
「編集部員のひとりごと」、今回は編集部員が2025年に聴いた/観たCD/DVD/BDetc.の中から「マイ・ベスト」を挙げました。ぜひご笑覧ください。
常に名歌手が集結するウィーン国立歌劇場。その「黄金時代」を味わい尽くす
2025年秋のウィーン国立歌劇場来日公演に合わせて、「栄光のウィーン国立歌劇場」と銘打たれた全10点のライヴ音源CDが一挙リリースされた。1955年ベームの《ドン・ジョヴァンニ》から1987年アバドの《シモン・ボッカネグラ》まで、月並みな言い方だが、文字通り「黄金時代」の記録。指揮者とオーケストラについては小宮正安氏が詳細にレポートされているので、ここでは個人的「オシ」名歌手をざっと駆け足で。
①日本では人気イマイチだが、絶対に忘れてはいけない1950年代の名ドン・ジョヴァンニ、ジョージ・ロンドン!②E.S.も真っ青(?)マリア・ライニングの若々しくエレガントな元帥夫人!③怪優ゲルハルト・シュトルツェのニヒルで気だるいオルロフスキー!④ヴィントガッセンに優るとも劣らぬフリッツ・ウールのスタイリッシュなパルジファル!⑤ジャンニ・ライモンディの甘い声はロドルフォ史上随一!⑥ジェス・トーマスとペーター・シュライアーの美声競演!⑦ハンス・ホップとグレイス・ホフマンのクレイジーなヘロデ夫妻!⑧ピエロ・カップッチッリ一世一代のルーナ伯爵!⑨74歳のハンス・ホッターが咳き込みながら(?)登場!⑩隠れた名リリコ・スピント、ヴェリアーノ・ルケッティ! (Y.F.)





①モーツァルト:ドン・ジョヴァンニ(録音1955年11月6日)カール・ベーム指揮ウィーン国立歌劇場o&cho(以下同)〔ドイツ語歌唱〕
[RCA(M)SICC2368~70(3枚組)]
②R.シュトラウス:ばらの騎士(録音1955年11月16日)ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
[RCA(M)SICC2384~6(3枚組)]*国内初出
③J.シュトラウス:こうもり(録音1960年12月31日)ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
[RCA(M)SICC2379~81(3枚組)]*国内初出
④ワーグナー:パルジファル(録音1961年4月1日)ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
[RCA(M)SICC2371~4(4枚組)]
⑤プッチーニ:ボエーム(録音1963年11月9日)ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
[RCA(M)SICC2389~90(2枚組)]
⑥R.シュトラウス:エジプトのヘレナ(録音1970年12月5日)ヨーゼフ・クリップス指揮
[RCA(S)SICC2387~8(2枚組)]*国内初出
⑦R.シュトラウス:サロメ(録音1972年12月22日)カール・ベーム指揮
[RCA(S)SICC2382~3(2枚組)]*国内初出
⑧ヴェルディ:トロヴァトーレ(録音1978年5月1日)ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
[RCA(S)SICC2375~6(2枚組)]
⑨ベルク:ルル(録音1983年10月24日)ロリン・マゼール指揮(チェルハ補筆3幕版)
[RCA(S)SICC2391~2(3枚組)]
⑩ヴェルディ:シモン・ボッカネグラ(録音1987年3月22日)クラウディオ・アバド指揮[RCA(S)SICC2377~8(2枚組)]
古楽と現代音楽、それぞれの旗手が交差するとき
筆者の方々に「プライヴェート・ベスト」の原稿依頼をしておきながら、この「マイ・ベスト」については結構悩んでしまった。コンセプト・アルバムについて記事を書いたくらい、2025年は個人的に、記録以上の意味を持ったアルバムをディグっていた1年だった。今更になって初めて聴いた『ルートヴィヒを探して』[アルファ]もすごくよかったけれど、新しいものでは、この『歌と悲しみの物語』がとくに印象深かった。
これが何かといえば、20世紀オランダの古楽と、現代音楽シーンを牽引した2人、フランス・ブリュッヘンとルイ・アンドリーセンへのトリビュート・アルバム。さまざまな音源を時空を超えて織り合わせて、1つの大きな哀歌を形づくる。トラックのほとんどはブリュッヘンが演奏したアンドリーセン作品で(気迫に満ち満ちた《スウィート》は必聴だと思う)、新しきものを違った角度から追求した二者を、発展的に共鳴させていると思った。すごく「録音芸術」してる。(H.H.)

歌と悲しみの物語~フランス・ブリュッヘンとルイ・アンドリーセン
〔ジョスカン・デ・プレ:森のニンフ、泉の女神(ヨハネス・オケゲムの死を悼む挽歌),ヤコブ・ファン・エイク:ジョン・ダウランドの《流れよ、我が涙》による〈涙のパヴァーヌ〉と変奏,ルイ・アンドリーセン:スウィート,あのサラバンドの思い出に,アハニアは泣いている,5月(第1部&第2部),歌劇《ジョルジュ・サンド》~美しい口づけ,トーマス・プレストン:ラ・ミ・レの上で,ジャン=フィリップ・ラモー:歌劇《レ・ボレアド》~アバリスのアントレ〕
ダニエル・ロイス指揮,フランス・ブリュッヘン(指揮・bfl)カペラ・アムステルダム,18世紀オーケストラ,サワークリーム〔ケース・ブーケ, ワルター・ファン・ハウヴェ,フランス・ブリュッヘン(bfl)〕
〈録音:1965年頃~2024年2月(一部L)〉
[PentaTone(S/D)PTC5187389(海外盤)]SACDハイブリッド
令和の長岡鉄男盤!? 驚異の高音質録音にも注目の大作
2025年の暮に、久しぶりに故・長岡鉄男が絶賛しそうなディスクに出合った。メジャー・レーベルからフランソワではなく、ルイ・クープランの全集が一気に10枚組で登場というのも驚いたが、音質も最良の意味でメジャー離れしている。CD1の1曲目冒頭、演奏が始まる前から教会堂の暗騒音がカットされずに収められている(メジャー・レーベルの録音としては異例だろう)が、その雰囲気が尋常ではない。ワンポイント録音によるその場に居合わせたかのような没入感は稀有のものだ。さらに特筆すべきはチェンバロの音である。撥弦の明瞭さのみならず、楽器全体の共鳴まで完璧に捉えた、重厚かつ存在感に満ちた響き。かつて長岡鉄男は、ブランディーヌ・ヴェルレによる“フランソワ”・クープラン全集を「へたに耳を傾けると、そのままどこか未知の世界へ誘い込まれてしまいそうな、一種の魔力を持った、名曲、名演、名録音」(『長岡鉄男の外盤A級セレクション②』共同通信社)と評したが、その言葉は、このジャン・ロンドーによる全集にも、ぴったり当てはまる。(M.K.)

ルイ・クープラン作品全集
〔組曲,幻想曲 他〕
ジャン・ロンドー(cemb・org)リュシル・ブーランジェ(gamb)ティボー・ルセル(テオルボ)リチェルカール・コンソート他
〈録音:2024年4月~7月〉
[エラート(D)2173283719(10枚組+DVD)]
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Text:編集部

