名演奏家再批評 File08

名盤の外側でたどるシャルル・ミュンシュ①

連載名演奏家再批評
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名演奏家再批評_File08_ミュンシュ_ver.2

 金曜連載「名演奏家再批評」。このコーナーは、新世代の書き手がクラシック音楽の名演奏家を各4回のリレー形式で論じるものです。
 第8弾では、20世紀以降のフランス音楽や音楽放送を主な関心対象とする平野貴俊さんが、いわゆる「名盤」の外側にある注目すべき逸話や録音を通して、シャルル・ミュンシュの姿を浮かび上がらせていきます。全4回のうち、1回目は無料公開、2回目以降は有料公開です。

■Editor’s Note
シャルル・ミュンシュ Charles Munch(1891~1968)は20世紀を代表する指揮者の一人。フランスとドイツの境界に位置するストラスブールに生まれ、ヴァイオリニストから指揮者へ転向。パリ音楽院管、ボストン響、そして創設に関わったパリ管を率い、それぞれの発展に貢献した。情熱的で躍動感あふれる演奏を特徴とし、その録音は現在も多くの音楽ファンを魅了し続けている。

Text=平野貴俊

ドイツからフランスへ:指揮者の誕生

————–ここまで無料公開————–

 「爆演」とも評される豪放(ごうほう)磊落(らいらく)な音楽作りで名高い20世紀の名指揮者のひとり、シャルル・ミュンシュ。その名からまず連想されるのは、ベルリオーズの《幻想交響曲》、ブラームス《交響曲第1番》といった名録音の数々だろう。本連載では、そうした歴史的名盤の存在感の影に隠れがちなさまざまなエピソード、また近年入手可能となったライヴ録音の音源も紹介しながら、その生涯を4回にわたって追ってゆく。

 ドイツ領だったストラスブールで、父が同地の有名な教会オルガニスト・合唱指揮者であったミュンシュは、10代半ばで同市立管弦楽団(現ストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団)のヴァイオリン奏者となり、第1次世界大戦への従軍を経て、同楽団のコンサートマスターとなった(兄フリッツは指揮者となり、後に同楽団音楽監督を務めた)。パリ音楽院ではリュシアン・カペーにヴァイオリンを師事。その後、フルトヴェングラー、ついでワルターがカペルマイスターを務めたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の第2コンサートマスターとして6年間在籍(同時期には首席オーボエ奏者としてルドルフ・ケンペも在籍していた)。1931年、聖トーマス教会のカントル、カール・シュトラウベが足首を捻挫し、バッハゆかりの同教会の礼拝での指揮を委ねられたのが、初めての指揮の経験だった。パリに移り指揮者としてデビューしたミュンシュは、コルトーの提唱で新設されたパリ・フィルハーモニー管弦楽団を3年間指揮し、由緒あるパリ音楽院演奏協会管弦楽団の指揮者となった(38~48、後任はクリュイタンス)。

1 ワーナー録音全集
〔ドビュッシー:交響詩《海》,ラヴェル《左手のためのピアノ協奏曲》,他〕

ジャック・フェヴリエ(p)シャルル・ミュンシュ指揮パリ音楽院(演奏協会)管弦楽団,他多数
〈録音:1942年3月,10月,他〉
[Warner Classics(M/S)9029561198(13枚組,海外盤)]CD

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2 ロパルツ:交響曲第5番

シャルル・ミュンシュ指揮フランス国立管弦楽団
〈録音:1946年〉
[XXI Music]配信

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 第2次世界大戦中、第1次大戦ではみずから従軍していたドイツ軍が占領するパリでは、フランス人としての矜持を貫いたようで、対独協力に与しなかったと戦後主張しているが、傀儡政権であるヴィシー政権下で音楽関係の委員に名を連ねていたことも確かである。ラヴェル《左手のためのピアノ協奏曲》で独奏を務めるジャック・フェヴリエとは、その5年前、最晩年の作曲家本人の前でこの曲を披露している。1943年にはオペラ座で、フランス国立管を含む国営放送の3つのオーケストラを率い、総勢613人からなる大所帯でベルリオーズの《レクイエム》を指揮している。当時ブラームスに馴染みの薄かったパリの聴衆に、その音楽の魅力を知らしめたことも特筆される。44年8月のパリ解放では、ミュンシュも路上に出て快哉を叫んだと伝えられている。後にみるように、同時代の作品も積極的に手がけた彼は、パリにユネスコ本部が設置されたことを記念する46年の国立管との演奏会で、恩人であるロパルツの《交響曲第5番》(ミュンシュはかつて、プフィッツナーの後任としてストラスブール音楽院院長を務めたロパルツの引き立てで、同地のオケのコンサートマスターに就任していた)をプログラムに入れた。こんこんと湧く水を思わせる血の通った音楽に、ミュンシュの至芸が早くも表れている。次回は、ミュンシュの音楽上の最良のパートナーであったボストン交響楽団との関係を取り上げる。

名盤の外側でたどるシャルル・ミュンシュ②に続きます。2026年8月14日公開予定です)

平野貴俊|Takatoshi Hirano

1987 年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科、同大学院音楽研究科修士課程および博士後期課程修了。博士(音楽学)。20世紀後半のフランス国営放送による音楽活動に関する研究で博士号を取得後、20世紀以降のフランス音楽、音楽放送を主領域として研究、執筆、翻訳、評論等を行う。校訂版楽譜に『リリ・ブーランジェ ピアノ曲集』(カワイ出版)、『ラヴェル ピアノ作品集〔標準版ピアノ楽譜〕』(音楽之友社、校訂協力)、共編著書に『上海フランス租界への招待:日仏中三か国の文化交流』(勉誠社)、訳書にジャン・ボワヴァン『オリヴィエ・メシアンの教室』(アルテスパブリッシング)、ロジャー・ニコルズ『ラヴェル——海賊と時計職人』(音楽之友社、共訳)、クリスチャン・メルラン『ピエール・ブーレーズ』(アルテスパブリッシング、刊行予定)。東京藝術大学大学院、明治学院大学非常勤講師。日仏現代音楽協会理事。

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