
旧『レコード芸術』誌の人気企画「リマスター鑑定団」の復活第3弾! “お気に入りの名盤を少しでも良い音で聴きたい”と集まった編集部有志とゲストが、リマスター盤を旧盤と比較して、侃々諤々好き放題に語り合います(後編)。
前編(ブーレーズ、ランパル、小澤征爾)はこちら
クレンペラーのシューマン タワーレコードのSACD

シューマン/交響曲全集,他
〔第1番《春》~第4番,《ゲーテの『ファウスト』からの情景》序曲,《マンフレッド》序曲,《ゲノフェーファ》序曲,ピアノ協奏曲 イ短調〕
〔+リスト:ピアノ協奏曲第1番〕
オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニアo,ニュー・フィルハーモニアo,アニー・フィッシャー(p)
〈録音:1960年~1969年〉
[ワーナー・クラシックス(タワーレコード)(S)TDSA321~3]SACDハイブリッド
――前編に引き続き、最新リマスター盤を聴いていきます。次はタワーレコードから出た、クレンペラーのシューマン/交響曲全集から第1番《春》を聴きます。今回は3種類の音源を聴き比べました。
A 最初に聴いた旧EMIのART盤CD[TOCE59122]は、やっぱりどうしても音が痩せています。中低域がほぼ出ていなくて、オーケストラが軽く聴こえる。ホールの残響もほとんど感じられず、乾いたスタジオ録音のような印象。作品の持つ春らしい膨らみや、うねりが出にくいですね。
C 私もCDにはあまり魅力を感じませんでした。アンサンブルが平面的で、弦が薄い。フレーズは追えるけれど、音楽としてのスケール感が出ない。全体的に“資料音源”的な聴き方になってしまいます。
B 当時としては悪くなかったのかもしれませんが、いま改めて聴くと厳しいですね。情報が少ない上に、冷たくて、クレンペラーの重心の低さや粘りがほとんど伝わってこない。
芳岡 CDを聴きながら、「この演奏って、こんなに軽かったっけ?」と疑問に思ってしまいました。記憶しているクレンペラーとはかなり違う。
――次に、旧EMIのSACDハイブリッド盤[TOGE12075]はどうでしょうか。
B これはかなり改善されています。低域が戻り、音に厚みが出てきた。ホールトーンもちゃんと感じられます。CDよりはずっと音楽らしく聴ける。
A ただ、音場はやや平面的ですよね。左右の広がりはあるけれど、前後の奥行きが十分とは言えない。ポリフォニーで音が重なると、どうしても中央に寄って団子になります。
C 響きはきれいですが、若干“美音仕上げ”に寄っている気がします。クレンペラー特有のゴツゴツした手触りや、骨太さは少し丸められている。
芳岡 無難で聴きやすい。だけど、演奏の実像を掘り起こすほどの力はない、という印象です。
――そして、タワーレコードの最新SACDハイブリッド盤です。
A これはもう、全然違いました。まず音場の立体感。左右だけではなく、前後にも明確に広がる。弦の厚みがあり、低音弦がしっかり床を作って、その上に木管や金管が積み上がっていく構造がはっきり分かる。
B まさに“筋肉が見える音”。アンサンブルが立体的で、ポリフォニーが驚くほど整理されています。各声部の絡みが視覚的に見えるようで、交響曲という建築物の構造が理解できる。
C フォルテでもまったく潰れない。音が塊にならずに、ちゃんと層を成して鳴る。しかも、響きが過剰に足されていないので、クレンペラーの硬質な性格がそのまま感じられる。
芳岡 初めて「クレンペラーの《春》」をリアルに体感した気がします。以前は“古い重たい演奏”くらいのイメージでしたけど、今回は、むしろ緊張感があって、躍動的ですらある。そして楽器間の音楽的な対話も聴こえてくる。リマスターで別作品に生まれ変わったと言っていい。
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