【連載】女性作曲家に魅せられて 第7回

オギュスタ・オルメスに魅せられて 録音編/谷戸基岩

女性作曲家に魅せられて連載
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オギュスタ・オルメス

注目すべき女性作曲家を紹介するリレー連載。第7回にはオギュスタ(オーギュスタ)・オルメス(1847~1903)が登場します。

19世紀のフランスに活躍したワグネリアン作曲家であり、1889年パリ万博で大作《勝利の頌歌》を発表したことが特筆されるオルメス。サン=サーンスやドビュッシーに高く評価されながらも忘れられたその輝きへ、音楽学者・小林緑氏による「生涯・作品編」、そして音楽評論家・谷戸基岩氏による「録音編」の視点から迫ります。

本稿は「録音編」。2020年代の現在に録音が相次ぐ間奏曲《夜と愛》のほかにも、傾聴すべき音源が続々登場します。

※「生涯・作品篇」は有料会員限定コンテンツです。「録音篇」はどなたでもお読みいただけます

歌曲からはじまったオルメスの音源蒐集

私の音源・資料蒐集しゅうしゅうの在り方は、世間的な重要性・評価などは全く気にせず、自分の聴きたいもの、興味のあるものを集中的に揃えるというもの。女性作曲家というテーマはパートナーである小林 緑の研究テーマでもあり、見つけて必要と判断したものは何でも購入していた。とはいえ蒐集に熱の入る作曲家とそうでない人がいるのも事実。同じ1847年生まれの作曲家でもアガーテ・バッケル=グレンダールに関してはデンマークの中古楽譜店ダン・フォグまで中古楽譜を探しに行くほど熱心だが、オギュスタ・オルメスに関してはたまにCDを見つけたら買う程度。

オルメスに関して熱心でないひとつの理由は私が大のサン=サーンス・ファンであること。彼の生涯を調べていくと若き日にオルメスに夢中になり、しつこく求婚したものの断られた話がまず出てくる。サン=サーンスは結婚を諦めたものの末永い友情を誓った。さらに交響詩《オンファールの糸車》、歌曲《孤独》、同《ギター》をオルメスに献呈しており、評伝を読むとその名前が何度も登場する。そして極めつけは、フランクのオルメスに対する不倫願望が音楽として結実したとされている《ピアノ五重奏曲 ヘ短調》の初演でピアノを演奏する羽目になったこと……。惚れた弱みというか、いいように弄ばれた感があって伝記の項目を読んでいるのが辛い。きっとザ・ゾンビーズ(1960年代イギリスの優れたロック・グループ)のロッド・アージェントが書いた《テル・ハー・ノー》や《お好きな時に》といった曲に描かれたような、ある女性にメロメロになってしまった男の精神状態にサン=サーンスも陥っていたのかなぁ、と想像している。

さて私が最初に手にしたオルメスのCDはというとエヴァ・チャポー Eva Csapó(ソプラノ)とアリシア・マサ Alicja Masan(ピアノ)による『歌曲選集』(Accord 201252)①。1991年9月の録音なので1992年に入手したのではないかと想像する。Da Capo Press社のWomen Composers Seriesの第13巻として「歌曲選集」が発売されたのが1984年の事なので曲が重複していて便利なのかと思いきや、さにあらず。1曲(《春のセレナード Sérénade Printanière》)を除いて、全く異なっているのだ。小林 緑の説明によると同CDの企画担当で解説も執筆しているジェラール・ジュファン Gérard Gefenは音楽学者であり長年研究してきたオルメスには強い思い入れがあり、アメリカ人たちによるフェミニズムの高まりの中で活性化していた研究を忌み嫌っていた節がある、とのこと。確かにこの歌曲アンソロジーは実に傑出した選曲であり、今日に至るまでこれを凌ぐものは登場していない。

それから暫らくして指揮者のオダリーヌ・デ・ラ・マルティネスが監修した『打ち捨てられた花々~フランスの女性作曲家たちの歌曲集』(Lorelt LNT109)②が発売され、その中にナディア・ブランジェ、シャミナード、ヴィアルドとともにオルメスの歌曲が5曲収められていた。こちらは全てDa Capo Press版に収められた曲で便利だった。レベッカ・デ・ポン・デイヴィス(メゾ=コントラルト)、クレア・トゥメール(ピアノ)による録音。

管弦楽/室内楽作品の聴くべき録音

知られざる女性作曲家としては珍しくオルメスの場合には『管弦楽作品集』(Marco Polo 8223449)③のCDが1994年の段階で発売されていた。ラインラント=プファルツ・フィルハーモニックによって1990年6月、91年4月、92年5月の3回の録音セッションで収録されたもの。3つの交響詩《アンドロメダ》、《アイルランド》、《ポーランド》、《喜劇のための序曲》、間奏曲《夜と愛》が収められていた。指揮者はサミュエル・フリードマンとパトリック・ダヴァン。このCDはNaxosでも再発売されるなど、長らく唯一の管弦楽作品の録音として存在意義を誇っていた。しかし30年後、同じラインラント=プファルツ・フィルハーモニーをマイケル・フランシスが指揮した新録音『オルメス/交響詩集』(cpo 5555932)④が2024年に登場。先述の3曲の交響詩、間奏曲《夜と愛》に加えサンフォニー《怒れるロラン伯》が収録されている点は注目したい。

