
特別企画シリーズ「《指環》初演150周年」! 1876年の《ニーベルングの指環》初演から150年を迎える2026年、ワーグナーの作品を深めます。
今回の記事は2026年6月に行なった、ピアニスト・藤田真央さんと、音楽学者で音楽評論家・広瀬大介さんのオンライン対談。異色の組み合わせと思われるかもしれませんが、実はワグネリアン(ワーグナー愛好家)という共通点があります。
おふたりのワグネリアン遍歴、バイロイト体験、そして藤田さんのピアノ演奏に、ワグネリアンとしての横顔が与えた影響……さまざまなお話が飛び出しました。Part1と2の二部構成でお届けします。
★Part2はこちらから
【記事の目次】
・私たちはいかにしてワグネリアンになったのか
・《トリスタンとイゾルデ》の魔力
・バイロイトで《パルジファル》を感じる
・ベルリン・ドイツ・オーパーの思い出(ここまでPart1)※このページ
・ピアノでワーグナーを演奏するということ
・《マイスタージンガー》のアンコール・ピース
・初期歌劇が気になる!
・ワグネリアンの世界へようこそ(ここまでPart2)
お話=藤田真央(ピアニスト)
& 広瀬大介(音楽学・音楽評論)
まとめ=編集部
協力=ジャパン・アーツ
私たちはいかにしてワグネリアンになったのか
編集部 まず、「私たちはいかにしてワグネリアンになったのか」というテーマから始めたいと思います。藤田さんは、どのようにワーグナーに惹かれるようになったのでしょうか。
藤田 学生時代にベルリンで、たくさんのワーグナー作品を観るようになって、自然と惹き込まれていきました。特に印象に残っているのは、聖金曜日にベルリン国立歌劇場で《パルジファル》を観た体験です。その日、買い物に出かけたらスーパーが閉まっていて、調べてみると、今日は聖金曜日と出てきた。当時の私は、キリスト教の祝祭日についてほとんど知識がありませんでした。ふと劇場へ行くと、《パルジファル》が上演されていたんです。その時に初めて、ワーグナー作品が宗教や歴史、文化と深く結びついていると実感しました。
藤田真央。2025年8月、バイロイト祝祭劇場にて
(1枚目の画像。藤田さんの公式Instagramより)
ピアニスト。1998年生まれ。第27回クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールでの優勝、第16回チャイコフスキー国際コンクールの第2位入賞で一躍脚光を浴び、ソロ・リサイタルだけでなく世界各地のオーケストラとの共演や音楽祭への出演を重ねている。そして、ワグネリアンを公言する。
CDアルバムに『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番,ピアノ・ソナタ第1番,同第2番,他』(2026年11月28日発売予定)、『72 Preludes』、『モーツァルト/ピアノ・ソナタ全集』[以上、ソニー・クラシカル]など。
また今後の日本公演に「ヴェルビエ祝祭室内管弦楽団 日本ツアー」(2026年10月)、「藤田真央ピアノ・リサイタル」(27年1月)など。
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1 ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番,ピアノ・ソナタ第1番,同第2番,他
藤田真央(p)アンドリス・ネルソンス指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
〈録音(一部予定):2026年5月,8月~9月(一部L)〉
[ソニー・クラシカル(D)SICC30942(2枚組)]CD ※ブックレット付きの初回限定盤
[ソニー・クラシカル(D)SICC30945(2枚組)]CD
※2026年11月28日発売予定
2 72 Preludes
〔ショパン:24の前奏曲,スクリャービン:24の前奏曲,矢代秋雄:24の前奏曲〕
藤田真央(p)
〈録音:2023年12月,24年4月〉
[ソニー・クラシカル(D)SICC30894]CD
*


3 モーツァルト/ピアノ・ソナタ全集
藤田真央(p)
〈録音:2021年8月~11月〉
[ソニー・クラシカル(D)SICC30603(5枚組)]CD ※BD付きの完全生産限定盤
4 ワーグナー=リスト:歌劇《タンホイザー序曲》
〔+ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番《月光》,プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第6番〕
藤田真央(p)
〈録音:2014年9月〉
[ナクソス(D)NYCC27296]CD

