
『演奏家からみた武満徹』[音楽之友社](左)、『武満徹のピアノ音楽』[アルテスパブリッシング]
特別企画シリーズ「武満徹の音楽世界」! 作曲家・武満徹(1930~96)の没後30年を記念して、その音楽の魅力に迫ります。
今回の記事は2026年8月に行なわれた、音楽評論家・片山杜秀さんと音楽学・表象文化論を専門とする研究者・原塁さんのオンライン対談。武満の音楽は、いまどのように聴かれ、受け継がれているのでしょうか。《遮られない休息》や《SONGS》などの作品、そしてその演奏史や、社会との関わりについての対話を通して、その実像に迫ります。
★Part2はこちらから
【記事の目次】
・原塁の出会い:文化人類学と震災
・片山杜秀の出会い:映画『怪談』で死にかける!?
・《遮られない休息》の魅力
・「うた」と「瞬間的なジェスチャー」のあいだ(ここまでPart1)※このページ
・創作史の分岐点は1970年代?
・武満徹の「響き」
・演奏史のこれまでとこれから
・《SONGS》の魅力、そして音楽と社会の関係(ここまでPart2)
お話=片山杜秀(音楽評論家)& 原塁(研究者)
まとめ=編集部
原塁の出会い:文化人類学と震災
編集部 まず、おふたりがこれまで、どのように武満徹と関わってこられたのかをお聞きしたいです。まずは先日、書籍『演奏家からみた武満徹』を刊行された原さんからお願いします。
原 私は幼少期からピアノを習っていましたが、大学に進学してから、まず音楽学ではなくて、文化人類学を専攻しました。そこで、異文化間の出会いや相互変容について、色々な講義を受けたり、本を読んだりして勉強していました。そうするなかで、武満の《ノヴェンバー・ステップス》(1967。作曲年、以下同)に興味を抱いた瞬間があったんです。単純に東洋と西洋を融合するのではなく、両者を対峙させながら新しいものを生み出している点がすごく魅力的に感じられました。

音楽学・表象文化論を専門とする研究者。現在、多摩美術大学助手。1989年生まれ。宮城県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了(博士:人間・環境学)。研究活動と並行して、2021年より「スタイル&アイデア 作曲考」を運営し、作曲論の蒐集や聞き取り、演奏会の制作などにも取り組んでいる。著書に『武満徹のピアノ音楽』(アルテスパブリッシング)、『演奏家からみた武満徹 揺れる鏡にうつるもの』(音楽之友社)。
reserchmapはこちら
【音楽之友社の書籍】

『演奏家からみた武満徹 揺れる鏡にうつるもの』
原塁(著)
発行:2026年2月
ISBN:978-4-276-22692-0 C1073
音楽之友社
♪音楽之友社の商品ページはこちら
世界的な作曲家として、演奏会用の音楽から映画・放送用の音楽まで、様々なジャンルで傑出した作品を残した作曲家・武満徹(1930~96)。2026年の没後30年を機に刊行する、世界的に活躍する25名の音楽家へのインタビュー集。
武満作品の初演や録音を行った演奏家たちに、作曲家本人から伝えられたアドバイスなどをあらためて取材するとともに、氏の晩年や没後に活動を始めた演奏家にも作品との向き合い方や取り組み方を取材。これから武満作品に取り組む演奏家や聴衆へのメッセージも。
気鋭の研究者・原塁氏が、インタビュー・構成・執筆を手掛けた。武満徹の活動やその作品をめぐる12のコラムも読み応え充分。
本書のサブタイトル「揺れる鏡に映るもの」は、武満徹の作品《揺れる鏡の夜明け》から取られている。演奏家それぞれの武満徹像、そして武満作品の演奏に映し出される演奏家の個性や音楽観が、一人ひとりの言葉から立ち現れる。
原 もう一つ強く印象に残っているのが、東日本大震災の後に聴いた《弦楽のためのレクイエム》(1955~57)です。私は仙台市出身で、発災当時もそこにいました。その後、仙台フィルが追悼の意味を込めて《レクイエム》を演奏するのを聴いたんです。武満が20代の若い頃、病気で生死の境をさまよう状況の中で書いた作品ですが、当時の自分が置かれていた状況とも重なって、とても深い共感を覚えました。


1 武満徹:ノヴェンバー・ステップス
〔+ベートーヴェン:交響曲第2番,黛敏郎:曼荼羅交響曲*〕
藤原道山(尺八)友吉鶴心(琵琶)山田和樹指揮 読売日本交響楽団
〈録音:2024年2月,23年1月*〉
[デンオン(D)COCQ85660]CD
※2026年10月21日発売予定
*
2 武満徹/管弦楽曲集
〔オリオンとプレアデス,系図 ―若い人たちのための音楽詩―,弦楽のためのレクイエム,他〕
山田和樹指揮 日本フィルハーモニー交響楽団,他
〈録音:2015年1月~16年6月(以上L)〉
[エクストン(D)OVCL00644(2枚組)]SACDハイブリッド
いずれも、演奏・録音の両面で武満に力を入れる山田和樹の指揮による。書籍『演奏家からみた武満徹』の最終章には、山田へのインタビューも収録されている。
原 その後、武満を本格的に研究する道へ進みました。武満は音楽も文章も非常にたくさん残していますよね。実は、文化人類学から音楽研究に進むか、文学研究に進むかでとても悩んだ時期があったんですが、武満を扱えばどちらの欲求も満たせるぞ、と(笑)。大学院では楽曲分析を学ぶ傍ら、難解な哲学書を精読する訓練も積みましたが、私は音楽家の文章も哲学書や小説を読むのと同じような精度で読むということをもっとすべきだと思っています。ということで、武満の楽曲と文章、それから彼が生きた時代のコンテクストの三者を連関させながら読み解く博論を仕上げ、それをもとに『武満徹のピアノ音楽』(アルテスパブリッシング)という本を出したり、最近では演奏家の方々へのインタビューをまとめた本『演奏家からみた武満徹』(音楽之友社)を上梓したりして、現在に至ります。
編集部 これまで武満の音楽に接する際は、実演と録音では、どちらが多かったのでしょうか。
原 本格的に研究に取り組むようになってからは実演に接することも多くなりましたが、それ以前は録音が中心でした。特に印象に残っているディスクは、ちょっと変化球かもしれませんが、ジム・オルークが《ピアニストのためのコロナ》(1962)を演奏したディスクですね。《コロナ》はロジャー・ウッドワードや高橋アキさんなど、いろいろな方が演奏していますし、どれも素晴らしいんですが、オルーク盤は録音という手段を、とくに効果的に生かして、魅力的な電子音楽に仕上げているところがユニークだと思っています。

