
あなたの知らない「ラヴェル」
生誕150年、モーリス・ラヴェル(1875~1937)! このことを祝して、レコード芸術ONLINEでは「ラヴェルと○○」という特別企画シリーズを始めています。
第2弾は「ラヴェルとレア物」!
名曲と名盤は多くのメディアで登場しますし、別記事でも取り上げられる予定ですので、ここではあまり知られていない珍しい作品や新発見の情報を、編集部セレクトで紹介します。
作曲者編による《ダフニスとクロエ》ピアノ・ソロ版
この記事を企画するきっかけとなったのが、シャマユによる『ラヴェル・フラグメンツ』の登場です(「ラヴェルとスペイン」の記事もご参照ください)。ラヴェル作品3曲のシャマユ自身による編曲と、ラヴェルに敬意を表した8人の作曲家による作品を集めたアルバムですが、ここに含まれているのが作曲者自身の編曲による《ラ・ヴァルス》と《ダフニスとクロエ》のピアノ・ソロ版です。特に《ダフニス》はこれまでほとんど録音がなかったものです。
この編曲(1913)は全体が《交響的断章》と題され、全曲から〈ダフニスの優雅で軽やかな踊り〉と管弦楽版の第1組曲全曲(夜想曲―間奏曲―戦いの踊り)、そして〈ダフニスとクロエの情景〉(第2組曲の〈パントマイム〉と同じ)からなっています。シャマユはこの3曲をアルバムの冒頭2曲目と中央、最後に配置して全体の統一に役立てています。すでに2016年にピアノ曲全集を発表しているシャマユのセンスには、拍手喝采を贈りたいですね。

ラヴェル・フラグメンツ
〔ラヴェル:ピアノ組曲《ダフニスとクロエ》~ダフニスの優雅で軽やかな踊り,夜想曲~間奏曲と戦いの踊り,ダフニスとクロエの情景 他〕
ベルトラン・シャマユ(p)
〈録音:2024年12月〉
[Erato(D)2173260123(海外盤)]
新発見!? カスタネット入り《ボレロ》
大名曲の《ボレロ》で新しい発見があるはずもないと思われていましたが、ラヴェルが最初は書き込んだものの後に削除したカスタネット・パートが、最近出版されたクリティカル・エディションで復活しました。これをこだわりの指揮者ロトがいち早く採用した録音がこちら。初演当時の楽器を揃えて演奏した響きの新鮮さもすばらしく、併録の歌劇《スペインの時》も含め、旧『レコード芸術』誌2023年7月号(最終号)で特選盤に選ばれた(國土潤一・小畑恒夫)のも当然のことでした。
ラヴェル初期の作品(1900~05年頃)で最近発見され昨年初演された、合唱・ソプラノ独唱と小管弦楽のための《シャンソン・ギャラント》(2024年7月9日、ルイ・ラングレ指揮レ・シエクルによる。ラジオ・フランスのページで試聴可能)は美しい舟歌風の小品で、リリースが待ち望まれます。記念年ですから、名曲か否かはともかくとしてこうした「新発見」にも大いに期待したいところです。

ラヴェル:歌劇《スペインの時》,ボレロ
フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮レ・シエクル 他
〈録音:2021年3月〉
[Harmonia Mundi(D)HMM905361(海外盤)]
歌曲集ではない《シェへラザード》
ラヴェルで《シェヘラザード》というと、最初に思い浮かべるのはソプラノと管弦楽のための歌曲集(1903)でしょう。ラヴェルはトリスタン・クリングゾール(1874~1966)の詩に東洋的な色彩を与えて付曲しています。
その数年前から、ラヴェルは「シェヘラザード」の物語をオペラ化する計画を立てて書き進めていたのですが、結局果たせず序曲(1898)だけが完成・初演されました。3管編成で10分ほどの作品で学生時代の習作ですが、すでにラヴェルらしい鮮やかな管弦楽法を聴きとることができます。トレヴィーノとバスク国立管によるアルバムは、曲への熱い想いが感じられる好ましい出来です。

ラヴェル/管弦楽曲集第2集
〔口絵(ブーレーズ編管弦楽版),《シェヘラザード》序曲,バレエ音楽《マ・メール・ロワ》他〕
ロベルト・トレヴィーノ指揮バスク国立管弦楽団
〈録音:2021年〉
[Ondine(D)ODE1416(海外盤)]
5手連弾のピアノ曲?
上のトレヴィーノ盤に管弦楽版が収録されている《口絵》(1918)も、レアなレパートリーです。というのは手が5本(!)必要なピアノ曲だから。リチャード・カヌード(1877~1923)の詩集「ヴァルダルの詩」の挿入曲として書かれた15小節の小品で、演奏時間は2分ほど。3つの異なるメロディ(調も違う!)が重なって、最後は最初に出てきたメロディが拡大してコラール調になって終わる不思議な曲です。ピアノ4手連弾に、5本目の手が高音域で鳥の鳴き声を奏でます(6~10小節)。
ラヴェルの生前に一度だけ演奏された記録があるようですが、忘れられていたこの曲を蘇演(1954)したうえに管弦楽に編曲(1987)までしたのが、あのピエール・ブーレーズというのが面白いところです。アンサンブル・セザミによる演奏と、トレヴィーノ盤を聴き比べてみるのも一興でしょう。

ラヴェル/室内楽曲全集
アンサンブル・セザミ〔ナーマン・スルチン,バルバラ・ギープナー,ジュリアン・ル・パープ(以上p)他〕
〈録音:2019~21年〉
[NoMadMusic(D)NMM104(海外盤,3枚組)]
最後はファンファーレで!
1927年、バレエ学校の経営者で芸術家のパトロンであるジャンヌ・デュボストが、10人の友人作曲家に合作バレエを委嘱しました。ジャック・イベールやアルベール・ルーセル、ダリウス・ミヨー、フランシス・プーランクなどが顔をそろえたなかで、ラヴェルは冒頭の《ファンファーレ》と全体のピアノ編曲を手掛けました。1分ほどの短いファンファーレですが、最初ピッコロがロ長調で奏ではじめるのに、続くフルートはヘ長調、トランペットは変ロ長調と違う調で吹き始めるという人を喰った仕掛けが楽しい曲です。アクセルロッド指揮による全曲盤もおススメですが、ここでは名録音で知られるスクロヴァチェフスキ盤の鮮烈な演奏をご紹介。《ダフニスとクロエ》第1・第2組曲も名演です(ここで記事の冒頭に戻る)。

ラヴェル:《ダフニスとクロエ》第1・第2組曲,他
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮ミネソタ管弦楽団 他
〈録音:1974年11月〉
[Vox(D)VOXNX3037CD(海外盤)]
Text:編集部(T.O.)