・藤田真央ピアノ・リサイタル
2027年1月7日(木)19:00開演 福岡シンフォニーホール(第1夜)
2027年1月8日(金)19:00開演 福岡シンフォニーホール(第2夜)
2027年1月13日(水)19:00開演 サントリーホール(第1夜)
2027年1月14日(木)19:00開演 サントリーホール(第2夜)
福岡・東京の二都市にて、それぞれ二夜連続で行なわれる藤田のソロ・リサイタル。詳細は8月に発表予定とのこと。ジャパン・アーツのお知らせ記事はこちらから。
*
・ヴェルビエ祝祭室内管弦楽団 日本ツアー
2026年10月12日(月)14:00開演 フェニーチェ堺
2026年10月13日(火)19:00開演 福岡シンフォニーホール
2026年10月14日(水)19:00開演 サントリーホール
2026年10月16日(金)15:00開演 栃木県総合文化センター・メインホール
2026年10月17日(土)15:00開演 香川県県民ホール・レクザムホール
2026年10月18日(日)14:00開演 愛知県芸術劇場コンサートホール
30歳未満のメンバーで構成されるヴェルビエ祝祭室内管、そのアジア・ツアーの一環で指揮はタカーチ=ナジ。この日本ツアーでは、藤田は協奏曲のソリストを務める予定だ。
藤田 その後、幸運にもバイロイトの祝祭劇場を訪れる機会が何度かありました。初めてバイロイト中央駅に降り立った時のことは、今でもよく覚えています。アイコニックという言葉だけでは表現できない、不思議な空気があるんです。祝祭劇場へ向かって丘を上がっていくうちに、自分自身も少しずつワーグナーの世界へ入っていくような感覚がありました。
広瀬 あの中央駅のプラットホームから祝祭劇場が見えるじゃないですか。あの瞬間、「ああ、ついにこの地へ来てしまったな」って思いません?
藤田 あの建物が見えた瞬間に、もう気持ちを全部持っていかれてしまうというか、他のことが考えられなくなるような感覚がありましたね。
広瀬 私の場合は、高校生くらいの頃に少しずつオペラを聴き始めたのがきっかけでした。そこで出会ったのがワーグナーの《ワルキューレ》です。最初はご多分に漏れず第3幕の前奏曲、すなわち〈ワルキューレの騎行〉しか知らなかったんですが、全曲を聴いてみたらあの先に、とんでもなく面白い音楽が延々と続いている。「何だこれは!」と思って、さらに調べてみると《ワルキューレ》だけではなくて、《ラインの黄金》や《ジークフリート》、《神々の黄昏》とつながっていて、《ニーベルングの指環》という巨大な世界を形成している……高校生には理解を超える広大な世界が拡がっていて、完全にはまってしまいましたね。

広瀬大介(写真:ただ(ゆかい))
音楽学者・音楽評論家。1973年生まれ。青山学院大学教授。日本リヒャルト・シュトラウス協会常務理事・事務局長。各種音楽媒体などへの寄稿のほか、曲目解説・ライナーノーツの執筆、オペラ公演・映像の字幕対訳を多数手がける。そして、ワグネリアンとしての顔を持つ。
著書に『名局と名曲のあいだ 将棋と音楽の芸術性をめぐって』[アルテスパブリッシング]『知っておきたい!近代ヨーロッパ史とクラシック音楽』[音楽之友社]、『もっときわめる! 1曲1冊シリーズ3 ワーグナー:《トリスタンとイゾルデ》』[同]など。
広瀬 今振り返ると、あの時に人生のレールを少し、いやかなり踏み外した気もします(笑)。大学時代もずっとワーグナーを聴いていました。ちょうど1990年代で、《指環》の新録音が次々に登場していました。ハイティンクやレヴァインの全曲新録音が話題になっていた時代ですね。ワーグナー好きとしては本当に幸せな学生時代だったと思います。
《トリスタンとイゾルデ》の魔力
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