3 コロナ 東京リアリゼーション
ジム・オルーク(ハモンドオルガン,フェンダーローズ,他)
〈録音:2006年7月〉
[デンオン(D)COCB53573]CD ※現在取扱なし
実験音楽界の重要人物オルークが、武満の没後10年の節目に制作したアルバム。図形楽譜で記譜された原曲を、独自の解釈で再構築している。
片山杜秀の出会い:映画『怪談』で死にかける!?
編集部 片山さんは今年、館長をされている水戸芸術館での武満関連イベントでナビゲーターを務められますね。武満との出会いや、これまでのことについてぜひ伺いたいです。
片山 僕はもともとヴァイオリンを習っていて、クラシック音楽のことはある程度そこが入口だったんですが、日本の作曲家については、ほとんど映画やテレビから入っていったんです。小学校4年生から『キネマ旬報』を定期購読していましたし。映画少年というやつで。映画音楽も大好きでした。テレビで放送されている映画の音楽をカセットテープに録音したり、作曲家の名前をノートに書き留めたりして。
武満の名を印象付けられたのも最初は映画ですね。恩地日出夫監督の『伊豆の踊子』や中村登監督の『紀ノ川』など。それからテレビドラマ。大河ドラマ『源義経』のテーマ曲なんかレコードで好んで聴きました。演奏会用の作品を聴くのはそのあとですね。

音楽評論家、政治学者。慶應義塾大学法学部教授。1963年宮城県生まれ、東京都育ち。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。著書に『音盤考現学』『音盤博物誌』(アルテスパブリッシング)、『未完のファシズム』(新潮選書)、『大楽必易:わたくしの伊福部昭伝』など。2024年11月より水戸芸術館(ATM)の第3代館長。ことし2026年の「武満徹没後30年記念企画」ではナビゲーターを務める。
水戸芸術館公式ページの「ご挨拶」はこちら

武満徹の肖像
2026年9月26日(土)16:00開演
水戸芸術館コンサートホール ATM
出演:
波多野睦美(Ms)高木綾子(fl)成田達輝(vn)山澤慧(vc)北村朋幹(p)片山杜秀(ナビゲーター/水戸芸術館館長)
曲目:
《二つのレント》より〈アダージョ〉,《妖精の距離》,《遮られない休息》,《フォー・アウェイ》,《オリオン》,《エア》,《SONGS》より〈うたうだけ〉〈死んだ男の残したものは〉〈翼〉〈MI・YO・TA〉,《ビトゥイーン・タイズ》
※「秋庭歌一具」(10/4)公演とのセット券あり(枚数限定)
♪ATMの公演ページはこちら

伝統芸能のススメ[雅楽]今昔雅楽集 四、秋庭歌一具
2026年10月4日(日)16:00開演(15:45からプレトークあり)
水戸芸術館コンサートホール ATM
出演:
宮田まゆみ(音楽監督)伶楽舎,荒木奏美(ob)片山杜秀(ナビゲーター/水戸芸術館館長)
曲目:
管絃《太食調音取》《合歓塩》《嘉辰》《抜頭》,舞楽《右方 還城楽》,武満徹:ディスタンス,秋庭歌一具
※9/26「武満徹の肖像」公演とのセット券あり(枚数限定)
♪詳細はこちら
クラシック・レコード2025回顧|
プライヴェート・ベスト2025 その①伊熊よし子/片山杜秀/城所孝吉/小室敬幸
2026/1/19公開
2025年のあいだ(1月〜12月)に聴いた新譜について、総勢12名の「レコード芸術ONLINE」筆者の方々に、個人的に優秀と考える「推し盤」を5点ずつ挙げていただきました。
特別企画|
ゆるく長く、でも、ときには欲深く――新しい『レコード芸術』の船出によせて
2024/10/1公開
2024年10月にオープンした『レコード芸術ONLINE』に寄せた巻頭言です。
片山 武満の映画音楽に関するとりわけ深い想い出というのも本当に個人的なことですがありまして。1964年に製作された小林正樹監督の映画『怪談』。権利関係の都合で長年封印されていたのが、70年代の半ば、僕が小学校6年生でしたか、中学1年生でしたか、久しぶりにリバイバル上映されて、父親に日比谷の映画館に連れて行ってもらったんですよ。映画そのものも楽しみだったんですが、そのときはもう武満の音楽がかなりお目当てでした。
このコンテンツの続きは、有料会員限定です。
※メルマガ登録のみの方も、ご閲覧には有料会員登録が必要です。
【ログインして続きを読む】下記よりログインをお願いいたします。

