ここでは、最近発売されたクラシックのリイシュー&BOX盤のなかから注目盤を厳選して紹介します。
コレッリの旬の歌声とマタチッチの清新な棒——《道化師》の名盤が国内初CD(SACD)化
信じ難いことに、フランコ・コレッリがカニオ役を歌う《道化師》は、これまで一度も国内CD化されていなかった(LPでは同じコレッリ主演のサンティーニ指揮《カヴァレリア・ルスティカーナ》と組み合わせて発売されたが)。録音史上この役ではまぎれもなくデル・モナコ(当該デッカ盤は何度も再発売されている)と双璧を成すというのに! 最新マスタリングによって、コレッリの声の伸び、陰翳がより明瞭になったのも快挙と言える。そして指揮のマタチッチの爽快な指揮も、意外な発見となるかも。最後にもう一点、聴き逃せないのがマリオ・ザナージのシルヴィオ。もちろん第一バリトンはゴッビであり、彼の前口上の歌唱や役作りも十分に面白いのだが、ここでは、その実力の割りにほとんど録音がない美声ヴェルディ・バリトン、ザナージのノーブルな歌声が、アマーラとの二重唱部分にほんの数分ながらしっかりと刻まれているのは、バリトン・フリークには僥倖としか言いようがない。 (Y.F.)

レオンカヴァッロ:歌劇《道化師》全曲
ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮ミラノ・スカラ座o&cho,フランコ・コレッリ,マリオ・スピーナ(T)ルシーン・アマーラ(S)ティート・ゴッビ,マリオ・ザナージ(Br)他
〈録音:1960年7月〉
[ワーナー・クラシックス—タワーレコード(S)TDSA330]SACDハイブリッド
若きカラヤンの疾走感――フィルハーモニア管とのベートーヴェン
カラヤンの第1回目となるベートーヴェン 交響曲全集を軸に、フィルハーモニア管弦楽団とのベートーヴェン録音を集成したボックスが登場した。使用音源は2014年リマスターと同一とみられるが、その際に初出となった交響曲第8番・第9番の“幻のステレオ音源”が今回も収録されている。従来モノラルで知られていた1955年録音だが、実験的に収録されていたステレオ音源が発掘されたもので、2曲とも同曲初のステレオ録音ということになる。“実験的”ゆえに楽器バランスなどにやや不自然さがあるものの、音の広がりは段違いである。1958年録音の《ミサ・ソレムニス》も同曲初のステレオ録音。カラヤンはこの作品を計4回録音しているが、後の録音がカラヤン流美学の徹底ゆえ、時にマニエリスムへ傾斜して好悪を分けるのに対し、この第1回録音は、彼が範としたトスカニーニを彷彿とさせるストレートな快演である。〈グローリア〉の疾走感は目も眩むばかりだ。(M.K.)

ベートーヴェン/交響曲全集,他
〔交響曲第1番~第9番《合唱》,《エグモント》序曲,《レオノーレ》序曲第3番,《コリオラン》序曲,ピアノ協奏曲第4番,同第5番《皇帝》,ミサ・ソレムニス,他〕
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮フィルハーモニアo,ウィーン楽友協会cho,エリーザベト・シュヴァルツコップ(S)マルガ・ヘフゲン(A)エルンスト・ヘフリガー(T)オットー・エーデルマン(Bs)ワルター・ギーゼキング(p)他
〈録音:1951年6月~1958年9月〉
[Warner Classical(M,S)2685427670(7枚組,海外盤)]
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美声の饗宴——ロス・アンヘレス主演《蝶々夫人》の歴史的名盤、SACD化
もしレコード(CD)で聴ける最高の蝶々さんは?と問われたら、カラス(1955年録音)テバルディ(1951/58)スコット(1966/74)フレーニ(1974/88)あるいはアルバネーゼ(1956)カーステン(1960)…と、無限に名前が浮かんできてしまい結論がなかなか出ないが、今回のリマスター盤を聴き直してみて、ビクトリア・デ・ロス・アンヘレス(1954/59)こそ、可憐でありながら芯も強い、という最もバランスの取れた理想の蝶々さんでは、と思い始めた。そのロス・アンヘレスの絶唱に、当録音の1年後に早世してしまう(だからといってそれを微塵も感じさせない)ビョルリングの美声ピンカートン、底光りするスタイリッシュな名バリトン、セレーニのシャープレスが華を添える。さらに第2幕〈花の二重唱〉できらりと大器メゾの片鱗を見せるピラッツィーニ、と、一秒たりとも聴き飛ばすことができない、ぎっしり声の魅力が詰まった全曲盤であるのを再確認。元々録音状態が良好だった音源が、最新マスタリングによってさらなる音の伸びを得たことも大収穫となった。 (Y.F.)

