
宮城道雄という作曲家を知っていますか?
宮城道雄(1894~1956)は、20世紀前半の日本を代表する箏曲家です。また独学で作曲を学び、お正月によく聞かれる《春の海》などの作品を生み出した人物でもあります。
今回は、今年没後70年を迎える彼にまつわる音楽を収めた、5点のディスクをレコード芸術ONLINE編集部がセレクト! ご紹介します。
六段 宮城道雄の箏
春の海 宮城道雄の箏
1894年4月、神戸の居留地に生まれた宮城(出生時の姓は菅)は8歳で失明。二代目中島検校の門を叩いて地歌筝曲を学び、11歳で免許皆伝となる。13歳で朝鮮に渡り、作曲を独学して処女作《水の変態》を書き、生涯にわたって演奏と作曲を続けた。1917年に帰京し、19年5月、彼は日本音楽近代化の一大事件とされる第1回作品発表会で衝撃的なデビューを果たす。25歳のことだった。
この発表会で披露された作品は、とくに邦楽の担い手から大きな抵抗をともなって受け入れられた。ここに挙げた、それぞれ宮城の演奏による古典曲と、自作曲の録音が収められた2つのディスクを聴き比べれば、旋律への配慮や擬態的表現の数々など、彼が異質なものとして受容された理由を、たちどころに感じていただけると思う。

六段 宮城道雄の箏
〔八橋検校:六段,光崎検校:秋風の曲(前弾),西山徳茂都:秋の言の葉(抜粋),八橋検校:みだれ,光崎検校:五段砧,吉沢検校:千鳥の曲〕
宮城道雄,宮城喜代子(箏)
〈制作:1997年〉
[日本伝統文化振興財団(M)VZCG724]
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春の海 宮城道雄の箏
〔宮城道雄:春の海,水の変態(抜粋),さくら変奏曲,瀬音,数え唄変奏曲,秋の調べ,さらし風手事〕
宮城道雄,宮城数江(箏)宮城喜代子(十七絃)吉田晴風(尺八)
〈制作:1997年〉
[日本伝統文化振興財団(M)VZCG723]
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ビクター録音集
大見出しと矛盾するが、やはり宮城道雄といえば《春の海》(1929)が有名だ。瀬戸内の海の印象が霊感源となった尺八と箏のための作品で、公式の初演は1930年の宮中歌会始。くだんの作品発表会から10年後のことである。生涯の親友で理解者だった尺八家の吉田晴風*との共演だった。この2人による録音は、前項のディスク『春の海』に収録されている。
《春の海》が世界的に広く知られるきっかけとなったのがヴァイオリニスト、ルネ・シュメーとの共演盤である。32年のシュメー来日の際、この曲を気に入った彼女は一晩でヴァイオリン版への編曲を完成させ、2人でレコーディングに臨んだのだった。
以来、《春の海》はヴァイオリンとハープ、フルートとハープ、さらにはピアノ独奏などなど、様々な編成で演奏されるようになり、現在に至っている。
* 吉田は「新日本音楽」の名付け親でもある。ちなみによく知られた話だが、宮城は「新日本音楽」のレッテル貼りを嫌った。「印象主義」を忌避したドビュッシーに似た事例かもしれない。

