ここでは、最近発売(発売前を含む)されたリイシュー&BOX盤のなかから注目盤を厳選して紹介します。
英国音楽だけではない――ボールトの全貌を示すステレオ録音全集
9月にこの欄でご紹介した「モノラル期BOX 1920~1957」の続編で、ステレオ期のワーナー・クラシックス(旧パイ・ニクサおよび旧EMI)へボールトが行なった録音を集大成した79枚組BOXである。ここには指揮者ボールトを代表する録音のほとんどが集められているといっても過言ではないだろう。
ビーチャムやサージェントの存在が大きかったのか、ステレオ初期のEMIはボールトとの録音にあまり積極的ではなかった(あっても協奏曲の伴奏ばかりだった)ので、その時期のボールトはパイやデッカ、リリタを中心に録音していた。しかしビーチャムが世を去ったのち、1960年代半ばになってようやくこの巨匠の存在の大きさに気付いたのか、EMIはそれ以降1978年の最後の録音(89歳で録音したパリーの交響曲第5番ほか)に至るまで、70代後半~80代後半のボールトと膨大な数の録音を行うことになったのである。
ここにはホルストの《惑星》の録音が2種(5回録音したうちの最後の2回)あるのをはじめ、「エルガー/交響曲全集&主要管弦楽・声楽作品集」、「ヴォーン・ウィリアムズ/交響曲全集&主要管弦楽・声楽作品集」といったボールトならではの英国音楽が大きな位置を占めている。そしてそれらが、それぞれの作品の代表的な演奏であることから、多くのファンもこの分野ばかりに注目しがちである。しかし、ボールトの業績としてぜひ注目していただきたいのは、英国音楽以外の録音にも優れた録音が多いこと。特に王道ともいえる独墺系作品に、いぶし銀のような味わいの深い録音が数多く残されていることだ。
交響曲第1番でメニューインがソロを買って出たという逸話が残る「ブラームス/交響曲全集&主要管弦楽作品集(2曲の《セレナード》と《アルト・ラプソディ》も含む)」、「バッハ/ブランデンブルク協奏曲全曲」、LPでは全4枚でリリースされた「ワーグナー/主要管弦楽作品集」、単発だがベートーヴェンの《田園》やシューベルトの《ザ・グレート》等がこのBOXには収録されていて、晩年のボールトによる、これらの作品の本質をとらえた堂々たる演奏を堪能できる。モノラルBOXと合わせ、ボールトという指揮者の芸術を俯瞰できる必携のセットといってよいだろう。
なお、オリジナルLPがスコットランドのWaverleyレーベルからリリースされていた、スコティッシュ・ナショナル管弦楽団とのエルガーの交響曲第2番(1963年録音)が所収されているのも、これまであまり顧みられてこなかった演奏であるだけに大変ありがたい。(T.N.)

「サー・エードリアン・ボールト/ワーナー・クラシックス・ステレオ録音全集1956~1978」
エードリアン・ボールト指揮 フィルハーモニック・プロムナードo(ロンドンpo),ロンドンpo,ロンドンso,フィルハーモニアo,スコティッシュ・ナショナルo,他
〈録音:1956年~1978年〉
[Warner Classics(S)2173258504(79枚組,海外盤)]
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異端派から世界標準へ。アーノンクール&ヨーロッパ室内管の足跡28枚組BOX
「善人なおもて往生を遂ぐ、いわんや悪人をや」的に言うと「ファン必携、いわんやアンチをや」とでも言おうか。アーノンクールがテルデックに遺した膨大な録音のうち、今回BOXに纏められた、いわば最も “ノッて” いた時期の1990年代を改めて一気呵成に聴いてみれば、まだまだ賛否両論あった当時からすると、すっかり「世界標準」になったようにも思える。その問題の(?)アーノンクールの音楽作りについては、さんざん語られてきたので、ここでは豪華かつ実は当を得た共演者について少々。器楽ではベートーヴェンの協奏曲でのエマール(p)ツェートマイアー(vn)、声楽ではグルベローヴァ(S)ロルフ・ジョンソン(T)ホル(Bs)といったビッグネームに加え、マルジオーノ,オルゴナソーヴァ(S)ヴァン・デア・ヴァルト(T)といった実力派、意外なところでエヴァ・メイ(S)などが顔を出してくれているのが楽しい。こうした粒よりの名演奏家たちがアーノンクールの録音プロジェクトに集結し、一大ドキュメントを成した点も再度見(聴き)直したいところだ。 (Y.F.)

