ここでは、最近発売されたリイシュー&BOX盤のなかから注目盤を厳選して紹介します。
ショスタコーヴィチ「5番」「11番」の忘れがたい名録音が続々SACDハイブリッド化
昨年2025年が没後50年のアニバーサリーということで「レコード芸術ONLINE」でもいくつかの特別記事を展開し、個人的にもかなりの数のショスタコーヴィチ作品を聴き返したように思うが、年をまたいでも、まだまだ隠れ名盤、忘れがたい名演奏「再評価」が続きそう。今回は1958年と60年の二つの重要な録音が、最新リマスターのSACDハイブリッドとして登場、いずれも耳からウロコの「再発見」となった。名匠クリュイタンス=フランス国立放送管の《1905年》は作曲者肝煎りの「歴史的」録音で、その存在の知名度のわりにあまり顧みられてこなかった印象があるので、今回のリリースは快挙。超個性派指揮者シルヴェストリの「5番」は、なんといってもオケがウィーン・フィルで、1960年というこの楽団の独自色が最も輝いていた頃の録音というのが何物にも代え難い。前者は過去モノラル版でも何度かリリースされていて、音質ゆえに敬遠されてきたような面もあったが、今回の音質向上で一気に同曲のスタンダードな名盤に鎮座するようになるのでは。 (Y.F.)

ショスタコーヴィチ:交響曲第11番《1905年》
アンドレ・クリュイタンス指揮フランス国立放送o
〈録音:1958年5月〉
[ワーナー・クラシックス-タワーレコード(S)TDSA328]SACDハイブリッド ※タワーレコード限定

ショスタコーヴィチ:交響曲第5番,プロコフィエフ:組曲《三つのオレンジへの恋》,ハチャトゥリアン:組曲《ガイーヌ》第1番
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮ウィーンpo
〈録音:1960年2月,12月〉
[ワーナー・クラシックス-タワーレコード(S)TDSA329]SACDハイブリッド ※タワーレコード限定
「デッカ・ピュア・アナログ」始動!
ドイツ・グラモフォンの「ザ・オリジナル・ソース」シリーズを手掛けるエミール・ベルリナー・スタジオによる、100%アナログ・リマスター&カッティングの新シリーズ「デッカ・ピュア・アナログ」が始動した。
第1弾3タイトルのうち、『ウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサート1979』は、ボスコフスキー指揮による最後のニューイヤーであり、デッカ初のデジタル録音としても知られる名盤である。ところが今回登場したのは、当時別に収録されていた1/4インチ2トラックのアナログ・セーフティ・マスターを用いた、完全初出となる音源だ。初期のデジタル録音では「念のため」アナログでバックアップを残すことがあり、グールドの《ゴルトベルク変奏曲》(1981)も同様の理由でアナログ・マスターが存在し、のちに商品化された。初期デジタル録音は、今日の耳で聴くとS/Nの良さと引き換えに高域のきつさや音像の線の細さが気になることもある。1979年はまさにアナログ録音技術の完熟期にあたり、アナログ・サウンドでこの演奏を聴ける喜びは格別である。
第1弾にはこのほか、ショルティ指揮《春の祭典》(45回転盤初出!)、コリン・デイヴィス指揮《シベリウス交響曲第5番・第7番ほか》(4トラック・クアドラフォニック・マスターからのリミックス!)も含まれる。シリーズの今後の展開に大いに期待を抱かせる、充実したラインナップだ。(M.K.)

ウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサート1979
ヴィリー・ボスコフスキー指揮ウィーンpo
〈録音:1979年1月(L)〉
[Decca(S)4871497]2枚組,海外盤LP
コンセルトヘボウ&LSOから「マーラーの音色」を120%引き出したショルティの快演
先月当欄でご紹介した、ショルティのシカゴ響との全集完結以前のマーラー交響曲シリーズ、今月はその後篇、第4番(コンセルトヘボウ管)と第9番(ロンドン響)が登場。個人的には、両曲とも1980年代のシカゴ響との再録音盤よりも断然ずっと愛聴してきた秀演であり、最新リマスターによる世界初SACD化とのことで、特に前者ではコンセルトヘボウ管のホルンやオーボエの独特の音色が鮮明に蘇っており、二度見ならぬ二度聴きしてしまった。もちろん9番の方も、後年(1982年)のよく練られた演奏よりも、ひたむきで推進力もあって、爽快な演奏の良さが、高音質で見事に再生した感じ。フィルアップの《不思議な角笛》4曲も、イヴォンヌ・ミントンの名唱と共に聴き応え充分。歌手ではもう一人、4番4楽章のソロ、スタールマン(1960年録音のショルティ指揮《仮面舞踏会》のチャーミングなオスカル役!)が、これまた隠れた名唱で、ソプラノ歌手にとっては実は難曲ともいえる(マティスやアメリングのような名手たちも苦労している)「天上の喜び」を自然に伸び伸びと歌っているのが心地よい。 (Y.F.)

