樫本大進が語る ヴィヴァルディ《四季》
――ベルリン・バロック・ゾリステンと描く4つの情景

インタビュー
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©Keita Christophe

インタビュー・文=山崎浩太郎(演奏史譚)

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集《四季》

樫本大進(vn)ベルリン・バロック・ゾリステン
〈録音:2025年1月22~25日〉
[ベルリン・フィル・レコーディングズ(D)BPHR260541(国内流通仕様)]SACDハイブリッド

ベルリン・フィルの仲間たちと、時間をかけてレコーディング

 ソリストとして室内楽奏者として、そしてベルリン・フィルのコンサートマスターとして、多面的に活躍する樫本大進が、ベルリン・フィルのメンバーで構成するベルリン・バロック・ゾリステンと、ヴィヴァルディの《四季》を録音した。モダン楽器によるこの最新録音について、話をきいてみた。

――この《四季》という作品についての、印象をお聞かせください。

樫本 ヴィヴァルディはどの楽章にもソネット*をつけて、その物語を元にして、誰が聴いても情景が想像できるような、ほんとうにわかりやすく書いています。映画音楽みたいな感覚もあると思います。それに加えて、この作品が出版された300年前の人たちにとっては、こういう音楽は、現代人にとってのロックみたいな存在だったのではないかとも思います。現代の僕たちにとっても、直接的なエネルギーを持っている音楽ですよね。
*ライナーノーツに日本語訳あり

――今回の録音では、特に〈夏〉の嵐の楽章の激しさなどは、まさにそう感じました。

樫本 そうですね。さらに〈春〉も〈秋〉も〈冬〉も、それぞれにすごく激しいところがあって、とてもよくできた作品です。300年前の作品なのに、今でも世界中の人に愛されている。誰でも知っているメロディというのは、ほんとうにすごいことですよね。まさにエバーグリーン。レコーディングもたくさんありますし、演奏会でも数えきれないくらい取りあげられています。でも、それだけ演奏され続ける価値がある作品なんです。
 よく、「こんなに録音があるのに、また録音するんですか」と聞かれるんです(笑)。でも、録音がすでにたくさんあるからする価値がないのではなくて、それでも僕らのヴィヴァルディを残したい、という気持ちなんです。これまでの録音も全部違いますよね。同じ感じの演奏ってほんとうにない。解釈も違いますし、弾き方も違う。だから、この作品はいくら録音があってもいいと思っています。

――それだけ演奏され続けている作品だからこその難しさはありますか。

樫本 そこはあまり気にしたことはないですね。《四季》だけでなくどんな名曲でもそうですが、有名かどうかは関係ありません。作品と向きあって、自分の中から出てくるものを自然に演奏しなければ、人にも伝わらないと思います。

樫本大進 Daishin KASHIMOTO
ロンドン生まれ。1990年バッハ・ジュニア音楽コンクール、1996年フリッツ・クライスラー、ロン=ティボー国際音楽コンクールなど、5つの国際コンクールで優勝。ロンドン生まれ。3歳からヴァイオリンを始め、ジュリアード音楽院プレカレッジ、リューベック留学を経てフライブルク音楽院修士課程を修了。ドイツを拠点に世界各地で演奏活動を展開し、2010年よりベルリン・フィルハーモニー管弦楽団第1コンサートマスター。ロリン・マゼール、小澤征爾、マリス・ヤンソンスらの指揮で主要オーケストラと共演するほか、室内楽でも幅広く活躍している。使用楽器は、株式会社クリスコ(志村晶代表取締役)から貸与された1744年製デル・ジェス「ド・ベリオ」。
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樫本大進 公演情報
・2026年9月13日(日)~9月20日(日
プログラム | ル・ポン国際音楽祭2026赤穂・姫路
・2027年1月6日(水)、2027年1月7日(木)
速報!スーパースター達による新春特別コンサート、開催決定! | クラシック音楽事務所ジャパン・アーツクラシック音楽事務所ジャパン・アーツ

