
インタビュー・文=今泉晃一(音楽ライター)
取材協力=エイベックス・クラシックス
人気金管アンサンブル「ARK BRASS(アーク・ブラス)」が新アルバム「BAROQUE(バロック)」を6月に発表して、記念コンサートを開催する。それに先立ってコア・メンバー4人のうち佐藤友紀(tp)、青木昂(tb)、次田心平(tub)の3人にお話をうかがった。

BAROQUE
〔バード(ハワース編):オックスフォード伯爵の行進曲,スザート(アイヴソン編):スザート組曲,ガブリエリ(ハワース編):ピアノとフォルテのソナタ,ファーナビー(ハワース編):空想・おもちゃ・夢,ファーナビー(石川亮太編):ヴァージナルの終わりなき夢,他〕
ARK BRASS
〈録音:2021年5月,2022年11月〉
[エイベックス(D)AVCL84178]
6月18日発売予定
PJBEへのオマージュとして
新編曲を委嘱しました
――新アルバム『バロック』のプログラムは、金管アンサンブル・ファンにはたまらないものがあります。

そもそもアーク・ブラスの主軸にあるのはフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル(以下、PJBE)へのオマージュで、今回は彼らの「定番中の定番」と言えるレパートリーが中心になっています。そこにアーク・ブラスならではのテイストも入れたいということで、《空想・おもちゃ・夢》で有名なファーナビーの作品を新たにアレンジして入れました。
元になった曲集には何十曲も入っているのですが、PJBEのエルガー・ハワースがそこから6曲を選んで《空想・おもちゃ・夢》としました。しかし、他にもたくさんすばらしい曲があるので、僕とホルンの福川伸陽の2人でそれらを片端から聴いて6曲を選び、石川亮太さんにアレンジしていただきました。依頼するときに「原曲のイメージを大事にしたい」「でも僕らのオリジナリティを出したい」そして「ハワース版の続編のようにしたい」とリクエストしたんです。「違うけど同じ」というコンセプトです。
――《ヴァージナルの終わりなき夢》というタイトルの意味は?

石川さんが付けたものですよね。ハワース版が《空想・おもちゃ・夢》だから、「その続き」という意味を込めて。

じゃあヴァージナルって何?

楽器ですよ! 原曲が演奏されるのを想定していた、小型のチェンバロのような楽器です。
――違和感なくPJBEのレパートリーに溶け込んでいて、でも新鮮な気分を味わえました。

それ以外の曲は金管奏者だったら一度は演奏したことがある曲ばかりで、自分自身、これまで何度も演奏してきましたが、ずっと求めてきたものがようやくできた気がします。

メンバーそれぞれが今まで培ってきたものをもとに、アイディアを出し合って作っていけるからこそ、面白いわけです。PJBEを「真似しよう」という気持ちは一切ないんですね。

やはり根っこの部分には彼らの演奏が刻み込まれているから、暗黙の了解で「ここはこう吹きますよね」というのがわかる。だからこそ逆に「こんなふうに変えてみようか」とできたことが新鮮で刺激的でした。
ARK BRASS(アーク・ブラス)
70年代を中心に世界中のブラス・ファンを虜にした伝説の金管アンサンブル〈フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル(PJBE)〉の偉業を継承し、21世紀のブラス・アンサンブル界をリードしていく存在を目指してトップ・プレイヤーたちが集結したドリーム・アンサンブル。都市型音楽祭ARK Hills Music Weekのオープニングを飾る〈サントリーホール ARKクラシックス〉のレジデント・ブラス・アンサンブルとして2021年に結成。佐藤友紀(tp)、福川伸陽(hrn)、青木昂(tb)、次田心平(tub)というスーパー・プレイヤーがコア・メンバーとなり、PJBEの基本スタイルである5人編成と10人編成を中心に、楽曲によって日本を代表する名手たちが加わる柔軟な編成で金管アンサンブルの多様な魅力を表現していく。
アルバム「イージー・ウィナーズ~PJBEへのオマージュ」、「展覧会の絵」をエイベックス・クラシックスよリリース。これまでの作品はこちら

録音でもライブでも
即興性が魅力です
――バロック音楽では譜面にはない装飾などを即興的に入れるのが通例ですが、アーク・ブラスは装飾音符にとどまらず、本番での「即興度」が非常に高いですよね。

演奏会はもちろんのこと、レコーディング中でもやってます。ホルンの福川さんが起点になることが多いですね。

目を見て「僕はこう行くけど?」みたいに仕掛けてきます。

僕らも負けていられないので、「じゃあ、こっちはこう行きますよ!」とやるわけです。で、うまくいくとウインクしてくる(笑)。

それでどんどん盛り上がっていってとりとめのない感じになるのを、「まあ、いったん落ち着け」とやるのが僕の役割です(笑)。

即興と言えば、打楽器の秋田(孝訓)さんに、たとえば打楽器の譜面のない《空想・おもちゃ・夢》に入ってもらって、ほぼ即興で叩いてもらうのがすごく面白かったです。

秋田さんは僕の擬音語を音にしてくれる名人なんですよ。《空想・おもちゃ・夢》でもエキゾチックな太鼓にしたかったので「こんな感じ」と歌って聴かせたら、もうドンピシャ。彼が入ったことによって僕らのイメージもより膨らんで、もうひとまわり大きな音楽が作れるようになりました。

――さて改めて、新しいアルバム『バロック』、どのあたりを聴いてほしいですか。

最初にお話しした、新旧ファーナビーですね。同じ曲集でも違うアレンジャー、違うメンバーの演奏だとこれだけ違うものが作れる。と同時に、それでもこれだけ近いものが作れる、というあたりは聴きどころだと思います。

実際に金管を演奏する人には、CDを聴いて「自分たちもやってみよう」と思ってくれたらいいですね。それは昔自分がPJBEでやっていたことですから、いつか僕らのCDを「中学時代にずっと聴いていました」という人が現れたらうれしいですね。

われわれにとって慣れ親しんだ曲でも、金管アンサンブルを聴いたことがない人にとっては見知らぬ曲なわけです。でも聴いてみて「金管アンサンブルって面白いんだ」「生で聴いてみたい」と思ってくれる方が増えたらいいなと思います。

特にアーク・ブラスの場合、CDとコンサートでは全然違うものになりますから、両方聴いていただく価値はあると思います。
ARK BRASSコンサート情報
「BAROQUE」CD発売記念コンサート
6月23日(月)19時開演 東京 浜離宮朝日ホール
※中学生・高校生無料ご招待
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スター・ウォーズ組曲〜ARK BRASS with 松井秀太郎
9月17日(水)19時開演 大阪 住友生命いずみホール
9月18日(木)19時開演 長岡 長岡リリックホール コンサートホール
9月19日(金)19時開演 盛岡 キャラホール 大ホール
※中学生・高校生無料ご招待
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