最新盤レビュー

ブルース・リウの個性と挑戦
チャイコフスキー、サティの注目2タイトルが登場

若き個性派ピアニストと、
チャイコフスキーの出会い

ディスク情報

チャイコフスキー:四季 [MQA/UHQCD]
〔チャイコフスキー:四季,ロマンス(ボーナストラック)〕
ブルース・リウ(p)
〈録音:2024年1月〉
[ユニバーサルミュージック(D)UCCG-45102]MQA/UHQCD

ブルース・リウは常に新たな作品への挑戦を怠らず、2021年ショパン・コンクールでも《『ドン・ジョヴァンニ』の「お手をどうぞ」の主題による変奏曲》で審査員と聴衆の心をわしづかみにし、新たなショパン像を確立した。

その彼が初来日時からずっと言い続けてきたのが「チャイコフスキーを録音したい」。ここに登場した《四季》もまた、リウの個性である明朗で自由で視覚的、しかも内省的なピアニズムが全開。とりわけ〈バルカローレ(舟歌)〉の揺れるリズム、〈トロイカ〉の旋律美、〈ワルツ〉の物語性などに特有の奏法が遺憾なく発揮されている。

彼はコルトー、フランソワ、ミケランジェリに憧れ、彼らのような「音を聴いただけでそのピアニストがわかる」存在感のあるピアニストになりたいと願っている。このチャイコフスキーはまさにリウの音そのものが存在している。チャイコフスキーがこよなく愛したのは“静寂”。リウの演奏はメランコリックでロマンに富むが、その奥に静けさが宿る。

サティの音楽はきっと、
こんな響きだったはず

ブルース・リウ - ウェイブス(サティ)
ディスク情報

ウェイブス~サティ:6つのグノシエンヌ [MQA/UHQCD]
〔サティ:6つのグノシエンヌ(Part1 グランド・ピアノ Ver.,Part2 アップライト・ピアノVer.)〕
ブルース・リウ(p)
〈録音:2023年11月[Part1]
2024年4月[Part2]〉
[ユニバーサルミュージック(D)UCCG-45103]MQA/UHQCD

ブルース・リウがショパン・コンクール後に「自分はフランス出身なのでフランス作品は血肉となっている」と語っていたが、ラモー、アルカン、ラヴェルの録音[編注:2023年10月リリースの『ウェイブス~フランス作品集』(ユニバーサル)]はまさに母国語で表現するような自然体の演奏だった。

次いで登場したフランス作品はサティ。この録音はかつてのモンマルトルの「ル・シャ・ノワール(黒猫)」の雰囲気を彷彿とさせる演奏で、とりわけアップライトによる演奏が現地のカフェで聴くような感覚をもたらす。打鍵とペダリングの妙は、ひとつの音に対する力の入れ方と脱力。以前、取材時に小さなピアノがあり、それをすぐに弾き出した彼のタッチは、深い打鍵と半分の打鍵、全部踏み込むペダルと半ペダル、それらを絶妙に組み合わせながら曲の神髄に迫る。

サティの各曲のユーモアとウイットとエスプリに満ちた曲想を、リウは「黒猫」で弾いているような気楽さと親密さで表現。すぐそばでサティを聴いているような臨場感に包まれ、至福のひとときが味わえる。

伊熊よし子 (音楽ジャーナリスト)

協力:ユニバーサル ミュージック

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