モノラル録音期のベートーヴェン

必聴!巨匠指揮者で辿る
モノラル~ステレオ初期のベートーヴェン名録音アラカルト

モノラル録音期のベートーヴェン特別企画
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モノラル録音期のベートーヴェン』の最後は(おもに)1950年代に生まれた名盤を「アラカルト」で指揮者別に辿ります。アラカルトの意味するところは、交響曲全集の完結には至らなかった指揮者の[タイプA]、あるいは全集を成したがそれ以外にも個別録音がある指揮者の[B]、また協奏曲や声楽曲/オペラにおいて、単なる「伴奏」の域を超えて独特の音世界を構築した指揮者の[C]名盤を(セッション録音に限らず、ライヴ、放送音源も含む)フルコース(=全集)ではなく一品料理として味わおう、というコンセプト。増田良介(音楽評論)吉田真(ドイツ文学/音楽評論)の両氏にまず必聴盤10点+次点1点をセレクトいただき、続いてさらに絞って個々にクローズアップ(★)していきます。

シェフ増田良介のオススメ 10(+次点1)の逸品

————–ここまで無料公開————-

●交響曲第3番《英雄》[A]
エーリヒ・クライバー指揮ウィーンpo〈録音:1955年〉[デッカ(M)UCCD9762]
●交響曲第3番《英雄》[B]
フランツ・コンヴィチュニー指揮ドレスデン国立o〈1955〉[グリーンドア(M)GDCL0088]
●交響曲第5番《運命》[B]
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリンpo〈1947.5.27(L)〉[DG(M)UCCG41002
●交響曲第6番《田園》[A]
フランツ・シャルク指揮ウィーンpo〈1928〉[EMI(M)TOCE15005]
●交響曲第7番[A]
パウル・ヴァン・ケンペン指揮ベルリンpo〈1953〉[フィリップス(M)UCCP9508]
●交響曲第7番[B]
オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニアo〈1955〉[ワーナー(M)WPCS13218
●交響曲第8番[A]
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮 北ドイツ放送so〈1960(L)〉[セブンシーズ(M)KICC991]
●交響曲第9番《合唱》[B]
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリンpo,ティルラ・ブリーム(S)エリーザベト・ヘンゲン(A)ペーター・アンダース(T)ルドルフ・ヴァツケ(Bs)〈1942.3(L)〉[アルトゥス(M)ALT244]
●交響曲第9番《合唱》[A]
ヘルマン・アーベントロート指揮ライプツィヒ放送so,エディト・ラウクス(S)ディアーナ・エウストラーティ(A)ルートヴィヒ・ズートハウス(T)カール・パウル(Bs)〈1951〉[ドイツ・シャルプラッテン(M)KICC703]
●ヴァイオリン協奏曲[C]
アンドレ・クリュイタンス指揮フランス国立放送o,ダヴィド・オイストラフ(vn)〈1958〉[ワーナー(S)TDSA193
●(次点)交響曲第3番《英雄》[B]
パウル・ヴァン・ケンペン指揮ベルリンpo〈1953〉[フィリップス(M)UCCP3425]