ベルリン・バロック・ゾリステン Berliner Barock Solisten
1995年にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団員と古楽のスペシャリストによって結成。歴史的奏法の理念を現代楽器で実践する独自のアプローチにより、世界屈指のバロック・アンサンブルとして高い評価を得ている。2005年にはグラミー賞を受賞し、2018年には《ブランデンブルク協奏曲》の録音でOPUS KLASSIK「年間録音賞」を受賞。2018年からは古楽界の巨匠ラインハルト・ゲーベルが芸術監督を務める。
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――今回の録音では、情景描写をかなり具体的にイメージされましたか。

樫本 もちろんです。〈春〉〈夏〉〈秋〉〈冬〉、それぞれの場面を全員でイメージしながらリハーサルしました。どうすればその場面をいちばんうまく表現できるか、長く話し合いました。レコーディングでは一度録ってから全員で聴いて、確認しあいながら作業できます。最終的には自分がソリストとして決めますが、ふだんからコンサートマスターとしてメンバーと接しているだけに、いつもと同じようにできたのはよかったです。長いつきあいなので、お互いのこともよくわかっていますし。今回は時間も十分にあったので、ほんとうに贅沢なレコーディングでした。

――会場は、近年さまざまな録音で見かけるB Sharpのスタジオだったのですね。

樫本 毎日45分から1時間ほどかけて車で通いましたが、ベルリンの郊外にあるので、到着したときには自然とリラックスした状態になりました。それも悪くなかったですね。

――レコーディングではマイクを囲むように、樫本さんがオーケストラと向きあう配置だったのですね。

樫本 最初は普通のコンサートのような配置だったのですが、いろいろ試してみて、アイコンタクトがいちばん取りやすい配置にしてもらいました。とても演奏しやすくなりましたね。ただ、自分だけ立って演奏していたので、疲れましたが(笑)。

――セッションは4日間。

樫本 「どうしても4日間欲しい」と無理をお願いして、スポンサーの方にも助けていただいて実現しました。ほんとうにありがたかったです。初日は、半分以上をサウンド・チェックに使いましたね。チェンバロやリュートとは僕自身があまり共演してこなかったので、チェンバロはどのオクターヴを使うか、どこまで前に出すか、装飾をどこまで入れるかなど、細かいことまで何度も相談して、音量のバランスを細かく確認しながら進めました。4日間まるまる費やして、ほぼ1日に1曲ずつ、サウンド・チェックと合わせて録音していきました。
 贅沢なことでしたが、結果がすべてだと思います。レコーディングは、やはり時間をかけないと良いものにはならないと思います。急いで録ってしまうと、絶対に満足のいくレベルには届きません。

©Stephan Rabold

――演奏界全体の傾向として、20年ほど前は、モダン楽器でもピリオド奏法を強く押し出す方向性が強かった印象がありますが、最近は少し変わってきましたね。今回の演奏も、歴史的奏法を尊重しながらも、モダン楽器ならではの洗練された美しさを感じました。

樫本 やはり自分の音、自分の得意とする弾き方は失いたくありません。そこを大切にしながら、バロックのスタイルも尊重していく。自然とそういう演奏になっていますね。

――では、最後にお聴きになる方へのメッセージをお願いします。

樫本 今回の録音は、4本のショート・ムービーを観ているような感覚で楽しんでいただけると思います。〈春〉〈夏〉〈秋〉〈冬〉、それぞれにまったく違う色があります。ディスクについているヨハネス・イッテンの画も、イメージをふくらませてくれると思います。とてもわかりやすい音楽で、ストーリーも自然に伝わってきます。といってもヴィヴァルディがつけたソネットによる物語だけではなく、聴く方それぞれが自由に物語を想像できる作品でもあると思いますから、そんなふうに聴いていただけたら嬉しく思います。
 少しロックなクラシック、と言ってもいいかもしれません(笑)。ぜひ楽しんで聴いていただければと思います。

――ありがとうございました。

©Stephan Rabold

取材協力=ファインアーツミュージック、ジャパン・アーツ

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