ファビオ・ルイージとNHK交響楽団の新アルバム
『マーラー:交響曲第5番』が示す「新たな様式」
そして正統派演奏の現在地点

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SICC19098

文=内藤眞帆 (音楽学)

大きな転換点としての第5番

1897年から10年にわたってウィーン宮廷歌劇場の劇場監督を務めたグスタフ・マーラー(1860~1911)は、1901年から02年の夏にかけて、オーストリア南部のヴェルター湖畔、マイヤーニックで交響曲第5番を書きあげた。当初は4楽章の構想であったが、1901年12月にアルマ・シントラーと婚約したことで全5楽章の交響曲へと発展する。アルマの手助けもあり、浄書総譜は1903年初頭に完成。マーラーはこの作品でもって初期交響曲には見られない管弦楽法の輝きや対位法的書法による「全く新たな様式」を確立し、その後の交響曲創作に新たな段階を切りひらいた。またこの交響曲を境に、マーラーは標題の存在を親しい間柄の人物に示唆するにとどめるようになり、その点でも本作は彼の作品群の中で大きな転換点をなしている。

マーラーの「新たな様式」に磨きをかける名ライヴ

首席指揮者ファビオ・ルイージとNHK交響楽団による本録音は、全体としてこの「新たな様式」を丁寧に彫琢したものだ。随所に張り巡らされた対位法の綾を克明に抉り出す手腕には、思わず唸らされる。冒頭の2つの楽章では端正な運びが保たれつつも、ポルタメントをはじめとする奏法が過度に前景化することなく織り込まれ、マーラー自身の演奏実践や同時代の様式感覚を思わせるニュアンスとして機能している。第2楽章には、マーラーが1901年からバッハを集中的に研究していたことを反映するようにコラールが導入されているが、金管楽器がその音色の輝きでもって説得力あるかたちで頂点を築く。一方で、牧歌的なオブリガート・ホルンが彩る第3楽章における舞踏のリズムの妙、そしてひたすら美しく磨き抜かれた第4楽章「アダージェット」からは、世紀末ウィーンの耽美な空気が匂い立つ。フィナーレでは、前半から一貫して保たれてきた造形の明晰さが、終結部の厚みを増した響きへと収斂し、第2楽章以来のコラール的な身振りは大きなアーチとして回収される。その構築性と響きの充実が結びついた、堂々たる終結である。

本盤は、今年4月にサントリーホールで行われた公演の記録であり、ホールの豊かな残響と当夜の熱気を余すところなく伝えている。昨年、アムステルダムで開催された歴史ある「マーラー・フェスティバル」でも交響曲第3番と第4番を披露した両者によるこの録音は、ウィーンの音楽伝統と現代的に洗練された正統派の演奏実践が見事に結実した一枚といえるだろう。

マーラー:交響曲第5番

ファビオ・ルイージ指揮 NHK交響楽団
〈録音:2026年4月(L)〉
[ソニー・クラシカル(D)SICC19098]SACDハイブリッド

【公式商品ページ】

ファビオ・ルイージ×NHK交響楽団 今後の演奏会予定(一部)

N響100年記念 特別演奏会 マーラー「復活」
2026年10月3日(土) 18:00開演 NHKホール(東京) 【詳細はこちら
2026年10月4日(日) 14:00開演 NHKホール(東京) 【詳細はこちら

曲目:
マーラー:交響曲第2番《復活》

出演:
ファビオ・ルイージ指揮 NHK交響楽団,イン・ファン(S)タマラ・マムフォード(Ms)新国立劇場合唱団(合唱指揮 : 冨平恭平)

協力:ソニーミュージック・レーベルズ

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