シェフ吉田真のオススメ 10(+次点1)の逸品

●交響曲第1番[B]
カール・シューリヒト指揮ウィーンpo〈1950〉[デッカ(M)POCL4605]
●交響曲第3番《英雄》[B]
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーンpo〈1944(L)〉[ターラ(M)KICC891]
●交響曲第5番《運命》[A]
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ベルリンpo〈1956(L)〉[セブンシーズ(M)KICC2026]
●交響曲第7番[B]
ヨーゼフ・カイルベルト指揮ベルリンpo〈1959〉[テルデック(S)WPCS12158](B)
●交響曲第9番《合唱》[B]
フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリンpo,イルムガルト・ゼーフリート(S)モーリン・フォレスター(A)エルンスト・ヘフリガー(T)ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br)〈1957~58〉[DG(S)UCCG53010
●ピアノ協奏曲第4番[C]
クレメンス・クラウス指揮ウィーンpo,ヴィルヘルム・バックハウス(p)〈1951〉[デッカ(M)UCCD5309](C)
●ピアノ協奏曲第5番《皇帝》[C]
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーンpo,クリフォード・カーゾン(p)〈1957〉[デッカ(S)UCCD4425](C)
●ヴァイオリン協奏曲[C]
シャルル・ミュンシュ指揮ボストンso,ヤッシャ・ハイフェッツ(vn)〈1955〉[RCA(S)SICC40238](C)
●ミサ・ソレムニス[C]
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBCso,ロバート・ショウcho,ロイス・マーシャル(S)ナン・メリマン(Ms)ユージン・コンリー(T)ジェローム・ハインズ(Bs)〈1953〉[RCA(M)SICC2075](C)
●歌劇《フィデリオ》[C]
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン国立歌劇場o&cho,マルタ・メードル,セーナ・ユリナッチ(S)ヴォルフガング・ヴィントガッセン,ルドルフ・ショック(T)ゴットロープ・フリック,オットー・エーデルマン(Bs)他〈1953.10(L)〉[キングインターナショナル(M)KKC4228~9(2枚組)](C)
●(次点)歌劇《フィデリオ》[C]
カール・ベーム指揮ウィーン国立歌劇場o&cho,マルタ・メードル,イルムガルト・ゼーフリート(S)アントン・デルモータ,ヴァルデマル・クメント(T)パウル・シェフラー(Br)ルートヴィヒ・ヴェーバー(Bs)他〈1955.11(L)〉[Orfeo(M)C813102DR(2枚組)](C)

Best of Best 10点の “お品書き”

※ここまで計22点の名盤が挙がりましたが、それらの中から10点を選んでクローズアップしていきます。

交響曲第3番《英雄》■エーリヒ・クライバー=ウィーンpo〈1955〉

エーリヒ・クライバーは、コンセルトヘボウ(1950)、ウィーン・フィル(1955)と、接近した時期に2種の《英雄》のスタジオ録音を遺している。ちょっと不思議に思えるが、どうやら55年の方はステレオで録音されていたのだが、ステレオ・テイクが誤って消去されてしまったらしい。本当なら残念なことだ。それはともかく、この《英雄》は素晴らしい。風を切って突き進む、覇気あふれる《英雄》だ。カルロス・クライバーは《英雄》の録音を残さなかったが、父親の影響を強く受けていた彼がもしもこの曲を振っていたら、きっとこういう演奏を目指したのではないだろうか。 (増田良介)

交響曲第5番《運命》■ヴィルヘルム・フルトヴェングラー=ベルリンpo〈1947.5.27(L)〉

1947年5月25日、ナチ協力者の嫌疑が解けたフルトヴェングラーは、2年4カ月ぶりにベルリン・フィルの指揮台に立った。ベートーヴェンの《エグモント》序曲、《田園》、そして《運命》で構成されたこの演奏会は、27日にも繰り返された。《運命》は両日の録音が残っているが、27日の方がより熱狂的だ。最初から最後まで尋常ではない緊張感がみなぎる演奏で、終楽章では常軌を逸した歓喜の爆発がある。われわれがわざわざ音の悪い古い録音を聴くのは、こういう演奏があるからだ。 (増田良介)

交響曲第6番《田園》■フランツ・シャルク=ウィーンpo〈1928〉

ウィーン生まれのフランツ・シャルク(1863~1931)は、現在ではブルックナーの交響曲の改訂者として知られるが、20世紀初頭の約30年にわたり、国立歌劇場とウィーン・フィルに献身した名指揮者だった。ウィーン・フィルの楽団長も務めたオットー・シュトラッサーは、彼のことを「ウィーン国立歌劇場とその伝統の象徴とも言うべき存在」と評している。シャルクが晩年に残したこの《田園》は、ウィーン・フィル最初期の録音にして、最初の電気録音だ。シャルクの優美な指揮のもと、つややかな弦と柔らかく優雅な木管が歌うのを聴いていると、なるほど当時このオーケストラが一つの頂点をきわめていたことがわかる。 (増田良介)

