ここでは、最近発売されたクラシックのリイシュー&BOX盤のなかから注目盤を厳選して紹介します。
圧巻! オルガン界の至宝M.-C.アラン生誕100周年を祝う53枚組メガBOX
マリー=クレール・アラン(1926~2013)生誕100年を記念しリリースされたCDボックス53枚組。今回、初CD化された音源もある由、そもそも彼女がこれだけ膨大な録音を遺しえたことには敬服しかない。
音楽家一家に生まれ、11歳の時には父の代理で教会オルガニストを務め、パリ国立高等音楽院で巨匠たちに師事、数々の栄誉賞を受賞。2010年までの公演は2500回以上に及び、また世界各地でマスタークラス講師を務めた。教え子たちには「良い弟子を育てることは何にも代え難い。弟子を育てよ」と指導しつつ、最新情報の吸収にも常に熱心であったと聞く。我が国では、例えば公共ホールに新しく設置されたオルガンのお披露目的の公演で彼女の名前を認識、記憶した者は少なくないだろう。そこでは主に、J.S.バッハ、フランス古典、兄ジャン・アランの作品を中心とするフランス現代音楽が演奏されてきた。
今回のリリース、53枚分の録音が彼女のレパートリーがいかに広範であったかを示していることは言わずもがなだが、録音年代と使用楽器の差異、変遷も興味深い。初めに置かれた第1回目のJ.S.バッハ全集録音(CD1~8)当時、歴史的オルガンは未修復かつ政治的理由で使用できなかった。ところが第3回目の全曲録音(CD42~53)時にはそれらの問題は解消され、特にシュニットガー・オルガン、旧東独のジルバーマン・オルガンなど彼女は「心を躍らせて」演奏した由。歴史的楽器に尋ね、作曲家たちの深い意図を伝えんとする姿勢と共に、そこに秘められた時代変遷を感じ取ることもできるだろう。BOX全体は、2つのJ.S.バッハ全集録音に、16世紀初めから現代に至る、西欧で花開いたオルガン音楽の500年が挟まれているという仕掛けである。
M.Roubinet氏の詳細な解説に従ってディスクを選んで聴いていくもよし、新旧の録音や楽器の違いを聴き比べるもよし、未知の作曲家、未体験の楽曲を聴いてみるもよし……前述したように、彼女が常に弟子たちから最新情報を吸収しつつ、最善の演奏解釈と奏法を追求していたことも覚えながら堪能したい。 (Y.U.)

バッハからバッハへ~世紀のオルガニスト
〔J.S.バッハ(全集),C.P.E.バッハ,ヘンデル,ルイ=クロード・ダカン,ルイ・マルシャン,ブクステフーデ,クープラン,ヴィドール,メシアン,ヴィエルヌ,フランク,フォーレ他の作品〕
マリー=クレール・アラン(org)ジャン=フランソワ・パイヤール指揮ルクレール器楽アンサンブル,ミシェル・コルボ指揮ローザンヌ声楽・器楽アンサンブル,ジャン=ジャック・カントロフ指揮バンベルクso,ジャン・マルティノン指揮フランス国立放送o,セルジュ・ボド指揮フランス放送ホpo,ジャン=ピエール・ランパル,クリスティアン・ラルデ(fl)モーリス・アンドレ(tp)他
〈録音:1954年~2000年〉
[Erato(M/S)2685473873]海外盤53枚組
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没後70年のエーリヒ・クライバー、デッカの銘盤《ばらの騎士》初SACD化
まぎれもなく1950年代は《ばらの騎士》録音の「黄金時代」だった。少々こじつけると、当オペラの世界初演時あまりの人気に初演地ドレスデンへ向けて仕立てられた臨時列車「ばらの騎士号」を想起させるラッシュぶりだ。ざっと(ライヴや放送録音も含めて)挙げると1951年ケンペ=ドレスデン国立歌劇場[Profil]、1954年E.クライバー(当盤)、1955年クナッパーツブッシュ=ウィーン[RCA]、1956年カラヤン=フィルハーモニア管[Warner]、1958年ベーム=ドレスデン[DG]、そして1960年カラヤン=ウィーン・フィルのオペラ映画と(別キャストの)ザルツブルク祝祭ライヴと、「超」の付く名盤が居並ぶ。それらの中で間違いなく燦然と頂点に君臨するのがエーリヒの名録音である、と少なくとも「ばらフリーク」の私は断言したい。
それは、つまるところエーリヒの棒がウィーン・フィルから紡ぎ出す極上の音楽、ということに尽きるのだが、言うまでもなく、当時の最高キャストが揃っているのも大きい。ライニングの若々しく優美な元帥夫人は一世一代の当たり役だし、ヴェーバーのオックスも百戦錬磨。ここで強調しておきたいのが、この二人に加えてゾフィーのギューデンもウィーン生まれで(さらにファーニナルのペルはリンツ、警部役ベリーもウィーン)いわばウィーン方言のネイティヴであること。もちろん指揮者のエーリヒもウィーン生まれであり、つまりウィーンの地方性がここに結晶し、それが世界を制したということ。ウィーン・フィルによる《ばら》はその後いくつも出たが、ここまでウィーンの空気が詰め込まれた《ばら》は、この1954年の録音が最良にして最後のものとなってしまったかも知れない。
今回の最新マスタリングによるSACDは、2000年の「Decca Legends」シリーズでの発売からなんと四半世紀ぶりの単独リリース(その後2021年にエーリヒ・クライバーDecca録音全集に所収されたが)。しっかりした解説と歌詞対訳付きである点も歓迎するとともに、今後こうしたエヴァーグリーンの音源は常にフィジカルで入手できるようになってほしいものだ。(Y.F.)

