
HAYDN 2032ハイドン交響曲全曲録音シリーズVol.20~英国紳士たち
〔ハイドン:交響曲第76番~第78番,ヨハン・クリスティアン・バッハ:交響曲ト短調〕
ジョヴァンニ・アントニーニ指揮バーゼル室内o
〈録音:2024年4月〉
[ナクソス(D)NYCX10623]
10月23日 発売予定
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文=寺西 肇(音楽ジャーナリスト)
ハイドンの「イングランド交響曲集」の美点、清冽に
ヨーゼフ・ハイドンの手になる107の交響曲を、生誕300周年にあたる2032年までに全曲の演奏・録音を重ねてゆく、鬼才ジョヴァンニ・アントニーニが進めるプロジェクト「HAYDN 2032」。その最新盤となる第20弾では、バーゼル室内管弦楽団と組み、ハイドンの最初のロンドン訪問に先立つこと10年近く、1780年代前半に計画されたイギリス招聘の動きに応じて、作曲家が用意した3つの交響曲(第76~78番)に加えて、そのきっかけをもたらした「ロンドンのバッハ」こと、大バッハの末息子ヨハン・クリスティアンによる1曲を収録している。
1782年の元旦にクリスティアン・バッハが急逝したのを受けて、彼が主宰していたロンドンでの定期演奏会シリーズ(かつては幼いモーツァルトも父親と共に訪れ、特に「交響曲」というジャンルに関して、大いに刺激を受けた……)の運営を受け継ぐことになったアビントン伯アイロビー・バーディは、すでに作品がロンドンで大人気だったハイドンの招請を計画。しかし、彼は主君・エステルハージ侯爵との “専属契約” に縛られ、渡英を実現できなかった。一方で、ハイドンは1782年から翌年にかけて、クリスティアン・バッハの作風を意識した3つの交響曲を作曲。結局、イギリスに先んじて、パリのボワイエ社から初出版されたが、その折の連絡書簡でハイドン自身が「イギリスの聴衆向けに書いた」旨を明かしている。
古典派以前の作品には、管・打はピリオド、弦はモダンとクラシカルの混在で臨むバーゼル室内管。そして、急速部分ではきびきびと立ち回り、緩徐部分では清冽で透明感あるサウンドを創出するアントニーニの緻密なリード。くっきりとした明暗、剛柔の対比も鮮やかに、器楽特有の語法のみならず、時にはオペラ的な手法も採り入れて変幻自在に展開する、「イングランド交響曲集」の美点を、余さず掬い上げてゆく。特に、ハ短調の第76番と、ト短調のクリスティアン・バッハの作品が共通して孕む「疾風怒濤」の側面は、立奏で臨む中・高弦の熱気に満ちた勢いもあって、激しく共鳴。「現代における、ハイドンの交響曲演奏の理想とは?」との問いに対する、彼らの明解なる “回答” を示してみせる。
協力:ナクソス・ジャパン