交響曲第7番■パウル・ヴァン・ケンペン=ベルリンpo〈1953〉

オランダの指揮者ケンペン(1893~1955)は戦後、ナチスとの関わりが問題視されて、その実力にふさわしい活躍ができなかったことに加え、ステレオ時代にぎりぎり間に合わなかったこともあり、現在ではあまり聴かれなくなっている。ディスクは多くないが、50年代にベルリン・フィルを指揮して録音したベートーヴェンは、いずれも彼の実力を伝える名演だ。その中では《英雄》が特に有名で、確かにこれは大変な名演なのだが、《7番》も素晴らしい。覇気に充ち、エネルギッシュに前進しつつも、どこかに凛としたたたずまいが感じられる演奏だ。 (増田良介)

交響曲第9番《合唱》■フェレンツ・フリッチャイ=ベルリンpo〈1957~58〉

1963年に48歳の若さで他界したフリッチャイ。ベルリン・フィルとのベートーヴェンの交響曲は、まず1953年に第1番と8番がモノラル録音され、57年からステレオ録音で3番、9番、7番、5番と続いたが、他の2番、4番、6番はついに録音されずに終わった。57/58年録音の《第九》では、テンポが遅めになり重厚感を増した晩年の演奏様式がはっきりと聴かれる。友情出演のような形でフィッシャー=ディースカウが唯一ソロを歌った《第九》としての価値も大きい。 (吉田真)

ヴァイオリン協奏曲■アンドレ・クリュイタンス=フランス国立放送o,ダヴィド・オイストラフ〈1958〉

ラヴェルなど、フランス音楽の名演奏で知られたクリュイタンスは、ベルリン・フィルとベートーヴェンの交響曲全集を録音するなど、ドイツ音楽でも評価が高く、また、協奏曲の名手でもあった。この演奏でのクリュイタンスは、柔らかく気品のある響きで、さりげなくも堅牢に、この長大な協奏曲の枠組みを構築する。そして、全盛期のオイストラフのヴァイオリンは、安定感のあるクリュイタンスの指揮に支えられて、存分に歌い、無理なくファンタジーを飛翔させる。いつまでも聴いていたくなるとはこういう演奏のことだ。今もこの曲の最高の名盤とされることが多いのもうなずける。 (増田良介)

ピアノ協奏曲第4番■クレメンス・クラウス=ウィーンpo,ヴィルヘルム・バックハウス〈1951〉

バックハウスによるベートーヴェンのピアノ協奏曲と言えばシュミット=イッセルシュテット指揮のステレオ録音が有名だが、同じウィーン・フィルとのモノラル録音も聴き逃せない。ただし当時のデッカは周到な録音計画をしていなかったようで、まず1950年にベーム指揮で第3番が録音され、4番(51年)、2番(52年)、5番(53年)では指揮者がクレメンス・クラウスに代わり、なぜか1番は録音されずに終わった。クラウスが指揮した4番と2番では当時のウィーン・フィルの美質を最高に生かした優雅な演奏を聴くことができる。 (吉田真)

ピアノ協奏曲第5番《皇帝》■ハンス・クナッパーツブッシュ=ウィーンpo,クリフォード・カーゾン〈1957〉

クナッパーツブッシュと上品で端正なカーゾンは一見意外な組み合わせのようだが、両者はザルツブルク音楽祭やベルリン・フィルのコンサートでも共演を重ねていた実績がある。特に《皇帝》は上質なステレオ録音であり、クナッパーツブッシュも堅実な指揮ぶりでカーゾン共々模範的な演奏。なお、ライヴ録音で聴かれる一連の交響曲(2番、3番、5番、7番、8番など)はいずれも期待を裏切らない個性的名演のオンパレードで、名門オーケストラを相手にここまでやりたい放題できるのが真の巨匠の証。 (吉田真)

