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J.S.バッハ(ネヴァーマインド編):ゴルトベルク変奏曲 BWV.988
ネヴァーマインド〔アンナ・ベッソン(flトラヴェルソ)ルイ・クレアック(vn)ロバン・ファロ(vaダ・ガンバ)ジャン・ロンドー(cemb,org)〕
〈録音:2024年8月〉
[ALPHA(D)NYCX10508(2枚組)]
2月21日発売予定
オリジナルと見紛うばかりの名編曲
なんと美しく、儚く、哀しく、華やかなのだろう。
鍵盤楽器奏者のジャン・ロンドーを中心とするユニット、ネヴァーマインドの新作は、かの《ゴルトベルク変奏曲》だ。最近とみに様々な形に編曲されることが多くなったが、同属楽器のアンサンブルはもとより、最近では室内オーケストラ版まで出現するなど、まさに百花繚乱。それらすべてが成功しているとは限らないけれど、この作品のもつ宇宙的な広がりは、多くの音楽家を刺激してやまない。
ネヴァーマインドはフラウト・トラヴェルソ、ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバと鍵盤(今回はイタリアンとジャーマンのチェンバロ2種とオルガン2種)の名手4人からなる。これはバロック時代の室内楽で多くみられ、多様な可能性を持った編成だが、彼らが「トランスクリプション」(原盤での表記)した《ゴルトベルク変奏曲》はこちらがオリジナルかと思うほどの素晴らしさだ。すでにオリジナル版の録音があるロンドーの見事さは当然。ベッソンのトラヴェルソは唯一の管楽器として存在感を放つだけでなく、オルガンがバックに付いた変奏での管楽器特有の艶やかさが格別だ。弦楽器2パートは音色の独立性と均質性が部分によって目まぐるしく変化している。
各変奏のキャラクターの違いも聴きもので、〈アリア〉はトラヴェルソのソロ・ソナタの緩徐楽章のように伸びやか、続く第1変奏はトラヴェルソの代わりに高音楽器がヴァイオリンに切り替わって躍動感が前面に出るという具合だ。各変奏の間は広めに取られており、聴き手に次への期待を持たせて効果的だし、鍵盤がチェンバロとオルガンになることによる音色の変化も愉しい。前半最後の第15変奏の透明感と後半の開始を告げる豪奢な第16変奏の見事な対比、ヴァイオリンが嫋々と歌う第25変奏の哀しさ、ヴァイオリンとガンバのみによる第27変奏の静けさなどを経て、鍵盤がオルガンになった〈アリア・ダ・カーポ〉の豊かな余韻で終わる濃密な98分である。
西村 祐 (フルート奏者)
協力:ナクソス・ジャパン
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