プッチーニ:歌劇《蝶々夫人》全曲
ガブリエーレ・サンティーニ指揮ローマ国立歌劇場o&cho,ビクトリア・デ・ロス・アンヘレス(S)ミリアム・ピラッツィーニ(Ms)ユッシ・ビョルリング,ピエロ・デ・パルマ(T)マリオ・セレーニ(Br)他
〈録音:1959年9月~10月〉
[ワーナー・クラシックス—タワーレコード(S)TDSA331~2(2枚組)]SACDハイブリッド
研磨された、ミケランジェリそしてドビュッシーの必聴盤
『ショパン・リサイタル』[PROC2443]と『シューマン:謝肉祭,他』[TDSA327]に次ぐ、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(1920~95)のタワーレコード・リマスター盤。前二者は没後30年を記念する企画で、これらが好評を博して、この彼の代名詞的録音にしてドビュッシーの歴史的名盤が研磨されることになったらしい。彼の理知的なアプローチは、それまでの印象主義の「雰囲気」が強調されがちだった、ゆるふわなドビュッシー受容の潮流に一石を投じることになった。いかにも印象主義に結び付けられそうな〈沈める寺〉ひとつとっても、楽譜を宝石細工のような響きに昇華させる、ストイックな彼のピアニズムを聴くことができる。この録音がなければ、現代のドビュッシー演奏のありかたはちがっただろうし、作曲家自体の評価も変わっていたかもしれない。また、これはアナログ録音期の音源を復刻するシリーズだから、1988年の《前奏曲集 第2巻》はここには入っていない。(H.H.)

ドビュッシー:前奏曲集第1巻,映像第1集・第2集,子供の領分(2026年リマスター)
アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(p)
〈録音:1971年7月,78年6月〉
[グラモフォン(タワーレコード)(S)PROC2484(2枚組)]SACDハイブリッド
島田彩乃のフランス音楽集がリマスタリング再発売
ピアニストの島田彩乃が2006年に録音しゼール音楽事務所から発売されていた「フランス音楽集」が、この度アルトゥスからリマスタリング再発売された。島田は桐朋女子高等学校を卒業後、渡仏、パリ国立高等音楽院、エコール・ノルマル音楽院を修了後、ライプツィヒ音楽大学にて研鑽を積んだ。今回、同時にドビュッシー《前奏曲集第2巻》の新譜(録音は2017年)も発売されたが、本盤はそれよりさらに約10年前の録音にあたる。おそらく現在とは表現や解釈も異なるはずだが、微細な色彩を描き分ける美しいタッチはフランス音楽との相性の良さを強く印象づける。とりわけデュティユー本人から称賛されたという《ソナタ》は、いまなお録音に恵まれているとは言い難く、必聴の価値を持つ。(M.K.)

ドビュッシー:前奏曲集第1巻,デュティユー:ピアノ・ソナタ,ラヴェル:水の戯れ,亡き王女のためのパヴァーヌ(2026年リマスター)
島田彩乃(p)
〈録音:2006年1月〉
[アルトゥス(D)ALT554]
「パイオニア」が伝える、クラシック音楽の自由な演りかた
エアリング・ブロク(1904~92)はヴァイオリン奏者で、生涯を通してデンマークを拠点とした。コペンハーゲンに生まれ同地の音楽アカデミーに学び、王立管弦楽団の奏者となって同僚たちと四重奏団を結成、46年からは母校で後進を育てた。彼が「デンマーク室内楽奏者のパイオニア」と説明されるわけが、本BOXのプロデューサーとエンジニアを務めたクラウス・ビリスによる暑苦しいライナーノート(デンマーク語/英語)にある。正確にいえば、彼以前にも同国に室内楽グループは存在していた。ただまとまった録音を重ねて、国内外に「デンマークの室内楽」を知らしめたのは彼が最初だった。そのレパートリーは古典派と、本邦ではレアなデンマーク人作曲家によるものを含む、同時代の作品の二極に重心を置く。感興に満ちたダイナミックな解釈や、バルトークなどの新曲を果敢に取り入れる姿勢、そして何よりノマド的な楽壇の風土を思うに、どことなく自由主義的な演奏だ。(H.H.)

エアリング・ブロク~デンマーク室内楽奏者のパイオニア
〔ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番,ピアノ三重奏曲第11番《カカドゥ変奏曲》,シューベルト:ヴァイオリンとピアノのための《幻想曲》D.934,バルトーク:弦楽四重奏曲第6番,ホルンボー:弦楽四重奏曲第1番,シュルツ:フルート、ヴァイオリン、チェロとピアノのための《小協奏曲》,他〕
エアリング・ブロク四重奏団〔エアリング・ブロク,レーヴァート・フリースホルム(vn)ハンス・カソウ(va)トーベン・アントン・スヴェンセン,アスガー・ロン・クリスチャンセン(vc)〕,ホルガー・ギルバート=イェスパセン(fl)ホルガー・ロン・クリスチャンセン(p)他
〈録音:1937年11月~52年8月,54年頃〉
[Danacord(M)DACOCD1001(6枚組)]
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Text:編集部