ミサ・ソレムニス■アルトゥーロ・トスカニーニ=NBCso〈1953〉

1950年代の《ミサ・ソレムニス》の録音には、クレンペラー=ウィーン交響楽団(51年、Vox)、ベーム=ベルリン・フィル(55年、DG)、カラヤン=フィルハーモニア管(58年、EMI)などがあるが、指揮者として異彩を放っているのは断然トスカニーニだ。テンポも速い(演奏時間74分39秒!)が、それよりも直線的な力強さとフレージングの明快さが際立つ。交響曲の演奏に比べて弾力のあるしなやかさがあるのが特徴だ。声楽の扱いに長けたオペラの巨匠ならではだろう。 (吉田真)

フィデリオ■ヴィルヘルム・フルトヴェングラー=ウィーンpo〈1953(L)〉

フルトヴェングラー指揮の歌劇《フィデリオ》では、1953年EMIのスタジオ録音が音質も演奏の仕上がりも上々だが、同時期のアン・デア・ウィーン劇場公演ライヴはスタジオ録音ではカットされていたセリフがそのまま収められていることもあって臨場感が豊か。序曲《レオノーレ》第3番は、直前の二重唱の後奏から間を空けずに入る冒頭の一撃が目のくらむような迫力だ。なお(次点に挙げた)2年後の55年、国立歌劇場再建記念公演初日に音楽総監督として指揮したベームの白熱のライヴも必聴。 (吉田真)

【Appendix】アッラカルテ料理のドルチェとしては少々重めですが、最後に編集部 選で、ここまででやむをえず漏れてしまったモノラル期の重要なベートーヴェン録音10点(+1点)を順不同でリストアップします

●交響曲第3番《英雄》[A]
フリッツ・ライナー指揮シカゴso〈1954〉[RCA(M)BVCC37301][A]
●交響曲第4番[B]
ジョージ・セル指揮クリーヴランドo〈1947〉[Sony(M)88985471852(106枚組コンプリートBOX所収)]

●交響曲第5番《運命》[A]
アルトゥール・ニキシュ指揮ベルリンpo〈1913(L)〉[DG(M)UCCG53001]
●交響曲第7番[A]
グイード・カンテッリ指揮フィルハーモニアo〈1956〉[EMI(S)CZS6790432(7枚組)]
●交響曲第9番《合唱》[A]
シャルル・ミュンシュ指揮ボストンso,ニューイングランド音楽院cho,レオンティン・プライス(S)モーリーン・フォレスター(A)デイヴィッド・ポレリ(T)ジョルジョ・トッツィ(Bs)〈1958〉[RCA(S)BVCC20001]
●ピアノ協奏曲第5番《皇帝》[C]
ディミトリ・ミトロプーロス指揮ニューヨークpo,ロベール・カサドシュ(p)〈1955〉[ソニー(M)SICC1520~21
(2枚組)
●ピアノ協奏曲第5番《皇帝》[C]
ジョージ・セル指揮ロンドンpo,クリフォード・カーゾン(p)〈1949〉[デッカ(M)PROC1688(C)
●ヴァイオリン協奏曲[C]
ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮ベルリンpo,ゲオルク・クーレンカンプ(vn)〈1936〉[テルデック(M)WPCC5367]
●ミサ・ソレムニス[C]
カール・ベーム指揮ベルリンpo,聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊
マリア・シュターダー(S)マリアンナ・ラデフ(A)アントン・デルモータ(T)ヨーゼフ・グラインドル(Bs)〈1955〉[DG(M)POCG3669~70(2枚組)]
●歌劇《フィデリオ》[C]
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBCso&cho,ローズ・バンプトン,エリナー・スティーバー
S)ジャン・ピアース,ジョゼフ・ラデルートT)シドア・ベラルスキーニコラ・モスコーナ(Bs)ヘルベルト・ヤンセン(Br)〈1944~45〉[RCA(M)BVCC9706~7(2枚組)]
●(次点)ヴァイオリン協奏曲[C]
オイゲン・ヨッフム指揮ベルリンpo,ヴォルフガング・シュナイダーハン(vn)〈1959〉[DG(S)PROC1444]

※以上、取り上げたディスクの多くが現在廃盤で入手困難となっていますが、CD番号およびジャケット写真は国内盤優先で発売当時のまま掲載しています。(編集部)

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