R.シュトラウス:楽劇《ばらの騎士》全曲
エーリヒ・クライバー指揮ウィーンpo,ウィーン国立歌劇場cho,マリア・ライニング,セーナ・ユリナッチ,ヒルデ・ギューデン(S)ルートヴィヒ・ヴェーバー(Bs)アルフレート・ペル(Br)他
〈録音:1954年6月〉
[デッカ―タワーレコード(M)PROC2492~94]SACDハイブリッド3枚組
やっぱ《魔笛》はウィーン・フィルだよね——ベームの “もう一つの” スタジオ録音、初SACD化
ベームの《魔笛》と言えば、ベルリン・フィルとの1964年DG盤を思い浮かべる方が多かろうが、その約10年前のデッカ(セッション)録音もなかなかに、いやすこぶる魅力的な一組であり、今回の(世界初)SACD化によって大いに再評価が進むことを期待する。当然のことながらDG盤との何よりの違いはオーケストラで、ウィーン・フィルによる《魔笛》は何物にも替え難い。また同じウィーン・フィルでも、ショルティの同演目(1969年、デッカ)と比べてみると、よりベームとのホンワカ温かい雰囲気が際立つ。歌手に関しては、DG盤はヴンダーリヒ、フィッシャー=ディースカウ、そしてホッターとオールスター・キャスト型だが、当デッカ盤の中心はギューデン、リップ、ベリーといわば「ウィーン組」。中でもリップの夜の女王は、そのウィーン・スタイルが微笑ましい。ステレオ最初期の録音は、どうしてもやや人工的な不自然感が付きまとうが、今回のリマスタリングでその点は軽減され、往年のウィーン・フィルによるインティメートな《魔笛》としていきいきと響いてくるのがまた嬉しい。(Y.F.)

モーツァルト:歌劇《魔笛》全曲
カール・ベーム指揮ウィーンpo,ウィーン国立歌劇場cho,ヒルデ・ギューデン,ヴィルマ・リップ,エミー・ローゼ(S)レオポルド・シモノー(T)ヴァルター・ベリー,パウル・シェフラー(Br)クルト・ベーメ(Bs)他
〈録音:1955年5月〉
[デッカ―タワーレコード(S)PROC2490~91]SACDハイブリッド2枚組
ハイドンの音楽はつまらない?
18世紀オーケストラ、ラ・プティット・バンド、そしてバッハ・コレギウム・ジャパン……、鈴木秀美(1957~)のバロック・チェロ奏者としての遍歴は、20世紀後半以降のHIPの最前線とともにあった。指揮活動も盛んに行なっており、最近では神戸市室内管の音楽監督としてその窮状を訴え、音楽の社会的価値を世間に問うてもいる。そんな鈴木が主宰・音楽監督を務める古楽オーケストラ、オーケストラ・リベラ・クラシカが結成されたのは2001年のこと。以来、鈴木の言を借りれば「四角四面でつまらぬものと思われている」古典派、とりわけヨーゼフ・ハイドンの音楽を中核として、およそ四半世紀にわたる旺盛な活動を続けてきた。特筆すべきことのひとつが録音活動で、初期からその演奏会録音を自主レーベル、アルテ・デラルコからリリースし続けている(その点数は70を超える!)。このたびその一部が再編され、新規リマスターを施されて登場した格好だ。この鮮やかで楽興に満ちたハイドンを聴いて、「つまらぬもの」と思う聴き手は少なかろう。『チェロ協奏曲集』の方は弾き振りで、カデンツァや挿入句等はほぼ全て鈴木の自作による。(H.H.)

