音楽評論家・城所孝吉氏の連載第15回は、ワーグナーの《ヴェーゼンドンクの5つの詩》を取り上げます。のちに《トリスタンとイゾルデ》を完成させるワーグナーが、その予告篇のように書いた傑作歌曲集を、じっくりと歌詞を味わいながら “熟聴” していきます。
ワーグナーの《ヴェーゼンドンク歌曲集》は、わかりにくい作品である。この曲が、作曲家とマティルデ・ヴェーゼンドンクの道ならぬ恋を背景としていることは、読者もよくご存じだろう。マティルデは、彼との関係を詩に書き込んだが、ワーグナーはその体験を(同様に不倫の愛をテーマとする)《トリスタンとイゾルデ》へと昇華した。それは、納得のいく話である。
しかし、実際の歌詞を読んでみると、率直に言って意味がわかりづらい。それは無理もないだろう。マティルデは、秘めた情事を扱った内容を、わざとわからないように書いているからである。あるいは、わかってほしいという発露への欲求と、隠したいという気持ちがせめぎ合って、言葉を濁している(既存の翻訳が、真意がわかるように訳していない、という問題もある)。それゆえここでは、詩句を私の解釈のもとに訳し直し、隠された意図がわかるようにしてみたい。
第1曲-自分を救ってくれる「天使」とは?
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