柴田南雄『名演奏のディスコロジー』 #10

名演奏のディスコロジー 第10回 ヒンデミットの《金管とピアノのためのソナタ集》

復刻!柴田南雄の名連載レコ芸アーカイブ
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グレン・グールドとフィラデルフィア管の金管首席奏者たちによる
『ヒンデミット/金管とピアノのためのソナタ全集』[ソニー・クラシカル]ジャケット

柴田南雄の連載、「名演奏のディスコロジー」の再掲載10回目です。
『レコード芸術』1976年1月号から77年12月号まで、計22回続いた本連載の第10回は、グレン・グールドとフィラデルフィア管の金管首席奏者たちが取り組んだ、パウル・ヒンデミット(1895~1963)作曲の、金管楽器のためのソナタ・アルバムを深めます。ヒンデミットの評価を大きく高めたこの名盤を、柴田はどのように聴いたのでしょうか?

※再掲載にあたり「メーソン・ジョーンズ」を「メイソン・ジョーンズ」に変更するなど、一部に変更を加えています。
※そのほかの文中の記述・事実関係などはオリジナルのまま再録しています。
※文中レコード番号・表記・事実関係などは連載当時のまま再録しています。

この『ヒンデミット——金管とピアノのためのソナタ集、全5曲』(グレン・グールドとフィラデルフィア金管合奏団のメンバー)(CBS・ソニー 50AC43~4)を聞いてみよう、と思い立った理由を、まずあげておこう。

一、グレン・グールドが以前に録音したヒンデミットのピアノ・ソナタ(3曲)がひじょうによかった(CBS・ソニー SOCO68)。そこでは、グールドはバッハやモーツァルトでのように創造的な演奏解釈を主張するのでなしに、作品の意図に沿った再創造を行なっている。しかも彼の感覚と技巧が曲を大いに引き立てていた。今度はどうだろうか?

二、フィラデルフィアの金管の人たちの腕前はじゅうぶん信頼できる。LP初期にあった、オーマンディ指揮、フィラデルフィア・オーケストラのヒンデミットの《弦と金管の演奏会用音楽》(作品50)でのブラス・アンサンブルはじつに水際立ったものだった(コロムビア WL5155)。

三、ヒンデミットの、あらゆるオーケストラ楽器とピアノのためのソナタは、1935年のヴァイオリン・ソナタから1955年のテューバ・ソナタ(このアルバムに収録されている)まで、21年間にわたっているが、後にも記すように、ヒンデミットがアメリカの音楽生活ともっとも密接に結ばれていた時期の所産である。もはや《マティス》以前の緻密な構成や精神的な高揚はないが、解放的な演奏の楽しみを目指す高度な職人芸という点では第一級の音楽だ。これをドイツ人じゃなしに、アメリカやカナダの腕達者な楽人によって鳴り響かせる、というのはたとえこの人たちでなくとも、名手である限りいちばんふさわしいことだと思う。あえて言うなら、ナチに追われて以後のヒンデミットの音楽は非ドイツ的たらんと努力しているようにさえ、わたくしには思える。

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