ビクター録音集
〔ヘンデル:ヴァイオリン・ソナタ第6番~第1楽章,第2楽章,フェリックス・メンデルスゾーン:春の歌,宮城道雄(シュメー編):春の海,他〕
ルネ・シュメー(vn)宮城道雄(箏)他
〈録音:1924年4月~32年〉
[Biddulph Recordings(M)BIDD85065(海外盤)]
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【音楽之友社の関連書籍】
ドレミを選んだ日本人
千葉優子 著
ISBN:9784276212572〈発行:2007年3月〉
私たちの耳はいつから日本の伝統音楽を異質なものと感じ、西洋音楽を快いものとして聴くようになったのか? 「明治以後の洋楽受容史」を邦楽研究者としての立場から見直した、「もうひとつの近代日本音楽史」。
ストラヴィンスキー/伝説の自作自演アニヴァーサリー・エディション
宮城は熱心なレコード愛好家でもあった。朝鮮時代、レコードをかけていた商店から漏れ出るクラシック音楽を聴き、やがて収集を始めるようになる。(コレクションの大半は東京牛込の自宅にあり、太平洋戦争での空襲により多くが焼失している。)貪欲に音楽を追究する宮城の性格を表すエピソードといえるし、また彼にとっての朝鮮時代は、彼自身が作曲を始めた時期にも重なっているから、彼の音楽的挑戦の背景に、クラシック・レコードの聴取経験を指摘することもできるだろう。
随筆で彼は、ドビュッシーとラヴェルを愛聴し、ストラヴィンスキーについても「ストラヴィンスキーのものを聴くと、自分が作曲の上で自由なことをするのに、大胆にやれるような気がする」**と書いている。同じく「作曲をするもの」として、《春の祭典》の自作自演盤も聴いただろうか?
ストラヴィンスキーは1959年4月に初来日を果たして、武満徹に会っている。56年6月に宮城が鉄道事故で急逝してから、3年近く後のことだった。
* * 千葉潤之介編『新編 春の海 宮城道雄随筆集』(岩波文庫)に収録の「『春の海』のことなど」より

ストラヴィンスキー/伝説の自作自演アニヴァーサリー・エディション
〔バレエ《春の祭典》,《火の鳥》組曲(1945年版)〕
イーゴル・ストラヴィンスキー指揮 コロンビア交響楽団,ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
〈録音:1940年4月,46年1月,60年1月,67年1月〉
[ソニー・クラシカル(M/S)SICC10178~9(2枚組)]
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復刻盤 宮城道雄 合奏曲集成
宮城の作曲家としての作品数は400を超える。そのほとんどが筝曲だが、いくつか大きな編成の作品も書いている。いちばん有名なのは雅楽の《越天楽》の旋律を素材とする《越天楽変奏曲》(1927)だろうか。これは箏を中心に十七絃、胡弓、尺八、笙、打ち物などの邦楽器をとり合わせた、20分ほどの演奏時間を要する作品である。このうち十七絃とは、宮城が1920年頃に考案した新楽器で、低音部を強化した改良箏。宮城は作曲だけでなく、楽器についても改革を行っていたのだ。
《越天楽変奏曲》には、1928年11月の御大典奉祝大音楽会のために作られた、近衛秀麿と直麿の兄弟がオーケストレーションに関わった箏+西洋楽器版(和洋合奏版)もある。なかでもこの盤に収められた、宮城の姪、宮城喜代子が箏を弾いて新星日響と共演した録音は、演奏の面でも、録音の面でも注目すべきものと編集子は思う。また、松平頼則との協働による《盤渉調箏協奏曲》や、すべてを宮城が作曲した併録の《春の賦》など、本盤の他のトラックも必聴のものばかりだ。

復刻盤 宮城道雄 合奏曲集成
〔越天楽変奏曲,道灌,日蓮,盤渉調箏協奏曲,春の賦,他〕
宮城喜代子(箏)宮城合奏団,佐藤功太郎指揮 新星日本交響楽団,他多数
〈録音:1972~87年〉
[日本伝統文化振興財団(S/D)VZCG8446~50(5枚組)]
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Text:編集部(H.H.)
参考Webページ&書籍:
飯田有抄「お正月に定番のアノ曲……知られざる宮城道雄「春の海」のヒットの秘密」(Web版「ONTOMO」、2021年1月29日更新)Web版「ONTOMO」のページ
片山杜秀「日本人作曲家 きわめて貴重な箱物集成」(『レコード芸術』2011年3月号の特集「大豊作時代到来!「全集」徹底ガイド」、2011年)
千葉潤之介編『新編 春の海 宮城道雄随筆集』(岩波文庫、2002年)
