
特別企画シリーズ「ブラームス 4つの交響曲」! 1876年11月4日の交響曲第1番初演から150年を迎えることを記念して、その交響曲群を深めます。
今回の記事はコロナ禍以降の演奏様式について。2020年2月のコンサートで、クラシック音楽界に衝撃を与えた久石譲とフューチャー・オーケストラ・クラシックスによる「快速ブラームス」を端緒に、作曲家像の再定義も行ないながら、第1番の初演150年を間近に控えるブラームス演奏のいまを考えていきます。小室敬幸さんの執筆です。
文=小室敬幸(音楽ライター)
久石譲によるブラームス「交響曲第1番」が問いかける問題

「アフターコロナのブラームス交響曲」というお題を依頼され、真っ先に思い出したのは久石譲/フューチャー・オーケストラ・クラシックスによる交響曲第1番[エクストン]だ。リリースは2020年7月だが、録音自体は活動自粛が広がる直前の2020年2月に行なわれている。ベートーヴェンの交響曲全集のような快速路線がブラームスでも貫かれており、なんと全4楽章を約39分40秒で演奏し終えているのだ(ちなみに2月13日の演奏は久石譲のオフィシャルYouTubeチャンネルで映像付きで公開されている。なお全集[エクストン]には別のレコーディングが収録されており、第2番を2021年、第3〜4番を2022年にライヴ録音した後、改めてセッションを組んで2023年に第1番が再録音された)。
40分を切る録音自体は過去にも存在していた。ただし、それらは第1楽章 提示部の反復を省略しており、実際に聴いてみると冒頭の序奏から壮大さが強調されるような遅めのテンポがとられている。
久石の快速ブラームスが単なる変わり種と切り捨てることが出来ないのは、指揮者ハンス・フォン・ビューローはブラームスの許可を得て第1楽章 提示部の繰り返しを省力し、交響曲第1番を37分ほどで演奏したという記録が残っているからだ(Musgrave, Michael. “Historical Performance.” In Brahms in Context, edited by Natasha Loges and Katy Hamilton, 367–375. Cambridge: Cambridge University Press, 2019.)。
久石の録音では第1楽章 提示部が1周で約2分40秒なので、反復しなければまさに約37分となる。もちろん、合計時間が同じだけでテンポ感が同じとはいえないわけだが、このぐらい速いテンポを設定しないとビューローの演奏時間に近づくことが出来ないのもまた事実だろう。
「ベートーヴェンの交響曲第10番」という誤解
このコンテンツの続きは、有料会員限定です。
※メルマガ登録のみの方も、ご閲覧には有料会員登録が必要です。
【ログインして続きを読む】下記よりログインをお願いいたします。