オルメスの場合には女性作曲家の録音が数多く実践されている室内楽、ピアノ曲が少ないことが女性作曲家のアンソロジーで名前を目にする機会が少ない原因かもしれない。そんな中、ルイジ・マジストレッリ(クラリネット)とクラウディア・ブラッコ(ピアノ)による『女性作曲家のクラリネット作品集』(Gallo 1355)⑤に収められた《モルト・レント》と《幻想曲》は恐らくこれらの唯一の録音だけに大変貴重だ。

一方、短いながらも〈シャンソン〉、〈月の光〉、〈ジグ〉という対照的な性格の3曲から成る《3つの小品》は最近になって2つの録音が登場した。私はこの曲集が(特にセサミ・ストリートのテーマ曲を彷彿とさせるような楽しい〈ジグ〉)大好きなのでとても嬉しい。ひとつはジュリエット・ユレル(フルート)とエレーヌ・クヴェール(ピアノ)による『20世紀初頭フランスの女性作曲家たちによるフルートとピアノのための作品集』(Alpha 573)⑥、もうひとつはバルド・コローナ・デュオによる『見えない星たち~19世紀フランスの女性作曲家たちによるフルートとピアノのための音楽集』(Da Vinci Classics C01003)⑦。グランヴァルの《組曲》など他にも重複している曲もあるが、女性作曲家たちの定番の名曲集をお望みならば前者、多少珍しい曲も聴きたいなら後者がお薦め。

間奏曲《夜と愛》を筆頭とする録音ラッシュ到来!

このところ間奏曲《夜と愛》の録音が相次いでいる。『ウィーン・フィル・シェーンブルン・サマーナイト・コンサート2024』(ソニー・クラシカル SICC2354)。チェロ8による『夜への頌歌』(MIRARE MIR578)、そしてヴォルフガンク・デルナー指揮パドゥルー管弦楽団による『星の夜~ベルリオーズ、オルメス』(Gramola 99247)⑧。この3つの中で注目すべきは最後の『星の夜』。ベルリオーズの《夏の夜》と《クレオパトラの死》を歌っているステファニー・ドゥストラク(メゾ・ソプラノ)がオルメスによって間奏曲の冒頭に掲げられた詩を朗読してから曲が始まっている。

その他の注目すべき録音としては、まずオルメス自らが四手連弾用に編曲した交響詩《ポーランド》が聴ける『家で連弾~ピアノ・デュエットのための音楽集』(Toccata Next TOCN0031)⑨。ステファニー・マッカラムとエリン・ヘルヤードが1853年製エラール・ピアノで演奏している。もうひとつはスティーヴン・イッサーリスが自ら編曲したオルメスのカンタータ《王妃の幻影》より〈レシタティフと歌〉を含む『プルーストのサロンの音楽』(BIS BISSA2522)⑩。ピアノはいつものコニー・シー。

パラツェット・ブル・ザーネが制作した8枚組『COMPOSITRICES フランス・ロマン派時代の女性作曲家たちに新たな光を』(Bru Zane BZ2006)には交響詩《アンドロメダ》、間奏曲《夜と愛》、歌曲3曲が収められているが、同レーベルなら交響的頌歌《祖国のための遊戯》(全曲)あるいはフランス革命100年を記念した《勝利の頌歌オード》などを録音して欲しかった。

まだまだオルメスには未録音の作品が沢山ある。レコード会社各社には一層の奮起を期待したい。

(文中敬称略)

「オギュスタ・オルメスに魅せられて 生涯・作品編」はこちら

谷戸基岩(やと・もといわ)

1953年甲府市生まれ。1976年から18年半にわたり日本コロムビア、ワーナー・パイオニアにてクラシック音楽の日本盤編集・編成・宣伝作業に携わる。1995年から音楽評論家。30年で約7,000のコンサートに通うとともに多数の輸入盤CDを蒐集。2002年より「知られざる作品を広める会」を主宰。2003年~2024年尚美学園大学非常勤講師。第18、19回日本ハープ・コンクール審査委員長。共著に『古楽CD100ガイド』、『女性作曲家列伝』。

■今後の連載スケジュール

※2026年10月改訂
※今後変更の可能性がございます

2027年

1月号「セシル・シャミナード」(1857~1944)

4月号「ルイーゼ・アドルファ・ル・ボー」(1850~1927)没後100年(命日:7月17日)

7月号「エミーリエ・マイヤー」(1812~83)

10月号「エセル・スマイス」(1858~1944)

2028年

1月号「テレサ・カレーニョ」(1853~1917)

4月号「マリア・シマノフスカ」(1789~1831)

7月号「エイミー・ビーチ」(1867~1944)

10月号「エルフリーダ・アンドレー」(1841~1929)没後100年(命日:2029年1月11日)

2029年

1月号「アマンダ・マイエル」(1853~1894)

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