタリアのテノールでは、ジュゼッペ・ディ・ステファノ(1921~2008)とフランコ・コレッリ(1921~2003)というビッグな二人が意外にも同い年。意外、と書いたのは、ディ・ステファノはずいぶん早くにデビューしていて(1940年代の音源も遺っている)コレッリは1951年に初舞台だから「後継者」という印象すらある。しかもディ・ステファノがすでに事実上オペラ舞台の第一線からは退いていた1970年代にコレッリは数度の来日を果たして(1975年のメトロポリタン歌劇場の来日公演《ボエーム》はパヴァロッティとのダブルキャストだった)その絶好調の声を聴かせてくれたのでなおさら、である。
イタリア・オペラのプリマ・ドンナとなると、何といってもレナータ・テバルディ(1922~2004)とマリア・カラス(1923~77)ということになるが、この2人は1年違いということで、ニアピン賞(?)といったところ。この「世紀のライヴァル」が同じ舞台に立ったことはおそらくなかったと思うが、音盤上でなら妄想が広げられる。例えばトゥーランドット:カラス、リウ:テバルディというのは各々レコードがあり、それを組み合わせたらプッチーニも涙する第3幕になるのでは。その次の世代で同じく1年違いとなると、モンセラート・カバリエ(1933~2018)レナータ・スコット(1934~2023)ミレッラ・フレーニ(1935~2020)の3人がそれぞれ1歳差というのも偶然にしては出来すぎているような……。ついでにドイツ系ソプラノにも寄り道すると、エディト・マティス(1938~2025)ルチア・ポップ(1939~93)ヘレン・ドナート(1940~ )がやはり1歳差で並ぶ。ちなみにポップとアーリーン・オジェ(1939~93)は同い年だが、二人とも同じ年に若くして天に召されてしまったのは今もって惜しまれてならない。




閑話休題、再度イタリア・オペラのプリマ界を眺め直してみると、アントニエッタ・ステッラ(1929~2022)ガブリエッラ・トゥッチ(1929~2020)ベヴァリー・シルズ(1929~2007)が堂々たる同期の三大ソプラノ。特にステッラとトゥッチは何度も来日して日本とも縁が深く、文字通り正統派イタリアの歌唱芸術のお手本を示してくれた。
ドイツ・オペラの方に目を移すと、リーザ・デラ・カーザ(1919~2012)イルムガルト・ゼーフリート(1919~88)アンネリーゼ・ローテンベルガー(1919~2010)が、そのまま《ばらの騎士》の元帥夫人、オクタヴィアン、ゾフィーの「同期トリオ」が完成する3人(ジャケットではデラ・カーザはオクタヴィアンに扮装している)。もし1960年代の最も息の合ったベスト《ばら》メンバーをシミュレーションするとしたら1919年組のこの3人なんじゃないだろうか。
そして、戦後最強のブリュンヒルデ&イゾルデであった絶対的ワーグナー・ソプラノの双璧、アストリッド・ヴァルナイ(1918~2006)とビルギット・ニルソン(1918~2005)が同年生まれ、というのも、前述のディ・ステファノ—コレッリと同じく意外かも知れない。ヴァルナイが1951年の戦後バイロイト祝祭再開時にいきなりブリュンヒルデを歌っているが、ニルソンが同役をこの音楽祭で初めて歌ったのが1960年で(バイロイト本格デビューは1954年。また1957年には《ワルキューレ》ジークリンデ役でヴァルナイと共演)妹ぶん的な印象があり、かつヴァルナイがドラマティック・ソプラノとしては第一線を退いた1960~70年代、ニルソンはカール・ベームとの共演でイゾルデ役を、イタリア・オペラでも《トゥーランドット》をバリバリ歌うことになるわけで。
最後はドイツ系バリトンの当たり年(?)1929年生まれの同期トリオ。ヘルマン・プライ(1929~98)ヴァルター・ベリー(1929~2000)エーバーハルト・ヴェヒター(1929~92)は、モーツァルト、ワーグナー、R.シュトラウスで最高の名舞台/名録音を遺した。ジャケット写真の通り、プライが伯爵、ベリーがフィガロを歌った《フィガロの結婚》(スウィトナー指揮ドイツ語版)に次いで、あまりに有名なベーム盤ではプライは今度はフィガロ役に回って大評判になり、同時期ウィーンではヴェヒターが名ドン・ジョヴァンニとして鳴らし、ベリーが従者レポレッロを務める……と、ある時は共演者ある時はライヴァルとして、モーツァルトの至高のアンサンブルを成してくれた。




文=編集部(Y.F.)

