最新盤レビュー

大河ドラマ『光る君へ』OSTベスト盤が登場

ディスク情報

大河ドラマ「光る君へ」オリジナル・サウンドトラック The Best
〔冬野ユミ:Amethyst,Blood Moon,Primavera-花降る日,他〕

反田恭平(p) 朝川朋之(hp) 広上淳一(指揮)NHKso
〈録音:2023年8~10月,2024年1,6月〉
[ソニーミュージック(D)SICX10024]SACDハイブリッド+フォトブック

紫式部の生涯と伴走した、あの音楽たちのハイライト

 まだ記憶に新しい、2024年放送のNHK大河ドラマ第63作の劇伴集。既に1月、6月、9月とリリースされた3枚から、作曲者・冬野ユミが自選した29曲を収録したベスト盤である。何と! 書き上げられた170曲にも及ぶ楽曲の全てを網羅したサントラ“完全盤”(7CD+ブックレット)も発売中とのことで、彼女が本作に注いだ並ならぬ情熱と愛情を物語っている。

 2017年の『アシガール』や2019年度後期の連続テレビ小説『スカーレット』などのNHKドラマを手がけて注目された冬野は、多彩かつ遊び心に溢れた作風で知られるオルターナティヴな現代作曲家。今回のジャズありロックありバロックありの型破りなサウンドが、千年昔に生きた女性作家の波乱に満ちた人生と平安時代の雅で耽美な世界に、驚くほどマッチしていたのが印象的だった。

 殆どの楽曲が実際の場面にあてて作曲されたものではなく、出来上がった様々な音楽をシーンの方に合わせて完成させる手法だが、例えば、バッハの荘厳なオルガン曲を思わせる〈X’mas Night〉【Track 18】が公卿たちの権謀術数渦巻く象徴として内裏に鳴り響いたり、ソロ楽器のアドリブを活かしたスインギーなジャズ・ナンバー〈Subrosa「薔薇の下で…」〉【Tr. 9】が、道長・公任・斉信・行成ら仲良し4人組(平安貴族F4)のテーマのように流れるのが圧巻であった。

 もちろん冬野が熱望して反田恭平のピアノ演奏が実現した協奏曲風のメイン・テーマ〈Amethyst〉【Tr. 1】も官能的なタイトルバックと相まって話題を呼んだが、妖艶で激しい〈Blood Moon〉【Tr. 20】と、ときめきと胸騒ぎの感情を募らせる〈Primavera-花降る日〉【Tr. 23】の、それぞれメイン候補だった2曲も劇中で何度も使われて心に残った(※共に反田&N響の演奏)。

 他にも、まひろ(紫式部)と道長の関係を澄んだ青空のように清々しく彩った〈遠い空〉【Tr. 13】と、『源氏物語』と同じ時代に書かれた『枕草子』誕生の切なくも感動的な秘話に編集なしで使用された〈Cherry Blossom〉【Tr. 8】などには“もののあはれ”を感じずにはいられない。

東端哲也 (ライター)

協力:ソニーミュージック

タイトルとURLをコピーしました