ハイドン/交響曲選集 第1集(2026年リマスター)
〔交響曲第44番《悲しみ》~第46番,同第52番~第53番,同第55番《学校の先生》,同第86番~第88番,同第98番,同第104番,他〕
鈴木秀美指揮オーケストラ・リベラ・クラシカ
〈録音:2002年11月~19年11月(L)〉
[アルテ・デラルコ(D)ADJ10001(4枚組)]

C.P.E.バッハ&ハイドン,ボッケリーニ/チェロ協奏曲集(2026年リマスター)
〔C.P.E.バッハ:チェロ協奏曲 イ短調,ハイドン:チェロ協奏曲 ハ長調,同ニ長調,ボッケリーニ:チェロ協奏曲 ト長調,同ニ長調〕
鈴木秀美(vc・指揮)オーケストラ・リベラ・クラシカ
〈録音:2002年11月~07年10月(L)〉
[アルテ・デラルコ(D)ADJ10002(2枚組)]
「破滅型」ピアニストが弾いたプロコフィエフ
サンソン・フランソワ(1924~70)は、自由奔放かつロマンティックな演奏が多くのひとを熱狂させた一方で、崩壊しきった生活リズムと飲酒癖のために夭折したエピソードが有名なあまり、何かにつけ「破滅型」という文字で飾られがちなピアニストだ。今回リマスター盤がリリースされたプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番、そして第5番は超絶技巧を要するコンクールの定番曲だから、そんなフランソワとはイメージが結び付きにくいかもしれないが、むしろこの曲こそが、このピアニストの最良のレパートリーだったのでは?と思うほどの音楽に仕上がっている。リマスターによる恩恵もあるだろう、何より楽譜の行間にある「うた」が同曲異演では類を見ないほど鮮烈なのだ。加えてテクニックを求められる人気曲だからこそ、フランソワが卓越したヴィルトゥオーゾ・ピアニストだったことを思い出させてくれる。感性と技巧が高次元で融合した凄演。こんな録音はそうそうお目にかかれない。最近のプロコの録音をディグっている方も必聴である。(H.H.)

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番,同第5番,ピアノ・ソナタ第7番*(2026年マスタリング)
サンソン・フランソワ(p)ヴィトルト・ロヴィツキ指揮フィルハーモニアo
〈録音:1961年7月*,63年6月〉
[ワーナー・クラシックス(タワーレコード)(S)TDSA341]SACDハイブリッド
ヴィヴァルディ宗教音楽録音の金字塔的BOXが再登場!
イギリスの指揮者ロバート・キング(1960~)はケンブリッジ大学在学中に古楽アンサンブル、キングス・コンソートを結成する。バロック期から古典派前期のレパートリーを中心に、公称ではこれまで100点以上のCD録音を手がけ、累計販売枚数は150万を数える。このCD-BOXは、そんな彼らが取り組んだヴィヴァルディ・プロジェクトの記録。楽譜が現存する宗教曲を全て収録するという冒険的試みで、最初は個別のアルバムとしてリリースされ、2005年に「全集」にまとめられ、それがこのたび再プレスされた。《四季》や《グロリア》ばかりが取り沙汰されがちだったこの作曲家の別の顔を音楽的にも、セールス的にも強力に浮かび上がらせた名盤である。同曲異演の増えたいまとなっては教科書的にも聴こえるオーソドックスな演奏解釈が、むしろ貴重だ。迷ったらこれを聴くべし。(まったく蛇足でしかないが、キングは07年に性犯罪で有罪判決を受けて収監され、一切の演奏活動から離れる。しかし服役を経た13年に古巣のキングス・コンソートに復帰して再出発し、現在では20世紀音楽のHIP演奏など、以前とはちがった方向性の意欲的なプロジェクトを自主レーベル「Vivat」で展開していることを、細書ながら記しておきたい。)(H.H.)