アーノンクール・コンダクツ・ヨーロッパ室内管弦楽団-テルデック録音全集〔1990年録音のベートーヴェン交響曲全集から2004年の同《三重協奏曲》まで。その他モーツァルト,シューベルト,シューマン,メンデルスゾーン,ドヴォルザークの作品〕
ニコラウス・アーノンクール指揮ヨーロッパ室内o,ピエール=ロラン・エマール,マルタ・アルゲリッチ(p)トーマス・ツェートマイアー,ギドン・クレーメル(vn)エディタ・グルベローヴァ(S)マルヤナ・リポヴシェク(A)アントニー・ロルフ・ジョンソン(T)ロベルト・ホル(Bs)他
〈録音:1990年6月~2004年6月(一部L)〉
[テルデック(D)2173296713(28枚組+1DVD,海外盤)]
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シベリウスの交響曲の新たな地平を提示した「決定盤」の世界初SACD化
商品の帯に「シベリウス演奏の第一人者ベルグルンドによる最終結論」ともある通り、1972年~77年のボーンマス響との1回目の全集、1984年~87年のヘルシンキ・フィルとの2回目[以上Warner Classics]に続く、3回目の交響曲全集(この後1998年収録の映像も遺されている)がSACD化された。となると、最新マスタリングによるさらなる音質向上がメインテーマであり、例えば「第5番」第3楽章などでの透明感がより一層極まった印象で、感銘しきりなのだが、一方で個人的には、ボーンマス響、ヘルシンキ・フィルとの旧録音も無性に聴き直したくなった。ここでディテールを書くことはできないが、もちろん指揮者ベルグルンド本人の変貌もありつつ、各(録音)年代に聴く側がシベリウスにどんなイメージを求めていたかも窺える、という点でも興味深く、ヨーロッパ室内管との録音は「最終更新版」というより「第3ヴァリエーション」ではないか、との思いも新たにした。 (Y.F.)

シベリウス: 交響曲全集(第1番~第7番)
パーヴォ・ベルグルンド指揮ヨーロッパ室内o
〈録音:1995年9月~1997年10月〉
[フィンランディア-タワーレコード(D)TDSA10027(3枚組)]SACDハイブリッド
理想的な邂逅――エリシュカと札幌響のドヴォルザーク
ラドミル・エリシュカと札幌交響楽団によるドヴォルザークの交響曲ライヴ録音を1枚に集成したSACDシングルレイヤーが登場した。もとはパスティエル・レーベルから発売されていた音源を、アルトゥスが新たにリマスタリングしたものである。長年チェコ国内を主な活動の場としてきたエリシュカは、2004年の初来日により日本の聴衆に“発見”され、その後2017年の最後の来日まで、各地のオーケストラに客演を重ねたことは周知のとおりだ。なかでも札幌響とは格別の相性の良さで知られ、首席客演指揮者(のちに名誉指揮者)として名演を繰り広げた。本盤のドヴォルザークも、札幌響がもつ北欧オケを思わせる透明な響きと相俟って、端正で実直な音づくりが印象的だ。その一方で、スケルツォ楽章などには、仄かに“お国訛り”を感じさせるニュアンスが滲み出て味わい深い。蛇足ながら、本盤のようにシングルレイヤーSACDの長時間収録を活かした企画がもっと増えて欲しいものだ。 (M.K.)

ドヴォルザーク/交響曲集
〔第5番~第9番《新世界より》〕
ラドミル・エリシュカ指揮 札幌so
〈録音:2008年4月~2013年4月〉
[アルトゥス-タワーレコード(D)ALTWSA1001]SACDシングルレイヤー
ダニエル・バレンボイム、パリ管監督時代
ダニエル・バレンボイム(1942~)は1975年、33歳でパリ管の音楽監督に就任する。このCD-BOXに収められているのは、彼が音楽監督のポストにあった89年までの「指揮者」としての録音群。くれぐれも「ピアニスト」としての彼目当てで買ってはいけない。ファリャの《スペインの庭の夜》もあるが、これはアルゲリッチがピアノを弾いている。BOXの大半を占めるのはトラッドなクラシック音楽レパートリー。ビゼーの《カルメン》第1組曲や交響曲、他にモーツァルトとフォーレそれぞれの《レクイエム》などがある(フォーレクではフィッシャー=ディースカウが独唱を歌っている!)。数々の同曲異演と比べられる点で、賛否両論を受けてきた、彼の指揮が持つどこか控えめな性格をよく感じられるのは、きっとこのあたり。そして同じくらい注目すべきは同時代作曲家の作品群。彼はとくにブーレーズと親交が深くて、収録されている《ノタシオンI-IV》管弦楽版の初演者でもある。(H.H.)

