名演奏家再批評 File06

使用楽譜からみるメンゲルベルク①

連載名演奏家再批評
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名演奏家再批評_メンゲルベルク

 金曜連載「名演奏家再批評」。このコーナーは、新世代の書き手がクラシック音楽の名演奏家を各4回のリレー形式で論じるものです。
 第6弾では、19世紀後半から20世紀前半の指揮者を関心対象とする音楽学者・内藤眞帆さんが、ウィレム・メンゲルベルクについて、使用楽譜をもとに再批評していきます。全4回のうち、1回目は無料公開、2回目以降は有料公開です。

■Editor’s Note
ウィレム・メンゲルベルク Willem Mengelberg(1871~1951)はコンセルトヘボウ管を約50年率いたオランダの国民的指揮者。数多の同曲異演を
聴くことができる現代においては、いわゆる「往年の巨匠」のなかでも解釈のユニークさが取り沙汰されがちな存在である。一方で、ベートーヴェンの正統な継承者としての自負を持ち、グスタフ・マーラーとは直接親交を結び、信望を得ていた事実も見逃せない。

Text=内藤眞帆

楽譜が語るもの:音盤を超えたメンゲルベルク像

————–ここまで無料公開————–

 20世紀において、管弦楽作品の解釈に大きな変化が生じたターニングポイントはいくつかあるが、その最たる一つを1945年に置くことができるだろう。第二次世界大戦の終結に加え、1936年の磁気テープの発明と戦時下における技術的発展、また1948年のLPレコード発売開始によって、音楽表現を記録・再現する可能性が大きく広がった。磁気テープの登場は録音後の演奏編集を可能にし、LPレコードは長時間の録音・連続聴取を容易にした。それらに伴う録音量の爆発的な増加と流通の拡大は、人々の耳を様々な演奏へと開きより多くの作品が聴取されるようになると同時に、演奏様式への少なからぬ影響をもたらすこととなる。

1 The Voice Of Frank Sinatra

フランク・シナトラ(vo)他
〈録音:1945年7月,12月〉
[Columbia(M)CL6001(海外盤)]LP

2 メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64

ナタン・ミルシテイン(vn)ブルーノ・ワルター指揮ニューヨークpo
〈録音:1945年5月〉
[Columbia(M)ML4001(海外盤)]LP

「1」は直径が10インチ、「2」は12インチの規格で、世界で初めて市販用にプレスされたLP(Long Play)レコード。1948年6月、コロンビア・レコードはこれら2点を同時に発表した。

 ウィレム・メンゲルベルク(1871~1951)は、まさにこうしたメディアの過渡期、そして様式のパラダイムシフトが起こる直前に全盛期を迎えていた指揮者の一人である。1895年からアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者を50年にわたって務め、現在の同楽団の確固たる基礎を築いた功績はよく知られている。しかし、彼の膨大な演奏量や一時代を画した名声にもかかわらず、同時代に活躍したフルトヴェングラーやトスカニーニ、ワルターと比して、残されている録音資料は決して多くない。その背景には、戦中にナチス・ドイツの文化評議会に加わったことを理由に戦犯として扱われ、戦後の音楽界から事実上の追放を余儀なくされたという政治的悲劇が存在する。

 だが、音盤という遺産が限定的だからといって、彼の芸術の全貌を見誤るべきではない。幸いなことに、メンゲルベルクが実際に指揮台で用いた膨大な量の総譜が現存している。そこに見られる緻密かつ数多の書き込みは、録音が残されていない作品に対する彼の解釈を現代に伝えるだけでなく、既存の録音資料の裏付けとしても我々に新たな示唆を与えてくれるはずだ。

メンゲルベルクの使用楽譜の所蔵先
Nederlands Muziek Instituut(オランダ音楽研究所のページ)

 そこで本連載では、音源のみならずこれらの貴重な楽譜資料の分析も交えながら、ロマン主義的演奏の極致とも評されるメンゲルベルクの作品アプローチについて、多角的に論じていきたい。

使用楽譜からみるメンゲルベルク②に続きます。2026年6月12日に公開予定です)

内藤眞帆|Maho Naito

桐朋学園大学、東京藝術大学大学院、ボン大学大学院を経て、現在京都大学特定研究員およびベルリン芸術大学客員研究員。2020年にグスタフ・マーラー研究センター(インスブルック/トープラッハ)の「博士課程・若手研究者フォーラム」を立ち上げ、現在までその運営委員を務めている。趣味は音楽家のお墓参り、登山、スキー。

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