
モーツァルト・パラドックス
〔モーツァルト(トーマス・エンコ編曲):歌劇《ドン・ジョヴァンニ》より〈序曲〉,ナハトムジーク,ヴァイオリン・ソナタ ホ短調,アヴェ・ヴェルム・コルプス,ピアノ・ソナタ イ短調,ピアノ・ソナタ イ長調,《大ミサ曲》より〈キリエ〉,司祭たちのワルツ,ディソナンス・シンフォニー,歌劇《ドン・ジョヴァンニ》より〈お手をどうぞ〉,《レクイエム》より〈ラクリモーサ〉,クラリネット協奏曲,ボーナストラック:ピアノ・ソナタ イ長調(Alternate Take)〕
トーマス・エンコ(p)
〈録音:2024年〉
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※国内盤は8月27日発売予定
※LP2枚組(海外盤)も発売中
モーツァルト好きならばかなり楽しめる!!
センスのよいアルバムだ。新時代の才能を感じさせるエンコは1988年フランス出身のコンポーザー・ピアニスト。ジャズとクラシックの2つをフィールドとして大活躍中。2014年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンではピアノ・トリオで初出演し注目を浴び、その後何度かコンチェルトのソリストとして来日を重ねて人気と知名度を上昇させ、今年5月の名古屋フィルの定期公演では、祖父にあたる名指揮者ジャン=クロード・カサドシュとの共演が実現し大きな話題になったのも記憶に新しいところ。音楽一家の生まれだけあってピアニズムと音楽性のクオリティの高さは抜群、しかもビジュアル良しときているからアーティストとしてほぼ理想的?
すでにバッハの作品を下敷きにした「BACH MIRROR」で成功している彼が今度はモーツァルトの代表作をジャズ風にアレンジして即興で弾いている。原曲の艶っぽさをジャズのノリでさらにムード感を高めた《ドン・ジョヴァンニ》K.527のデュエット〈ラ・チ・ダレム・ラ・マノ(お手をどうぞ)〉、セレナード第13番K.525終楽章による《ナハトムジーク》、有名なトルコ行進曲付のソナタK.331の第1楽章の旋律にフォーカスした《ピアノ・ソナタ イ長調》、ハ短調ミサK.427 ( ! )から〈キリエ〉、サラっとした仕上がりが逆に心に染みる〈ラクリモーザ〉~《レクイエム》K.626より、などなど選曲が実に多彩。予想どおりに全ナンバーどれもかなり凝ったアレンジが施されているのだが、その高度な技法がさりげなく使われるところがいい。全編にわたり飽きさせない魅力を放つのは原曲へのリスペクトゆえか。
個人的にハマったのは交響曲第40番K.550の終楽章に弦楽四重奏曲第19番K.465《不協和音》第1楽章の序奏の音型を組み込んでしまった《ディソナンス・シンフォニー(不協和音のシンフォニー)》。これ、モーツァルト好きならばかなり楽しめるはず。
城間 勉(音楽ライター)
協力:ソニーミュージック