
色彩感と立体感、そして実在感が際立つ新規リマスタリング
ソニーから、小澤征爾の録音が7点SACD化された。1967~69年のRCA録音が5点と、2000年と2001年にサイトウ・キネンo.を指揮したソニー・クラシカルへのマーラーが2点だ。
RCAの5点は、小澤征爾の長い録音歴のうち、最初期に属するものだが、そこには世界的な指揮者としてのキャリアを駆け上っていた若き小澤のみずみずしい音楽が鮮やかに刻まれている。
まず、ストラヴィンスキーの三大バレエがそろっているのがうれしい。《春の祭典》はシカゴ響、他の2曲はボストン響との演奏で、いずれも当時の小澤らしい曇りなくまっすぐな音楽だ。聴く人を驚かせようとか感心させようとかいうのではなく、ただ作品の美しさ、楽しさを生き生きと実現する。簡単なようで、こういう演奏ができる人はなかなかいない。なお、小澤は《火の鳥》全曲をパリ管およびボストン響と録音しているが、今回聴けるのはそれらより前、69年にボストン響(音楽監督就任前)と録音した組曲版だ。また、《ペトルーシュカ》では、当時24歳のマイケル・ティルソン・トーマスがピアノを弾いている。
トロント響を振ったメシアンの《トゥランガリラ交響曲》や武満徹の作品集は、これらの中でもっともよく知られた録音だろう。作曲家立ち会いのもとで録音されたメシアンは、鮮烈で熱気あふれる名演で、現在もこの曲の最高の演奏のひとつとされている。世界初演の1ヶ月後に録音された《ノヴェンバー・ステップス》を含む武満作品集が、この作曲家を知るうえで欠かせない名盤であることは言うまでもない。
小澤は大規模な声楽付き作品を得意にしたが、69年録音の《カルミナ・ブラーナ》は、その種の曲としては最初期の録音だ。晋友会合唱団を起用したベルリン・フィルとの再録音も立派な演奏だったが、こちらはエネルギッシュで率直な明るさがあり、新盤とはまた違ったさわやかな魅力がある。
サイトウ・キネン・オーケストラとのマーラーはぐっと新しく、《復活》が2000年、第9番が2001年の演奏だ。小澤は、オーケストラの上に立って引っ張っていくよりも、奏者と対等の立場で、全員で音楽を作りあげることを大切にした指揮者だった。60代半ば、晩年というにはやや早いが、これらのマーラーでは、そのような姿勢が最上の形で結実している。名手たちが自発性を持って情感のこもった演奏を繰り広げ、それらが一体となって、精緻でしかも自然な感興に満ちた音楽となり、聴く人の心を打つ。
最後に音質についても触れておこう。RCA録音は2025年新規DSDマスタリングということだ。色彩感も立体感も見事で、元の録音のポテンシャルを存分に味わえる。マーラーの《復活》は2000年にSACDで出たときのマスター、第9番2025年のDSDマスタリング音源を使用しているとのことだ。こちらも、演奏者ひとりひとりの存在感、演奏会の空気感が感じられる優れた音質となっている。
増田良介(音楽評論)
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協力:ソニーミュージック