ヴィヴァルディ/宗教音楽全集
ロバート・キング指揮キングス・コンソート,同cho,ジョイス・ディドナート(S)ナタリー・シュトゥッツマン(Ms)他多数
〈録音:1994年8月~2003年11月〉
[Hyperion(D)7114671/CDS44671(11枚組,海外盤)]
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ボールトのエルガー。その集大成がSACDに
「ヴォーン・ウィリアムズ/交響曲全集」、「惑星」(1966年および1978年録音の2種)に続く、タワーレコード/Definition Seriesのボールトによる英国音楽作品は、待望の「エルガー/交響曲集」である。作曲家とも親交のあったボールトは、それこそSP時代からこの作曲家の作品録音を数多く行っていたが、1960年代以降は旧EMIにステレオ録音で、その集大成ともいうべき、彼にとっての最後のエルガー解釈を音盤に刻んでいる。今回SACDハイブリッド盤としてリリースされたのは、その中でも代表的な録音といってもよいロンドン・フィルを指揮した交響曲第1番(1976年)と同第2番(1975、76年)である。LPジャケットにはいずれもウィリアム・ログズデイル(1859~1944)のロンドンをテーマにした絵画が使われていて、演奏の格調の高さをいっそう引き立てていたことを思い出す(今回は第1番のジャケットを採用)。フィルアップには《威風堂々》(全5曲)の最後の録音(1976、77年)と《エニグマ変奏曲》(1961年)が収録されているのも嬉しい。《エニグマ》は1970年のロンドン響との録音がより新しいが、こちらは前記《惑星》(1978年)とカップリングされていたため、61年盤の採用となった。《エニグマ》を除くといずれもボールトの最晩年、80代の演奏だが、彼が長生きしてくれたことで作曲者の流れを汲む模範的とも言える名演奏(しかしそこにはボールトの意志が明確に示されているので、単なる作曲者の解釈の再現者でないことがわかる)が、当時のEMIによるアナログ最盛期の定評ある録音によって残されていたこと(交響曲2曲のプロデューサーはクリストファー・ビショップ)、しかもこのたびも本国のオリジナル・アナログ・マスターテープからのデジタル化、マスタリングにより、SACDハイブリッドという最高のフォーマットで聴けるようになったことは、非常に意義深いことである。さらに特筆すべきは、日本エルガー協会会長の水越健一氏による詳細な解説が添付されていることで、この2枚組の価値を一層高めているといってよい。(T.N)

エルガー:交響曲第1番変イ長調Op.55,同第2番変ホ長調Op.63,エニグマ変奏曲Op.36,行進曲《威風堂々》Op.39(全5曲)
エイドリアン・ボールト指揮ロンドンpo
〈録音:1961年8月、1975年11月~1977年1月〉
[ワーナー・クラシックス—タワーレコード(S)TDSA337~8(2枚組)]SACDハイブリッド
“リヒテル・ファミリー”が贈る珠玉の名演がSACDに
タワーレコードから続々とSACD化されている、ビクター音源によるリヒテル・シリーズ。今回の2タイトルは、いわゆる“リヒテル・ファミリー”との共演による室内楽曲集だ。リヒテルは弟子を取らなかったことで有名だが、一方で、室内楽の共演者として多くの若い演奏家に影響を与えた。1点目は、1985年にフライブルクで行われた2つのリサイタルのライヴである。オレグ・カガンといえば、ファミリーの中核的存在だったが、90年に43歳でがんのため亡くなっており、これはカガン晩年の共演記録ということになる。ブラームスの《雨の歌》は、カガン、リヒテルともに、この曲の録音は他に翌年の日本ライヴがあるのみ。バシュメトとのヒンデミット、ブリテン、ショスタコーヴィチの各作品は、いずれも録音が多いとはいえないヴィオラの最重要レパートリーの決定盤的演奏である。2点目は、ボロディン四重奏団とのドヴォルザークとショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲。こちらも、それぞれの作品の決定盤と言ってよい演奏だ。ショスタコーヴィチ冒頭の痛切なピアノ・ソロを聴くだけでも、これが、ただならぬ演奏だということが即座に理解できる。1点目は以前、キングインターナショナルからSACD化(分売)されたことがあるが、今回、あらためて最新リマスタリングが施され、音質が向上した。2点目は久しぶりのカタログ復活、そして待望の初SACD化であり、音の混濁が取れ、一皮むけたような情報量で蘇ったことを喜びたい。(M.K.)

【1985】フライブルク・ライヴ オイストラフ追悼コンサート、フライブルク・リサイタル
オレグ・カガン(vn) ユーリ・バシュメト(va)スヴャトスラフ・リヒテル (p)
〈録音:1985年3月(L)〉
[ビクター—タワーレコード(D)NCS88054~5(2枚組)]SACDハイブリッド

ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲,ショスタコーヴィチ:同
スヴャトスラフ・リヒテル (p)ボロディンSQ
〈録音:1983年4月,12月(以上L)〉
[ビクター—タワーレコード(D)NCS88056]SACDハイブリッド