マーラー:交響曲第4番,同第9番*,歌曲集《少年の不思議な角笛》**~浮世の生活,無駄な骨折り,トランペットが美しく鳴り響く所,ラインの伝説
ゲオルク・ショルティ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウo,ロンドンso*,シカゴso**,シルヴィア・スタールマン(S)イヴォンヌ・ミントン(Ms)**
〈録音:1961年2月*,1967年4月~5月,1970年4月**〉
[デッカ-タワーレコード(S)PROC2479~80(2枚組)]SACDハイブリッド ※タワーレコード限定
ジュリーニ×シカゴ響×ラヴェルの化学反応
あれ?シカゴ響ってこんなにいい音してたっけ?なんて言っちゃぁ失礼だが、いきなり《展覧会の絵》冒頭のナイーヴで澄んだ響きから、このマッチョな(これも失礼かな?)オーケストラへの先入観が覆された。それはまさしく今回のリマスタリング(&世界初SACD化)の成果なんだろうが、ジュリーニがシカゴ響から繊細この上ない音を、ラヴェルが練り上げた音の綾を、最大限に引き出し得たことがそれによって改めて明らかになった、とでも言おうか。思えばシカゴ響は、例えばフィラデルフィア管やボストン響と比べてみても、指揮者によって大いに「化学変化」が起こるオーケストラなのかも。マルティノンはもちろん、レヴァイン、バレンボイム……それぞれのシカゴ響との録音はちょっと同じオケとは思えない。そのバレンボイムが振ったヴォーン・ウィリアムズ《テューバ協奏曲》が収録されているのも、同オケ異演(?)聴き比べの好材料となって楽しめた。 (Y.F.)

ムソルグスキー=ラヴェル:組曲《展覧会の絵》,プロコフィエフ:交響曲第1番《古典》,ヴォーン・ウィリアムズ:バス・テューバ協奏曲*
カルロ・マリア・ジュリーニ,ダニエル・バレンボイム*指揮シカゴso,アーノルド・ジェイコブズ(tub)
〈録音:1976年4月,1977年3月*〉
[DG-タワーレコード(S)PROC2476]SACDハイブリッド ※タワーレコード限定
ブロムシュテット、1回目のニールセン交響曲全集が初SACD化
ブロムシュテットがデンマーク国立交響楽団(当時)首席指揮者時代に録音したニールセンの交響曲全集に、管弦楽作品と協奏曲を加えたハイブリッドSACDが登場した。ブロムシュテットは1980年代にもデッカでサンフランシスコ響と交響曲全集を再録音しており、さらに90歳を超えてからもウィーン・フィルやN響で《交響曲第5番》を指揮するなど、ニールセンへの傾倒は生涯を通じて揺るがない。そもそもニールセンの交響曲全集を二度も完成させた指揮者というのは稀有ではないだろうか。今回のセットに収められた最初の全集録音は、長らく全曲まとめての形では入手しにくく、廉価盤での分売が続いていただけに、新規リマスタリングによって高音質化され、改めて一括してフィーチャーされた意義は大きい。加えてCD2枚分が管弦楽作品と協奏曲に充てられており、このセット一つでニールセンの主要オーケストラ作品を広く俯瞰できる点でも、きわめて貴重なリリースと言える。(M.K.)

ニールセン/交響曲,序曲,協奏曲集
〔交響曲第1番~第6番,交響的狂詩曲,《ヘリオス》序曲,ヴァイオリン協奏曲,クラリネット協奏曲,フルート協奏曲,他〕
ヘルベルト・ブロムシュテット指揮デンマーク国立o,アルヴェ・テレフセン(vn)シェル=インゲ・ステヴェンソン(cl)フランツ・レムザー(fl)
〈録音:1973~75年〉
[Warner Classics(S)2173295777(5枚組,海外盤)]SACDハイブリッド
※日本語解説付き
亡命の前から後にかけてのロストロポーヴィチ
ロシアに生まれた「平和の闘士」ロストロポーヴィチの独奏によるチェロ協奏曲の3つの盤を1つにまとめ、リマスタリングを施したもの。いずれもダイナミックな堂々たる名演であると同時に、社会背景に心を寄せたい録音群でもある。2種類の《ロココの主題による変奏曲》が収録されている。片方は1960年9月のロジェヴェン=レニングラード・フィルで、もう片方は68年9月のカラヤン=ベルリン・フィル。どちらも西側でのテイクだけれど、オケは鉄のカーテンの此岸・彼岸という違いがある。後者に併録されていたドヴォルザーク《チェロ協奏曲》が録られたのは、68年8月に発生したチェコ事件の直後のことだ。ソ連が民主化運動(プラハの春)を軍事鎮圧した事態を、彼はいかに見つめ、このチェコを代表する名曲を演っただろうか。彼は74年5月に合衆国へ亡命する。小澤=ボストン響によるショスタコーヴィチ《チェロ協奏曲第2番》は、その約1年後に録音されている。(H.H.)