ワーナークラシックス・エディション~EMIクラシックス&エラート録音全集
〔モーツァルト:交響曲第41番《ジュピター》K.551,フォーレ:レクイエム,ストラヴィンスキー:春の祭典,デュティユー:交響曲第1番,同第2番《ル・ドゥブル》,デニソフ:交響曲第1番,ブーレーズ:リチュエル(ブルーノ・マデルナの追憶に),ノタシオンI-IV(管弦楽版),他多数〕
ダニエル・バレンボイム指揮 パリo 他
〈録音:1972年9月~89年5月〉
[Warner Classics(S/D)2173286661(15枚組,海外盤)]
※2026年3月6日発売予定
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オイストラフ、旧EMI協奏曲名演集を最新SACDで
ダヴィッド・オイストラフが旧EMIに残した協奏曲録音の名演を集めたSACDが登場した。2023-24年にオイストラフBOXのためにArt & Son Studioで行なったリマスタリング音源を元に、今回のSACD用にフランスのCirce Studioで新たにDSDリマスタリングを行なっている。音質向上の成果は今回も明らかだが、とりわけモノラル録音の充実ぶりには目を見張らされる。たとえばシベリウスの協奏曲冒頭を聴けば、これが1954年の録音とは俄かに信じがたいほどの生々しさに驚かされるだろう。そこに刻まれているのは、時代を超えてなお鮮烈な、オイストラフの唯一無二の個性である。今日においても、ヴァイオリン表現の可能性はコパチンスカヤや佐藤俊介らによって果敢に切り拓かれている。しかし、楽器を極限まで豊かに響かせ、その充溢した音楽性によって聴き手を圧倒するという方向性において、オイストラフを凌ぐ存在はいまだ現れていないのではないか。その意味で、彼が指揮まで兼ねたモーツァルトの協奏曲全集は、まさに空前絶後の金字塔と呼ぶにふさわしい。なお、ブラームスの協奏曲はクレンペラーではなく、セルとの共演盤を収録。ベートーヴェンの三重協奏曲は、有名なカラヤンらとの録音ではなく、オボーリン、クヌシェヴィツキー、サージェントとの共演盤が選ばれている。芳岡正樹氏ほかによる充実した日本語解説も付されており、資料的価値の面からも見逃せない一枚といえるだろう。(M.K.)

オイストラフ~名ヴァイオリン協奏曲集
〔ブラームス,ベートーヴェン,シベリウス,ラロ,ブルッフ,モーツァルト,プロコフィエフ,ショスタコーヴィチ,他〕
ダヴィッド・オイストラフ(vn,指揮)アンドレ・クリュイタンス,マルコム・サージェント,ジョージ・セル,シクステン・エールリンク,ジャン・マルティノン,ロヴロ・フォン・マタチッチ(指揮)他
〈録音:1954~1971年4月〉
[ワーナー・クラシックス(M,S)2173296092(6枚組)]SACDハイブリッド
お騒がせピアニスト(?)ガヴリーロフの初期録音
アンドレイ・ガヴリーロフ(1955~)は、1974年に歴代最年少の18歳でチャイコフスキー国際コンクール優勝を飾る。76年にはEMIと専属契約を結び、世界的スターとして注目の的になる。順風満帆に思えたピアニストはまもなく沈黙する。ソ連体制への批判を行ったために、KGB監視下の軟禁状態に置かれたのだ。彼の発言力を当局は恐れていたに違いない。解放され、国外での演奏と録音を再開するのは、指導者がゴルバチョフに代わる84年まで待たなければいけなかった。このCD-BOXに収められているのは、そうした激動の初期キャリアの記録。ガヴリーロフといえばその後の連続キャンセル事件と8年間の演奏休止をはじめとして、彼自身の尖ったエピソードでも知られるけれど、演奏もまた奔放さが特徴で、そしてそれが彼の美点でもある。たとえば79年に録音されたギドン・クレーメルとの共演によるヒンデミットやシュニトケの盤(BOXのDisc21)では、両者の強烈な個性が、激しく美しい花を咲かせている。(H.H.)

ワーナークラシックス録音全集
〔ショパン:練習曲集Op.10 & 25(全曲),スクリャービン:24の前奏曲より,ピアノ・ソナタ 第4番,プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第1番,ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番,シュニトケ:ヴァイオリン・ソナタ第2番,他多数〕
アンドレイ・ガヴリーロフ(p)ギドン・クレーメル(vn)サイモン・ラトル指揮ロンドンso,ウラディーミル・アシュケナージ指揮ロイヤルpo,他多数
〈録音:1977年7月~79年7月,83年11月~89年11月,98年12月〉
[Warner Classics(S/D)2173281845(21枚組,海外盤)]
※2026年3月13日発売予定
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Text:編集部

