柴田南雄『名演奏のディスコロジー』 #6

第7回(1976年7月号)知られざるロマン派の名人芸

復刻!柴田南雄の名連載レコ芸アーカイブ
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レイモンド・レーヴェンタール(p)による『ルービンシュタイン:ピアノ協奏曲第4番』[Sony Music]ジャケット

柴田南雄の連載、「名演奏のディスコロジー」の再掲載7回目です。
『レコード芸術』1976年1月号から77年12月号まで、計22回続いた本連載の第7回は、音楽史の裏街道! ロマン派の知られざる音楽が続々登場します。

※文中の記述・事実関係などはオリジナルのまま再録しています。(今日では不適切と思われる表現も含まれますが、原典を尊重してそのまま掲載いたします)
※文中レコード番号・表記・事実関係などは連載当時のまま再録しています。

今回は、ふだんの「名演奏の音盤考」に登場する泰西たいせい名曲、ではない曲に耳を傾けてみたい。音楽史も裏街道を散策するのを好む筆者としては、一般には一顧の価値だになき愚作、と片付けられるような作品に、意外と興味が湧くのである。いわゆる内容空疎で技巧本位、などという曲になるとますます面白いのだ。そこで《名演奏の系譜考ジェネアロジー》といったテーマであれこれ迷曲を聞いて見ようと思い立った。

さて、カー・ラジオをつけ放しにして走っていると思わぬ未知の曲目が耳にとび込むのは誰しも経験することだろうが、数年前、たしか午後のレコードの時間に、ハイドンの《皇帝讃歌》のヴァリエーションをピアノ協奏曲仕立てでやっているではないか。途中からだから誰の作曲か判らない。相当長いので、協奏曲の終楽章などではなく、独立した曲らしいのだが、フンメルかクレメンティか、まさかヴェーバーの筈はないが、と思いながら終りのアナウンスを聞いたら、何とそれがカール・チェルニー(1791~1857)の作品だった。わたくしも後にそのレコード、フェリシア・ブルーメンタールというポーランド出身の女性ピアニストの演奏した外盤(日本盤はない)を手に入れた。(米RCA、V-CS1501、のち米ユニコーン、UNS235、オケはフローシャウアー指揮、ウィーン・チェンバー・オケ)

それより少し後のことだったと思うが、これもカー・ラジオから流れてくるロマン派のヴァイオリン協奏曲が誰の作品が判らない。かつて、プフィッツナーのヴァイオリン協奏曲のテープを、「誰の曲か判りますか」、と聞かされ、これはわずか1、2分で(彼にヴァイオリン協奏曲があることなどまったく知らなかったが)ズバリ当てた実績があるのだが、その時のカー・ラジオからの曲はどうにも判らない。リストのハンガリアン・ラプソディーの第11番あたりのモチーフがちらつくかと思うとブラームスみたいになったり、とにかくすごい技巧的な曲で、やがてカデンツァにすべり込んだ。すると一瞬、ほんの一瞬だがベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のヨアヒムのカデンツァの中のパセージと瓜ふたつのパセージが顔を出した。ヤ! こりやヨアヒムの作曲じゃないのか、と思い、その時は最後までは聞けなかったのでシュワンのカタログを帰宅後しらべると、たしかにヨアヒムには「ハンガリアン・スタイル」による、ニ短調、作品11、というヴァイオリン協奏曲がある。これは外盤が2種類あるのだが、その1つをつい先日入手してみると、まさにその曲だった。(ルイヴィル・オケの「ファースト・エディション・レコード」LS705、チャールズ・トレーガーのソロ、ジョージ・メスター指揮)しかし、前にラジオで聞いたのはこのレコードでなく、もう1枚のアーロン・ローザントというヴァイオリニストとルクセンブルク放送オケ、指揮ケーラーという独キャンディッド=ヴォックス盤(DE31064)ではなかったのか、という気がする。

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