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲,シューマン:チェロ協奏曲,他(2025年リマスター)
〔ドヴォルザーク:チェロ協奏曲,チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲(1960年,68年録音),シューマン:チェロ協奏曲,グラズノフ:吟遊詩人の歌,ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第2番〕
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(vc)ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリンpo,ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮レニングラードpo、小澤征爾指揮ボストンso
〈録音:1960年9月,68年9月,75年8月〉
[グラモフォン – タワーレコード(S)PROC2477(2枚組)]SACDハイブリッド ※タワーレコード限定
闘う作曲家? エリック・サティの音世界
2025年は作曲家サティの没後100年だった。その暮れ、この「作品集」がリマスタリングを施されてリリースされた。もとは3つのLP、『ピアノ作品集』『諧謔の時代より』『四手のためのピアノ作品』だったもの。高橋悠治はこれらの録音と並行して、サティについて雑誌などに書いてもいた。1980年代に訪れるサティ・ブーム前夜のことだ。それは、多くの人々がサティと聴いて期待する何かが生まれる前の、1つの「サティ」が、ここに収められているということでもある。ややぶっきらぼうでペダリングも抑制気味な高橋の演奏は、アンチ・ブルジョワ、アンチ・アカデミアの、闘う作曲家としてのサティ像を浮かび上がらせているように聴こえる。思えば高橋も闘う音楽家だ。彼が抵抗歌の演奏団体、水牛楽団を組織したのは1978年のこと。ちょうどこの録音群と同時期にあたる。高橋はその後も繰り返しサティを録音しているから、当盤を起点に、いろいろ聴き比べてみるのも面白そうだ。(H.H.)

サティ/ピアノ作品集(2025年ORTマスタリング)
〔ジムノペディⅠ~Ⅲ,グノシエンヌⅠ~Ⅲ,嫌らしい気取り屋の3つの高雅なワルツ,スポーツと気晴らし,官僚的なソナチネ,バレエ《パラード》(4手連弾版),他〕
高橋悠治,アラン・プラネス(p)水野佳子(vn)村井祐児(cl)岡崎耕治(fg)
〈録音:1976年1月~80年1月〉
[デンオン – タワーレコード(D)TWSA1193~95]SACDハイブリッド ※タワーレコード限定
リマスタリングで特殊奏法が冴えわたる!
前述のサティ作品集と同時リリースの最新リマスタリング盤。サティから強い影響を受けたケージの、代表作の1つ《ソナタとインターリュード》(1946)が中心的に収録されている。個人的なことを書けば編集子は、この作品についてはジャンカルロ・シモナッキ演奏によるブリリアント盤で聴き始めたので、それが基準になっている。あちらは旋律線を感じさせる洗練された演奏が特徴だったけれど、高橋悠治の演奏はより即物的な印象のもの。こうした理知的な音響はケージが志向したインド思想への共鳴に一役買っている気がしなくもない。リマスタリングで、もろもろの打楽器的サウンド(何も細工していない鍵盤部分が際立って鮮やか!)がクリアに、冴え冴えと聴こえるようになった。この手の音楽にこそ、高音質が求められている。併録の黛作品は、ケージの影響を受けて作曲されたもので、弦楽器奏者(超豪華)との共演による。白石美雪氏による書き下ろしのライナーノートも必読。(H.H.)

ケージ:プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード,黛敏郎:プリペアド・ピアノと弦楽のための小品*(2025年ORTマスタリング)
高橋悠治(p),植木三郎,板橋健(vn)江戸純子(va)矢島三雄(vc) 〈録音:1975年12月,69年10月*〉
[デンオン – タワーレコード(S/D)TWSA1196]SACDハイブリッド ※タワーレコード限定
Text:編集部

