音楽評論家・舩木篤也氏の連載「プレルーディウム」。
プレルーディウム(Präludium)は、ドイツ語で「前奏曲」の意味。毎回あるディスク(音源)を端緒として、ときに音楽の枠を超えて自由に思索を巡らせる、毎月1日更新の注目連載です。
第9回は女優の若尾文子が登場。そして、若尾と同じ1933年に生まれた「新しい人」クラウディオ・アバドへと論が展開していきます。

クラウディオ・アバド~ザ・デッカ・イヤーズ
〔ベートーヴェン:交響曲第7番,同第8番,ブルックナー:交響曲第1番,プロコフィエフ:バレエ《道化師》組曲,他〕
クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団,ロンドン交響楽団,他
〈録音:1966~69年〉
[Decca(S)4785365(7枚組,海外盤)]廃盤
※iTunesやQobuzから配信音源を入手できる
新しい1933年生まれ

若尾文子映画祭
大映〈プログラムピクチャー〉の職人監督と
2025年4月27日(日)~6月14日(土)
ラピュタ阿佐ヶ谷
若尾の、大映の「職人監督」との仕事に着目した作品を、計26本上映。

若尾文子映画祭
Side A 2025年6月6日(金)~6月19日(木)
Side B 2025年6月20日(金)~7月3日(木)
角川シネマ有楽町
Side Aでは「明るく純粋な」、Side Bでは「濃厚な」若尾を堪能できる作品を、計36本上映。
5年間のブランクを経て、ついにまた「若尾文子映画祭」がやってきた。目下は東京・阿佐ヶ谷のミニシアターにて継続中で、これが終わらないうちに6月6日からは別シリーズが有楽町で始まる。上映作品は1952年のものから1968年のものまで、計62作。ファンとしてはぜんぶ観に行きたいところだが、まずは未見のものに絞り、ようやく4作を観たところである。
やはり、いまもって魅力的な女優だと思う。これについては、拙著『三月一一日のシューベルト 音楽批評の試み』(音楽之友社)に縷々書いたので繰りかえさないが、ひとつだけ付け加えるなら、彼女はその佇まいそのものが、何とはなしに気品を放っている。燦然と輝く、というのではない。なのに、遠景に小さく映っているときでさえ、別格の感がはっきりと伝わってくる。
そうして今回、強く感じたことがある。彼女のこの「何とはなしに他と違う気品」に、制作側が好んで「戦後社会の新しさ」を仮託しているようなのだ。
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